俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

ノエル

俺にとっては初めての…

そして迎えたクリスマスイブ当日。
「フランシス」は休日はランチが無い。前日の振り替え休日となっている今日はランチが無いので、俺は今日は休みだ。

先週の金曜日に、初めてボーナスというものをもらって俺はちょっと浮かれてた。
だって！　ボーナスだよ？
無縁だと思っていたこの心地いい響きがするものを、手にすることが出来るなんてすごいじゃん！

ちょっぴり浮かれた俺は、アトリエに未だ籠っている灰咲さんを横目に、クリスマスケーキと灰咲さんようにシャンパンを、俺用にはジュースでも買って来ようと家を出た。

普段は行ったことなんてない、女性が好きそうな可愛らしいケーキ屋さんにドキドキしながら足を踏み入れた。ショーケースの中には、チョコレートや生クリームでデコレートされた様々なケーキが陳列されている。
中には、テレビなんかで見かける丸いバースデーケーキのようなものに、サンタやトナカイが乗っかっているケーキ意外に、まるで丸太のような形をし、チョコクリームがこれでもかと言うくらいに詰め込まれたものまであった。

……いろんな形のものがあるんだなあ。

クリスマスやらケーキやら、今までの俺には無縁な物だったから、見ているだけでも楽しいけど。

どうやらやはりクリスマスのイベント事でケーキは欠かせない物らしく、どれにしようかと迷う俺の横で飛ぶようにケーキが売れていく。しかも少人数の家庭が多いのか、小さい手ごろなサイズの物からなくなっていくみたいで、俺も慌てて丸太のようなケーキのサイズの小さい奴を購入した。

「良ければシャンメリーもいかがですか？」

シャンメリー？
なんだ、ソレ。

「えっと、ソレ……大人の人でも美味しいものですか？」
「……あー、家族全員で楽しんでいただけるものですけど……。大人の方には甘すぎると思われる方もいらっしゃるかもしれませんね」

ちょっと迷ったけど、俺はまだ未成年だからシャンパンは飲めないし、俺用という事で一本だけ購入することにした。

いつも行くスーパーにあるお酒のコーナーでシャンパンを探してみたけど、結局どれがいいのか今一なのかもよくわからなかった。
だいたい灰咲さんの好みも分からないし。

という事で、迷った挙句勝手に俺が美味しそうだと思った国産の白ワインを買った。
まあ、早い話見た目で選んだだけだけど。

それでも、なんだかホクホクしてきた。
クリスマス用の買い物をしているだけで、この楽しそうなイベントに参加しているんだなって気持ちになれる。今まではただみんなが楽しそうにしているのを見るのが辛くて、早く過ぎ去ってくれないかなって思ってばかりいたんだけど。

今日は「フランシス」で夕飯を食べるつもりだから、食材を買って帰ることもない。家路を急ぐ俺の目に、灰咲さんの行きつけの一つである画材店が目に入った。