俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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これが初恋

我儘が叶うのなら傍にいたい

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俺が入るスペースを空けてくれた灰咲さんのベッドに乗っかり、そのままの勢いで俺は灰咲さんに抱き着いた。
灰咲さんは本当に驚いたようだったけど、そのまま何も言わずに俺の背中に腕を回した。
だけど灰咲さんに優しく抱きしめられても、俺の恐怖心は一向に収まる気配が無かった。

「怖いんだ、俺……。もしかしたら俺もあいつみたいに殺されるのかもしれないって思ったら……」

俺の言葉に、背中に回った灰咲さんの腕の力が強くなる。

「それに……、それにもしかしたら、灰咲さんにまで迷惑かけるかもしれない」
「尚哉……」
「俺……、やっぱり関係ない灰咲さんにまで迷惑なんてかけられない……」

だって、あの夢のような事が起こらないと誰が言える?
望月さんは店にチクったりはしないだろうけど、もしも別の誰かが俺の居場所を知ってしまったら……?
もしもそれが店長に近い奴だとしたら……?
きっと、俺を匿ってくれている灰咲さんにも酷いことをしかねないだろう。

灰咲さんと離れるなんて考えたくもない。だけど、俺のせいで灰咲さんを危険な目に合わせるのはもっと嫌だ。

「やっぱり俺……、望月さんの所に行った方が……」
「バカなことを言うな!」

グイッと体を引き離し、灰咲さんが俺の目を見た。

「それで? それでお前はまた、元の生活に戻るというのか?」
「そんなつもりは無いよ!」
「あの望月という野郎がどれだけ信用できるんだ? それに、そんなことをしてみろ。俺はお前を取り戻しに単身でその店に乗り込むぞ」
「灰咲さん!!」

真剣な表情で言う灰咲さんに驚いた。灰咲さんは、そんな俺の表情を見て息を吐いた後、体を離してベッドに横になる。

「下らんことは考えるなと、今日言ったはずだろ? さっさと寝ろ」

聞く耳を持たないと言った風情で、灰咲さんはそのまま目を閉じて寝る態勢だ。

……灰咲さんがさっき言ったのは、多分本気だ。彼は、そういう人だ。

「…………」

俺もそのままそこで横になって、上から灰咲さんにギュッと抱き付いた。
灰咲さんはそんな俺の仕草に目を開けて、俺の方に視線を向けた。

「ごめん……」
「……ばか」

抱き付く俺の体をそっと離して体を横向きにして、二人、向かい合う格好になった。
そして灰咲さんが俺の顎に手をやり上向かせ、目と目をしっかりと合わせる。

「もう迷惑かけるだのなんだのと、バカなこと言うんじゃないぞ」

……灰咲さん。

サングラスを掛けていない、綺麗で穏やかで優しい瞳が俺をじっと見ている。

……ああ、そうか。
灰咲さんが俺に優しい言葉を掛けてくれている時は、こんな優しい表情で俺のことを見てくれてるんだ。
……どうしよう。
こんな時だっていうのに、凄く幸せな温かい気持ちになっていく。

「? なに?」

俺が呆けた表情で見つめ続けたせいだろう。灰咲さんが、小首を傾げた。

「うん……。だって、すっごい優しい顔してるから……」

ここまで言って、ちょっぴり恥ずかしくなった俺は、茶化した感じで付け加えた。

「いつもはもっと、こーんな感じなのに……」

俺はクスクスと笑いながら、手で自分の目を隠し、両人差し指で眉を吊り上げて見せた。そんな俺の冗談で、灰咲さんは自分が今素顔だという事に気が付いたらしい。
一瞬、パッと顔を赤くした後、ベッドのそばにあるチェストの上に置かれているサングラスを取ろうと手を伸ばした。

「あー、ダメ―! 掛けないで!」

サングラスを取らすまいと、俺は灰咲さんの体にダイブしてそのままベッドに押し倒した。で、今、俺は灰咲さんの体の上に乗っかる態勢になっている。
揶揄われて、赤くなっている灰咲さんが可愛い。

「お前は~っ」
「だって~。サングラスしてない方が可愛いんだもん」

灰咲さんとじゃれつくのが楽しくて可笑しくて、俺はそのまま灰咲さんを押し倒したまま笑い続けた。
しばらく赤い顔で怒った顔を作っていた灰咲さんは、急に真顔になって俺の顎に手を掛けた。

「やっぱり――」
「……?」
「お前は、笑ってる方がいいな」

そう言いながら灰咲さんが俺を引きよせ抱きしめた。背中にも頭にも腕を回されて、ぴったりと灰咲さんの体に密着する。

あ……。

ああ、やっぱり。
やっぱり灰咲さんの腕の中は安心できる。
やっぱり俺、灰咲さんから離れたくない。出来ればずっと一緒に居たいよ……。

ほんの少し、抱きしめる腕の力を抜いた灰咲さんが、至近距離から俺をじっと見つめた。


見つめて……、俺の唇に、灰咲さんが唇を寄せて来た。
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