俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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ケジメをつけるために

北原との再会

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戸を開けて入って来たのは、浅黒い肌で眼光鋭い姿はそのままの、あの頃よりも貫禄を増した北原だった。

「……お久しぶりです。龍さん」
「久しぶり。――だいぶ、貫禄がついたな……」
「いえ、……龍さんも、大人になられましたね」

北原は懐かしい目で俺を見た後、少し自嘲したようななんとも言えない表情になった。俺らの間には、独特な空間が出来上がっている。それは懐かしさでもあり、触れたくないものであったりと、出来れば直視したくない微妙な感情が絡んでのものだ。

「あー、もう! 何二人で見つめあってんのさ! 北原は、なに? 龍兄が来たから親父に呼び出されたのか?」
「はい」
「……ふうん。じゃあ今日は俺も休んじゃおうかな。一日くらいのんびりしても構わねえだろ?」
「それは構いませんが、四月にある情報セキュリティの試験に合格する自信はおありなのでしょうね?」

……情報セキュリティ?

「相変わらず嫌味な言い方するよな。大丈夫だよ! 今日一日龍兄にべったりしたら、明日からはまた通常通りにするからさ」

話しの内容はよくわからないが、雅高の話していた俺に言えないことに直結しているのだろうか?
だが、試験って?

俺が訝しい表情をしていることに気が付いた雅高が、俺に向かって二ッと笑った。

「龍兄―! てことでー、今日一日龍兄にべったりするぞー」

そう言って、宣言通り雅高が俺にギュッと抱き着いた。

「おいおい……」
「ねえ、龍兄」
「なんだ?」
「……その枇々木って奴と、ヤったの?」
「――何?」
「だから、そいつウリだったんだろ? 龍兄そいつと寝たのかよ?」
「雅高さん!」

窘めるように口を挟んだのは杉藤だった。だが、雅高はそんなことは気にせずにさらに俺を問いただす。

「煩い! 杉藤、お前には聞いてない」
「――ヤってない。大体、そのウリってのも自分から進んで行ったんじゃないぞ」
「わぁってるよ、そんなこと。一応事情は聞いたし。……けど、らしくないよな。龍兄ってさ、そんなに他人に積極的にかかわるタイプじゃ無かっただろ?」
「……そうだったかもな」

「気に入らないんですよね」
「――なに?」

今まで黙って俺らの話を聞いていた北原が口を挟んだ。

「気に入らないと言ったんです。龍さんはこの家が嫌で飛び出たのでしょう? それなのに、わざわざそんな他人を助けるために、親父さんの力を当てにするなんて……、俺は反対でしたよ」

「そういやお前、最後まで親父に反対を言い続けてたな」
「…………」

「でもさ、結局は龍兄のおかげで俺らもうまい汁が飲めるようになったし、懐具合もだいぶ温かくなったんだぜ? 結果オーライじゃん」

「そうですね。……それがあったから俺も、何とか矛を収めたんですけど。そうじゃ無ければ、甘い親父さんの代わりに俺が龍さんに制裁を加えに行ってましたよ」
「若頭! 口が過ぎます」
「お前が甘すぎるんだ!」

剣呑な雰囲気を放つ北原に杉藤が諫めに掛かったが、逆にピシャリと返り討ちにあった。

「――龍さん」
「……なんだ」
「三度目は絶対に無しですよ。そうでなければその枇々木とかいうお荷物を、龍さんから切り離しに行きますからね」
「……三度目は絶対に無い」
「そう願います」

察しはついてはいたが、やはり北原はまだ俺のことを許しきれてはいないようだ。奴は一礼して、そのまま部屋を出て行ってしまった。
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