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ケジメをつけるために
雅高の恋心
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「……ったくよー。頭固ぇんだあいつ」
「でもあいつが一番、龍さんのことを諦められずにいたわけですからね……。きっと複雑な気持ちなんですよ。分かってやってください」
「――ああ、分かってる」
北原のことは、親父も一番信頼していた。そして、守役として俺を一生懸命育て上げようとしていた。あいつにとってはそれは、何もかもが俺の為になると信じてやってきていたことだ。諫める時も窘める時も……。
それは俺だって理解しているんだ。ただ、考え方がどうしても交われなかっただけで――。
「雅高さん、龍さん、俺もここで失礼します。やり残していることがありますので」
「ああ、分かった。後でな」
「失礼します」
杉藤も一礼してこの部屋を出て行った。雅高が、くるりと俺を振り返る。
「なあ、しつこいかもしれないけどまだ聞いてもいい?」
「何をだ?」
「……その枇々木って奴のこと、好きだったりするのか?」
「――なんでそんなことが知りたいんだ」
「あー、もうっ! やっぱりそうなのかよ!」
そう言ったかと思うと、雅高は後ろのベッドに俺をいきなり押し倒した。
「――おい」
「抱いてよ。そうじゃなきゃ、俺が龍兄を抱く」
「バカ言って……」
俺を押さえつけていた力を強めて、雅高が体を密着させた。そして首裏に手を差し込んで唇を押し付ける。
咄嗟のことで抵抗できずに、口腔内を蹂躙された。
「……っん……」
なんとか引き剥がそうとするが、がっちりと抑え込まれていてびくともしない。
この……、バカ力め!
しょうがないので窮屈な体勢から何とか膝を折り曲げて雅高の股間をグニッと押すと、奴は「うわっ!」と悲鳴を上げて飛びのいた。
「な……、何すんだよ! 龍兄のバカッ」
「それはこっちのセリフだろ」
よいしょと起き上がり、背中を壁に預けた。
「だいたい――、お前の好きな奴は俺じゃないだろ?」
呆れながら諭すように言うと、雅高は一気に動揺し顔を真っ赤にさせた。
「な……、なに言ってんだよ。俺は龍兄のことが小さいころからずっと……!」
「違うだろ? お前は俺の立場を羨んでいただけだ。俺の背後に常にいる、北原のことが、」
「違う! お、俺が好きなのは――」
「好きなのは? ――ったく、真っ赤な顔して。俺にまで隠し事することないだろーが」
「……っ、だ、だって……」
大きく育ったくせにまだまだガキなのか、雅高は不貞腐れたようにもじもじとシーツをいじりながらボソボソ言い訳を始めた。
「あいつは……、北原は……龍兄のことだけじゃん。今だってそうだろ。じゃなけりゃ、あんなに……、あんなに龍兄のことにムキになるわけないだろ……」
「そんなことは無いと思うけど。……ただ確かに北原はあまり表情を顔に出さないから、本心とかは分かり辛いか」
「うん……」
「でもな、だったらお前は余計に素直でいろよ。こと恋愛に関してはさ」
「…………」
「じゃないと、後で後悔しても始まらんぞ?」
「――う……ん」
そう返事をしながらも、雅高はまだグダグダ思っているのか相変わらずシーツをいじり続けている。
まったく。
何で俺なんかが、恋愛指南なんてしてるんだ?
それに、もしも本気で跡目を継ぐ気でいるのなら――
いや、本当なら解散して堅気になってくれた方がいいのだとは思うが。
『今は、無理だ』
そうだな……。ここを捨てて出て行って、挙句困った時だけ頼みに来るような俺が口を挟む権限なんてあるわけ無いか。
だけど、と思う。
そんな俺だからこそ、もしも皆が堅気になることを決めた時には、何か手助けが出来るくらいになっていたいと切に思った。
「でもあいつが一番、龍さんのことを諦められずにいたわけですからね……。きっと複雑な気持ちなんですよ。分かってやってください」
「――ああ、分かってる」
北原のことは、親父も一番信頼していた。そして、守役として俺を一生懸命育て上げようとしていた。あいつにとってはそれは、何もかもが俺の為になると信じてやってきていたことだ。諫める時も窘める時も……。
それは俺だって理解しているんだ。ただ、考え方がどうしても交われなかっただけで――。
「雅高さん、龍さん、俺もここで失礼します。やり残していることがありますので」
「ああ、分かった。後でな」
「失礼します」
杉藤も一礼してこの部屋を出て行った。雅高が、くるりと俺を振り返る。
「なあ、しつこいかもしれないけどまだ聞いてもいい?」
「何をだ?」
「……その枇々木って奴のこと、好きだったりするのか?」
「――なんでそんなことが知りたいんだ」
「あー、もうっ! やっぱりそうなのかよ!」
そう言ったかと思うと、雅高は後ろのベッドに俺をいきなり押し倒した。
「――おい」
「抱いてよ。そうじゃなきゃ、俺が龍兄を抱く」
「バカ言って……」
俺を押さえつけていた力を強めて、雅高が体を密着させた。そして首裏に手を差し込んで唇を押し付ける。
咄嗟のことで抵抗できずに、口腔内を蹂躙された。
「……っん……」
なんとか引き剥がそうとするが、がっちりと抑え込まれていてびくともしない。
この……、バカ力め!
しょうがないので窮屈な体勢から何とか膝を折り曲げて雅高の股間をグニッと押すと、奴は「うわっ!」と悲鳴を上げて飛びのいた。
「な……、何すんだよ! 龍兄のバカッ」
「それはこっちのセリフだろ」
よいしょと起き上がり、背中を壁に預けた。
「だいたい――、お前の好きな奴は俺じゃないだろ?」
呆れながら諭すように言うと、雅高は一気に動揺し顔を真っ赤にさせた。
「な……、なに言ってんだよ。俺は龍兄のことが小さいころからずっと……!」
「違うだろ? お前は俺の立場を羨んでいただけだ。俺の背後に常にいる、北原のことが、」
「違う! お、俺が好きなのは――」
「好きなのは? ――ったく、真っ赤な顔して。俺にまで隠し事することないだろーが」
「……っ、だ、だって……」
大きく育ったくせにまだまだガキなのか、雅高は不貞腐れたようにもじもじとシーツをいじりながらボソボソ言い訳を始めた。
「あいつは……、北原は……龍兄のことだけじゃん。今だってそうだろ。じゃなけりゃ、あんなに……、あんなに龍兄のことにムキになるわけないだろ……」
「そんなことは無いと思うけど。……ただ確かに北原はあまり表情を顔に出さないから、本心とかは分かり辛いか」
「うん……」
「でもな、だったらお前は余計に素直でいろよ。こと恋愛に関してはさ」
「…………」
「じゃないと、後で後悔しても始まらんぞ?」
「――う……ん」
そう返事をしながらも、雅高はまだグダグダ思っているのか相変わらずシーツをいじり続けている。
まったく。
何で俺なんかが、恋愛指南なんてしてるんだ?
それに、もしも本気で跡目を継ぐ気でいるのなら――
いや、本当なら解散して堅気になってくれた方がいいのだとは思うが。
『今は、無理だ』
そうだな……。ここを捨てて出て行って、挙句困った時だけ頼みに来るような俺が口を挟む権限なんてあるわけ無いか。
だけど、と思う。
そんな俺だからこそ、もしも皆が堅気になることを決めた時には、何か手助けが出来るくらいになっていたいと切に思った。
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