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形見を探しに

寮一番の美少年

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「飯まで時間あるよな。自習室行くけど、お前らどうする?」

筆記用具を持って立ち上がり、颯太がみんなに声をかける。雄大も、さっと立ち上がって「俺も行く」と返事をした。ほかに平吉も続いたが、泰三はそのまま残ると言った。

「由良や染吉がそのうち戻ってくるからさ。ちょっと待ってるよ」
「そう言って、またここでゴロゴロしてるんだろー」
「当たり! ま、明日は俺も自習室に行くよ。今日は行かねぇ」

そのやり取りを聞いていた朔也も立ち上がった。
「僕らも行くか」
「ええ~…。うん…」

しょうがないので藤も筆記用具を持って立ち上がろうとした。そこに朔也が手を差し伸べる。藤が手のひらを乗っけると、そこから朔也の温かい"気"が流れ込んできた。
みんなの一瞬の隙をついての食事。
藤はパッと顔をあげ、無理だとは分かっていても「もっと欲しい」とばかりに朔也にくっ付き、額をぐりぐりと押し付ける。

「後でな」

一連の行動で、既にみんなの注目の的になっているのに気が付いた朔也は、藤の頭をポンポンと叩いて離れるように促した。だけど藤は意固地になって更にぎゅうぎゅうとくっ付く。

「なんだよ、その甘えっぷり」

冷たく棘のある声が突然降ってきた。
びっくりして顔を上げた視線の先にいたのは、開け放たれたドアの向こうにいる、取り巻きを従えた天月の姿だった。
敵意むき出しの冷たい天月の表情にびっくりして、藤は朔也の袖をギュッとつかんだ。

「でも…、いいね、その場所」

意味深に藤に微笑んだ天月は、そのまま踵を返して取り巻きと一緒に去って行った。

「天月、朔也の事ホントに気に入ったみたいだな」
そばで寝転んで天月の様子を黙ってみていた泰三が、感心したようにぽつりと呟いた。

「…え?」

方眉を上げて低い声で聞き返す朔也の様子は、とても嬉しいといった感じではない。

「何?朔也ってば、嬉しくないのか?」
「どう考えても面倒臭いだろ、あれは」

東雲きっての美少年と噂されている天月を、面倒臭いの一言で切って捨てる朔也にその場にいたみんなが感嘆の声を上げる。

「すっげーな、朔也! 天月に声かけられて靡かなかった奴なんて、今まで見たことないぜ俺!」

興奮気味に話す颯太に、朔也は呆れたような眼を向けた。

「お前だったらどうなんだよ。天月に迫られたら落ちるのか?」
「あー…。グラグラ来るだろ、そりゃ。あの目、スゲー色っぽかったもん」

どうやら颯太は教室での天月の表情を思い出しているらしい。目を宙に向けて頬を染めている。

「大丈夫だよ。颯太が迫られることなんてあるわけないから」
「おいおい、どういう意味だよー」
「そういう意味だろ!」
「ひっでー」

大声で笑いながら皆で廊下を歩く。朔也と藤はその一番後ろを、手をつないで歩いていた。もちろん朔也からの食事つきだ。


ふてくされそうになる心を、朔也からの気持ちのいい"気"で癒されながら、藤は皆と一緒に自習室へと歩いて行った。
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