ドラゴンアース anotherstory ‐死の魔女‐

とと

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ミレアの謎

5.

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動く死体ゾンビは斬っても斬っても、活動を停止させなかった。

一千の爬虫類系亜人の軍は、五百の死の軍隊に対し、二対一の戦法をとり、ゾンビをバラバラにしたり、スケルトンを粉々に破壊したりし、何とか死の軍隊の数を減らしていった。

しかしそれなりに犠牲は付き物で、リザードマン、スネークマン、タートルマン、それに乗り物用の恐竜などの死体も、あちらこちらに散乱していた。

決戦場と化した野原は、あまりにも暫激が凄く、血臭や様々な肉片、そして死臭のせいの嘔吐が、緑の野原を汚していった。

死の軍隊の数も残りわずかとなり、誰もがラッドビード王国の勝利を疑わなかった。

後は、動く龍骸ドラゴンスケルトンキーカンバーと、それを操るミレアを倒すだけ。

それで戦闘は終わる。

もはや骨と化したキーカンバーに闇高熱の息吹ダークヒートブレスはない。息吹を吹く肺がないからだ。

もはやキーカンバーに注意することは、踏み潰されないことのみ。

「国王、私の魔法でミレアもろとも闇龍を倒します…」

馬に跨がったパラガスが、近くにいる蜥蜴馬(ムシュフシュ)に跨がったロッツロットに言った。

「よし、貴様ら、龍からなるべく離れろ!」

「パラガスの魔法のとばっちりを喰らうぞ!」

国王の声が、キーカンバーを攻めていたアストやタンク、爬虫類系亜人達の耳に入り、慌てて彼らは退去した。

それを確認し、パラガスは馬を巧みに操り、キーカンバーの動きを避け、右手に持った杖を掲げた。

「レティス様、今こそこの杖を使わせてもらいます」

実のところパラガス自身にも、この杖の能力を把握していなかった。

ただ一つだけ解る能力があった。

パラガスは呪文を唱え始め、杖のその能力に期待した。

「地中に引きずりし、力の源、我が敵に重き怒りを…」

杖の先端から空気の歪みが現れる。

そして…

「グラビィティーパワー!」

重力圧空間魔法がパラガスの叫びと共に、キーカンバーに炸裂した。

歪みの空間が圧力となり、キーカンバーの骨を徐々に粉砕させてく。

杖の一つの能力は、魔法の上限をさらに引き出す能力であった。

一人の魔術師の力には限度がある。

重力圧空間魔法も普通に放てば、半径三メートル位の威力しか効かない。

杖には魔術を何倍にも高める能力が備わっているのだ。

「ミレアがいないっ!」

パラガスが叫んだ。

崩れゆくキーカンバーの空間にミレアはいなかった。

「わかった、貴様はそのままキーカンバーを粉々にしろっ!」

ロッツロットが叫ぶ。さらに…、

「女が逃げた、魔法で姿を隠したかもしれん!」

「貴様ら注意しろっ!」

と付け加えた。

「くそっ、ミレアーッ、ボクはここにいる、姿を現せっ!」

アストが空に向かって叫ぶ。

「焦るな、アスト、落ち着くダ」

隣りにいるタンクが口を挟む。

「わかってるっ!」

アストは怒鳴り、辺りを見回した。

その時……。

「よけろーっ!アストッ!」

ロッツロットが突如、叫んだ。

アストには、蜥蜴王の声が一瞬、理解出来なかった。

「別に避けなくてもよい……」

馬上のアストの目の前に、白装束の姿をしたミレアがいきなり出現した。

シャムがミレアを見るなり、突如、前脚を掲げ、ミレアを威嚇した。

久しぶりの再会だった。

「いつの間に…」

アストの額に冷たい汗が落ちる。

「鍵よ、左手はどうしたのですか?」

ミレアがアストの左腕を目にし、質問した。

「鍵…って、な、なんだよ……」

「質問は私がしている」

冷たい表情でミレアは間髪いれずに言った。


ミレアのそんな表情を初めて目にし、アストは怒りよりも悲しみでいっぱいになった。

何故、聖女のようなミレアが魔女のように平気で人を殺したり、死を冒涜する女になってしまったのだろう…。

アストは悲しみに「お前は本当にミレアなのか?」と、そう返答するしかなかった。

「まぁよい、私の質問に答えたくないようですね……」

その時、近くにいたタンクが、手にした槍でミレアを攻撃した。

ロッツロットもアストの方へと、蜥蜴馬を走らせる。

「邪魔をするな、ドワーフッ」

ミレアは右手をタンクにかざすと、タンクの鎧の中から、血が一気に噴き出した。

「なっ何、ぐはっ…」

「タンクーッ!」

アストの叫びは虚しく、タンクは馬上から落ちた。

タンクの乗った馬は、驚きの余り、その場から逃げ出した。

アストはシャムから降り、倒れたタンクの頭を自分の膝へとあてる。

「タンク、しっかりしろっ!」

ロッツロットもその場に近いてきた。

「ミレアッ、なんてことするんだっ!」

宙に浮くミレアをアストは睨みつけた。

「薄汚いドワーフごときに吠えるなっ!」

見下しながらミレアが反論する。

「シャム、タンクをペテンのいる場所に連れて行ってくれ、まだ助かる」

先程からミレアに対し、ぶるぶると鼻息をたてるシャムの背に、タンクの身体をうつぶせに乗せた。

アストがシャムの尻を叩くと、シャムは王国の方角へと走っていく。

「タンクはボクの友達なんだ、それにルイ国王は親父のような存在だったんだ!」

アストは腰にさした剣を抜き、それをミレアに向け、叫んだ。

「死ぬ覚悟はあるようね、この前のように生かしはしないぞ、鍵…」

「覚悟はある、ミレアお前を殺す覚悟がな!」

ミレアの答えにアストが反論した。

「女、貴様はワシの民どもを殺した、死を持って償え」

「死の国ボーライで懺悔しろ」

ロッツロットが四つの剣を初めて手にしながら、言った。

二人が宙に浮くミレアに剣を向けた。

ミレアはその光景に、軽くため息をついた。

「蜥蜴の王よ、貴方は勝ったつもりなの?」

ミレアはそう答えると、さらに空高く浮遊し、広大な戦場を見渡した。

「降りてこいっ、ミレア!」

地上でアストが叫ぶ。

「私は死の魔女ミレア、死体があればあるほど、私は強くなる…」

ミレアは目を綴じ、そして呪文を唱えはじめた。

「何をする気だ?」

ロッツロットが答える。

「まさか、アスト、パラガス、逃げろーっ!」

「死体どもが、ゾンビが復活するぞ!」

ロッツロットの双頭が叫ぶ。

「遅い、それにゾンビなどもう用はない…」

ミレアが再び、呪文を唱えた。

そして、呪文が完成すると、野原に横たわった沢山の死体達が、空へと浮かび、ミレアの背後で次々と一体化し始めた。

その光景にパラガスが驚愕した。

「ま、まさか、フレッシュゴーレム?」

死肉の集合体巨像フレッシュゴーレムの名をパラガスは口ずさんだ。

ミレアもパラガスも、もはや崩れゆくキーカンバーには、目もくれなかった。

集まった死体達は急速に一つになり始め、巨大な人の像を造りだした。

その大きさはキーカンバーの五倍はあった。

様々な人や亜人種達の死体の集合体が今、完成した。

死体達はミレアの魔力により、繋がり、それでいて死体の個々が様々に動きを見せ、それでいて、巨大な人型の集合体がゆっくりと動きだす。

まさに死肉の集合体巨像フレッシュゴーレムだった。

誰がこんな魑魅魍魎な怪物を倒せるというのだろう……。

アストやパラガス、ロッツロットや戦場に生き残った爬虫類系亜人達は、ただ絶望に恐怖した。
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