ドラゴンアース anotherstory ‐死の魔女‐

とと

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悪夢の一日

2.

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辺りはすでに薄暗く、東の空からは星々が光り始めていた。

夕日が西へと沈む頃、アストの首から上が、ミレアの放った霊魂弾禁断魔法ソウルバスターにより、跡形もなく消滅した。

「アストーーーッ!!」

静寂な野原に、パラガスの叫びが虚しく響いた。

アストの首無しの身体が、シャムの遺体の横に倒れこんだ。

紛れも無い現実……。

長年アールド王国で、共に育ち、共に学び、遊び、共に同じ女を愛した親友とも呼べる仲間が、無惨に殺された。

共に愛した女に……。

パラガスの感情は怒りと悲しみで満ち溢れ、その場に膝を落とした。

絶対なる絶望……。

パラガスの最大の魔法もミレアには効かなかった。

ミレアの正体は龍地球、最強の十龍の一頭であり、人間や亜人風情に勝てるはずもなかった。

この野原にまだ、生ある者達は死を確信するしかなかった。

「肉の巨像よ、爬虫類どもの国を破壊しなさい」

広大な戦場と化した野原で、制止していた死肉の集合体巨像フレッシュゴーレムが、ミレアの命令により、活動を再開した。

「魔女め、ワシの王国に手をだすなーっ!」

双頭の蜥蜴王ロッツロットが叫ぶ。

「手を出されたくないなら、いつでも肉の巨像を倒せばよい…」

ミレアはロッツロットとパラガスに向かって、冷たい笑みを浮かべながら答えた。

「出来ないようね、さすがにあんな巨大で不気味な物体の行進を、止めるのは至難のようね…、ならば私を殺してみる?」

ミレアはそう言いながら、二人の元へと近づいた。

「私なら、倒せるかもよ…」

パラガスにとっても、ロッツロットにとっても、ミレアを倒せるなど無理だと解っていた。

肉の巨像を造りあげた魔女、闇龍を殺した魔女、王国を一夜にして破壊した魔女、パラガスの最大魔法を微動しない魔女。

勝ち目などあるはずがなかった。

多分、ロッツロットの剣術も、姿を消すなどして太刀打ちなど出来ないだろう…。

だが……。

「ファイヤーボール!」

不意の一撃がミレアの胸へと炸裂した。

パラガスの放った炎球魔法だった。

ミレアが先程、黒毛の馬シャムに浴びせた同一の魔法だった。

前宮廷魔術師レティスより授かった杖の効果により、炎球魔法の威力は何倍にもなり、喰らった者は灰すらも残さない程の威力を持つ。

「やったか?」

ロッツロットは期待の声をだした。

「だから、無理よ…」

淡い期待だった。

魔法を喰らったミレアが声をあげると同時に、パラガスの魔法は消滅し、白装束を着たミレアの何処にも燃えた場所は見つからなかった。

ミレアはロッツロットの眼前まで近づき、手の平をロッツロットにおもむろに見せると、いきなりロッツロットの全身が激しく後退し、ロッツロットは苦痛の叫びをあげた。

気孔弾。

気を練り上げ、相手に衝撃を与える武術。

ミレアは魔法だけでなく、武術にも長けているようだ。

ロッツロットは苦痛に双方の顔を歪めながらも、四本の剣をそれぞれの手に持ち、ミレアへと突進した。

ロッツロットの剣術は、このアランミューア大陸の地で、五本の指に入る程の達人だ。

百年前の吸血城の主との戦いの時には、彼の剣術が大いに約にたち、見事、主を倒した。

その剣がミレアに迫る。

ミレアは貫なく避け続けるが、ロッツロットの容赦ない攻撃が徐々に捉えはじめてきた。

そして、致命の一刀がミレアの首筋を横に一線。

彼女の頸動脈を切断した。

「死の国ボーライで殺した奴らに詫びろ魔女!」

ロッツロットが吐き捨てるように言った。

勝利……、蜥蜴王は確信した。

だが…、

「危ないっ!国王!」

パラガスが突然叫ぶ。

その叫びはロッツロットに届かず、ロッツロットの全身から血が大量に噴き出した。

ロッツロットには、理解出来なかった。

何故、首に致命を与えたミレアが血の一滴も出さず、自分自身が大量出血しているのか?

何故、ミレアは死なないのだろうか……。

ロッツロットはそう思いながら、地に膝をついた。

「……し、わ、たしは……」

ミレアの言葉にならない言葉が徐々に普通に戻る。

首筋の傷の塞がりとともに…。

「私は不死身だ…、どんな生物も私を殺害する事は出来ない…」

ミレアは宣言するように答えた。

「不死身…だと?」

パラガスは驚愕した。

「そうだ…、私は何をしても死なない…、不老不死…、永遠を生きる龍だ…」

その告白に、パラガスは自らの死を確信した。

何をやっても無駄だという思いが、彼を絶望させ、地へと膝を落とした。

「勝てるはずがない…、不死身の化け物をどう倒せというのだ…」

パラガスは独り言を呟いた。

死を確信したパラガスは、心の中で亡き、否、魂を消滅した国王に謝罪した。

そして、国王と国民の敵討ちに加わってくれた親友の遺体へと、顔を向けた。

アストの遺体へと……。

「……アスト?」

パラガスはすぐに異変に気付いた。

そう、アストとシャムの遺体の場所に異変が…。

「アストの遺体がない……、シャムの遺体も…」

その発言と同時に、また別の異変が起きた。

夜にかわりそうな空が、曇り、いきなり豪雨が降り出した。

突然、暴風が咲き乱れ、地が激しくゆれだした。

「嵐に地震……?」

ロッツロットが口づさんだ。

突然の異常気象がラッドビード国を、戦場と化した野原に起きた。

事もあろうか、吹き荒れる豪雨に吹雪が舞い上がり、それでいて真夏のように暑かった。

「この世の終わりか?」

ロッツロットが叫ぶ。

ミレアはこの光景を目にし、突然、狂ったように笑いだした。

「この世の終わり?いえ蜥蜴の王よ、むしろ始まりだわ…」

ミレアは天を見上げ、喜びに歓喜した。

どうやらこの異常気象はミレアが犯したものではないようだ……。

ロッツロットは直感で思い、ミレアの向いた天を見上げた。

「捜す手間が省けた。感謝するぞ…」

ミレアは叫び、ロッツロットが驚愕する。

「我が同報の…、否、永遠の奴隷となる……十龍達よ……」

天空には様々な形をした龍達が飛来していた。

そう、龍地球の子と呼ばれる十龍達が……。
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