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第三章
ドラゴンだってよ
しおりを挟む「おぉ! ウィル様! 来てくださってありがとうございます!」
「こんにちは」
ウィルたちがクエスト受付センターに着くと、まるで英雄の凱旋かのように迎えられる。
これまで受けてきた待遇の中でも、一番だと確信できるほどのものだった。
「様々なパーティーに連絡を取ったのですが、不運なことに全員の都合が悪いようで……」
「なるほど……そこに俺たちが来たということですね」
「は、はい! その通りです!」
ウィルが周りを見渡しても、冒険者らしき人間の姿を見つけることはできない。
本当に誰も来ていないようだ。
クエスト受付センターからしたら、現状ウィルたちだけが頼みの綱なのだろう。
「何が起こっているか詳しく教えてください」
「はい! 気付いておられると思いますが、この雷の正体は魔物の仕業でございます!」
受付嬢は必死の形相で話す。
一秒でも早く、情報をウィルたちに伝え終わりたいというのが見て取れた。
それでも、分かりやすく説明できているというだけ、流石はプロの技だ。
「魔物……そいつの居場所は分かってるんですよね?」
「は、はい! 国を出て、森を超えた辺りに反応がありました!」
「……ちなみにどんな魔物なんですか?」
「――ドラゴンです!」
*********
「おいおい、ドラゴンだってよ……」
「何をビビっておるのじゃ、ドラゴンは初めてか?」
「そりゃそうだよ! ドラゴンなんて、人間が相手になるようなモンスターじゃないからな!」
「いや、戦うのは儂らじゃが……」
クエスト受付センターを出たウィルは、いつにもなく緊張していた。
勿論それは、ウィルが引き受けてしまった仕事――ドラゴン退治が原因である。
「どうしよう、今回は家で休んでてもいいか……?」
「阿呆なことを言うでない。そもそも、離れすぎたらどうなるか分からんから却下じゃ」
「あー、何で引き受けちゃったんだろう……」
「カッコつけるからですよ、マイマスター」
ウィルは、自分がしたことをずっと後悔していた。
レフィーの言う通り、いい顔を見せるためその場のノリで引き受けてしまったが、冷静に考えるほど過去の自分を殴りたくなる。
「心配しなくても、リリがいるからウィルお兄ちゃんは死なせないよ!」
「リリちゃん……でも、回復する前に一撃で死んだらどうなるの?」
「……まぁ何とかなると思う……多分」
「よし、帰ろう」
ウィルは軍隊のように美しく踵を返した。
頭で考えるよりも先に、体が自然に動いてしまう。
ウィルの目は、遠くにある自宅を見つめている。
「こらこら、クエスト受付センターにキレられますよ? 勇気を出してください、マイマスター」
「エルネは強いエルネは強いエルネは強い」
「勇気の出し方の癖が強いわ」
ウィルたちは重い足取りでドラゴンの元へ向かった。
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