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第十五章
ミラハ
しおりを挟む「こ、講師って……俺がですか?」
「はい。ウィル殿なら正にピッタリかと思いましてな」
「ど、どんなところがでしょうか……?」
まるで夢のような話に、いまいち現実味が感じられないウィル。
ミラハは、ウィルから何かを感じ取ったらしいが、その感じ取ったものがウィル自身にも分からない。
「召喚士でありながら、冒険者としてここまで名を馳せるのは素晴らしいことなのですじゃ。ウィル殿は、我がアムベント召喚士学校の理想とも言えますな」
「り、理想!?」
あまりに過剰な評価に、ウィルは驚きを隠せなかった。
冒険者として名を馳せたというのも、ほとんどがエルネたちの働きである。
わざわざ自分でネタばらしをするほど愚かではないが、少しだけ胸が痛い。
「で、でも、俺がアムベント召喚士学校に行っても生徒たちは大丈夫なんでしょうか……」
「勿論ですじゃ。それどころか、ウィル殿は生徒たちの憧れになっておられるようですぞ。安心してくだされ」
「わ、分かりました……」
ここまで言われてしまっては、もう断ることは出来ないだろう。
全召喚士が憧れる場所に、ウィルは立とうとしていた。
「といっても、何を教えれば良いのでしょうか? 俺に教えられることがあれば良いんですけど……」
「なあに、これまでの経験をお話をしていただけるだけで十分なのですが――ウィル殿の技を見せていただければ、生徒たちも喜ぶかもしれませんな」
「技……ですか」
「アムベント召喚士学校の優秀な生徒と言えど、残念ながら伸び悩んでいる者もいるのです。そんな生徒たちの助けになっていただければ、これ以上ない喜びですじゃ」
(これまでの経験って……エルネたちが講師になった方が良いんじゃ――いや、それじゃあ生徒たちが納得するか分からないし……)
ウィルは、頭の片隅にある記憶を探る。
しかし、人前で話しても恥ずかしくないエピソードとなると、大したものは出てこなかった。
苦戦したような記憶もなく、天使との戦いで魔王城を守ったことを人間に伝えることもできない。
また、国王殺しからアンリ姫を守ったという証拠も持っていないので、信用してもらえないはずだ。
「飼い主様、お茶とお菓子を用意したにゃ」
「――あ、あぁ。ありがとう、ネフィル」
「これはこれは。申し訳ありませんのう」
ミラハは年季を感じるような作法でお茶を手に取り、味わうようにして飲み干す。
ウィルにはどうやっても真似出来ないような技だ。
そして――ミラハは一息つくと、ウィルと視線をしっかりと合わせる。
「一応聞いておきましょう、ウィル殿。アムベント召喚士学校に来ていただけますかな?」
「……行きます」
全召喚士が憧れる地へ――不安になりつつもウィルは向かうことになった。
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