白いスープと死者の街

主道 学

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異様

21話

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 お風呂の中で考えた。ぼくはこのことを警察には知らせられないみたいだ。
 生きた首を持ってきていない。恐らく大原先生が隠したと思う。バラバラ生き事件なんて、聞いたこともないから、警察は大人より僕を疑うことは間違いなしだと思うんだ。

 だって、そうでしょう。
 大人の言葉は大抵は立派に見えれば誰もが信じるけれど。子供の言うことなんて誰も信じないんだ。
 僕が戦っているのは、この不思議な事件だけではないと思う。そういった周囲の見えない何かとも戦わなければいけない。


 夜遅く、ぼくの家にも電話がかかってきた。
 父さんが出たけれど、話の内容は解る。
 キッチンにある電話の受話器を置いた父さんの顔は、険しく少し赤みがあった。

「歩。亜由美を呼んできなさい」
 ぼくは二階にいる亜由美を階段越しに呼んだ。
 キッチンにはみんな揃った。
 父さんが静かに言った。

「学校はいかなくていい。何かよくないことが起きたみたいなんだ。しばらく休校になるそうだ。危ないから、あまり外へと出ないことと、不審な人には近づかないこと。父さんに約束してくれ」
 父さんはテーブルに座る。ぼくと亜由美の顔を覗くように言った。
「このところ、何が起きているのか解らないな」
 おじいちゃんが呟いた。

 おじいちゃんは僕の頭を優しく撫でて、にこやかに言った。
「何も心配ないくていいからね……。時間が経てば何もかもよくなるさ」
 おじいちゃんは、それから亜由美にも優しい言葉で話している。
 僕はその通りだと思った。
 時間の方が強い。
 大原先生は直に捕まる。
 そして、この不可解な事件は解決するかも知れない。


 次の日。
 リンリンと鳴る風鈴の涼しい音と蒸し暑い空気でぼくは目を開けた。
 ベットから起きて、反対方向に向いたタオルケットを直すと、一階へと降りて行った。まだ、誰も起きていない。

 玄関の郵便受けから今日の新聞を取出し、キッチンで広げた。
 何ページか読んでいると、昨日の学校での事件の見出しがあった。
 そこには、こう書かれていた。

 
 昨日。午前6時頃。H県。御三増町の稲荷山小学校で、用務員の松田 順平さん(38歳)が用務員室で何者かに殺害されていた模様。
 松田さんは刃物で数十回刺され、頭部と右手のない遺体で発見された。午前8時10分頃に教師の通報で駆け付けた警察によると、死後。15分間。体が痙攣のために動いていたとのこと。
 H県戸井田警察暑は殺人事件と断定。
 警察は……。
 
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