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大根
25話
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ぼくが考え事をしていると、いつの間にか母さんと大原先生の会話がぼくの行動へと傾いてきた。
でも、なんでぼくが昨日。利六町へ行ったのが大原先生は解ったのかな?
三部木さんしか知らないはず?
「え! 昨日ですか? 友達と遊んでいたはずですが? あ、多分、来月引っ越すんですが、引っ越し先が利六町なので。友達と一緒に見に行ったのでしょうね……。寂しくなるわね……ね、歩?」
母さんはぼくの行動や気持ちをプラスに考えてくれた。
「うん!」
良い子の体裁をして答えたが、大原先生の顔が一瞬醜く歪んだ。
恐らく来月にぼくが引っ越すのが都合が悪いのだろう。
大原先生と母さんは明るい世間話になりだした。
その時、大原先生はぼくの顔を穴の開くほどにこやかに見つめて、母さんに気付かれないように、懐から鉈のような刃物をチラッと見せた。
ぼくには、脅しや何かの警告なのは解るんだ。母さんまで危険にさらされるのは真っ平だ。
幸助おじさんは夕方じゃないと来てくれない。
仕方なくぼくは大原先生に向かって、少しだけ頷いた。
本気で命のやり取りをしないといけないけど、母さんを守るためなんだ。
「そうですか。ちょっと、私と歩君だけで話があるんですが……。きっと今まで何かを一人で抱え込んでいたと思うんです……。凄く辛かったと思います。私、教師として心配で……」
大原先生は深刻な顔で悲しい声で話している。
「ええ。ええ……。それは私にも何となく解ります。裏の畑で人形の手足が出てきてから歩の様子がどこかおかしいのではと……。気のし過ぎかも知れませんが……。どうか、先生。歩のことをお願いします。歩、先生とお話して……」
母さんは急に涙目になった。
無理もない。
こんな不可解な事件。
誰でも人に言えない秘密や悩みを抱えていたら、一人でとても苦しんでしまうのが当たり前だ。
でも、ぼくには自由奔放な空想や裏の畑の子供たちの命があるんだ。
こんな事件でもあまり怖くはないんだ。
「では、歩君……。私はこれから藤堂君の家に行くけど、その間少しだけ私の車の中で二人だけで相談しましょ。何かの力になってあげるから」
ぼくは勇気を振り絞って頷く。
「うん!」
自分でも驚くほど力強い声が出た。
空想が壊れることがなければ、現実の強い衝撃も何とかなるのかな?
午後の4時に大原先生の車に乗った。
隣の大原先生は至って普通に話しながら、「ちょっと、運転するね」と言ってぼくをどこかへ連れて行った。
ぼくはニッコリと笑って後部座席に置いたリュックを素早く確認した。
外は相変わらず厚い雨雲が覆っていた。小降りになりだし、いくらか暑さが弱まっている感じがする。
家の砂利道から御三増駅とは反対の方向へと車は走った。
人目に付かないところに向かっている。
多分、ここから西に行ったところには、よく父さんと秋に栗を取りに行った雑木林があるはずだ。
西の方には大きな雑木林がある。
ぼくの家から車で45分だ。
舗装されていない道へ差し掛かると、隣の大原先生は学校の話や他の生徒の話などを実に楽しそうに話していた。
車は人気のないところを進んでいく。ぼくはニッコリと笑って前方を見ていたけど、緊張で喉がカラカラだった。完全に人気がなくなると、急に車が道端に止まった。
「お前はここで死ぬんだよ!!」
大原先生が一変してとても人間とは思えない恐ろしい形相と声になった。
大原先生は懐から鉈のような形状の刃物を取り出し、振り回した。
ぼくは狭い車内で後部座席へと体を強引にねじ込んだ。後部座席に転がり込むとリュックを掴んで外へと車のドアを開けた。
「待て!!」
いつの間にか、大原先生の鉈がぼくの左手と右肩に傷を負わせていた。
激痛が空想を一部破壊した。
ぼくはそれでも、リュックを背負うと雑木林の中へと一目散に走った。
「大丈夫! これはホラー映画の中だ! ぼくは今、夢を見ているんだ! 追いかけてくるのは大原先生じゃない! ホッケーのマスクを被った大男だ!」
ぼくはそう叫ぶと薄暗い雑木林の中をスギや竹の間をジグザグに走り抜ける。
心臓が恐ろしくてバクバク鳴っていた。
呼吸も不規則でままならない。
後ろから大原先生の人間とは思えない咆哮と木々をなぎ倒すくらいの勢いの足音が聞こえる。
ジグザグ走行じゃないと追いつかれる!
痛みと息切れで体のバランスが崩れ、靴が泥や葉っぱがくっついて重くなってきても、ぼくは死に物狂いで走った。
前方の小枝で頬を切り、太い蔓に絡まり転がりながらも雑木林を抜けようとする。
肺が四方八方から酸素を求める。
野鳥たちが悲鳴をだして飛び回った。
前しか見れないから、ぬかるみで数回転んだ。
無数の枝がぼくの顔に無数の傷を作りだしていた。
大原先生の咆哮が近づいてきた。
ぼくは素早く思考を巡らした。
このままだと雑木林を抜けられず。森に入ってしまう。
何とか道路へと出て助けを呼んだ方がいいはずだ。
あいにくとコンパスは持ってきていないから、運任せで雑木林の中から太陽を見て、西側に向かって走った。多分、森は奥にあるから南東の方にあるはず。
枝を払いながら走っていると片側一車線の道路へと出た。
でも、道路へ出るのは問題がある。
大原先生に見つかりやすいし、追い詰められたらさすがに殺されてしまう。
車が走って来てくれればいいんだけど、そこはぼくの幸運を一滴残らず絞らないと……。
雑木林の外は小降りの雨からどしゃ降りとなっていた。
道路の真ん中まで歩いて、苦しい呼吸で車を待っていると、ぼくは今になってフラフラになっていることに気が付いた。
でも、なんでぼくが昨日。利六町へ行ったのが大原先生は解ったのかな?
三部木さんしか知らないはず?
「え! 昨日ですか? 友達と遊んでいたはずですが? あ、多分、来月引っ越すんですが、引っ越し先が利六町なので。友達と一緒に見に行ったのでしょうね……。寂しくなるわね……ね、歩?」
母さんはぼくの行動や気持ちをプラスに考えてくれた。
「うん!」
良い子の体裁をして答えたが、大原先生の顔が一瞬醜く歪んだ。
恐らく来月にぼくが引っ越すのが都合が悪いのだろう。
大原先生と母さんは明るい世間話になりだした。
その時、大原先生はぼくの顔を穴の開くほどにこやかに見つめて、母さんに気付かれないように、懐から鉈のような刃物をチラッと見せた。
ぼくには、脅しや何かの警告なのは解るんだ。母さんまで危険にさらされるのは真っ平だ。
幸助おじさんは夕方じゃないと来てくれない。
仕方なくぼくは大原先生に向かって、少しだけ頷いた。
本気で命のやり取りをしないといけないけど、母さんを守るためなんだ。
「そうですか。ちょっと、私と歩君だけで話があるんですが……。きっと今まで何かを一人で抱え込んでいたと思うんです……。凄く辛かったと思います。私、教師として心配で……」
大原先生は深刻な顔で悲しい声で話している。
「ええ。ええ……。それは私にも何となく解ります。裏の畑で人形の手足が出てきてから歩の様子がどこかおかしいのではと……。気のし過ぎかも知れませんが……。どうか、先生。歩のことをお願いします。歩、先生とお話して……」
母さんは急に涙目になった。
無理もない。
こんな不可解な事件。
誰でも人に言えない秘密や悩みを抱えていたら、一人でとても苦しんでしまうのが当たり前だ。
でも、ぼくには自由奔放な空想や裏の畑の子供たちの命があるんだ。
こんな事件でもあまり怖くはないんだ。
「では、歩君……。私はこれから藤堂君の家に行くけど、その間少しだけ私の車の中で二人だけで相談しましょ。何かの力になってあげるから」
ぼくは勇気を振り絞って頷く。
「うん!」
自分でも驚くほど力強い声が出た。
空想が壊れることがなければ、現実の強い衝撃も何とかなるのかな?
午後の4時に大原先生の車に乗った。
隣の大原先生は至って普通に話しながら、「ちょっと、運転するね」と言ってぼくをどこかへ連れて行った。
ぼくはニッコリと笑って後部座席に置いたリュックを素早く確認した。
外は相変わらず厚い雨雲が覆っていた。小降りになりだし、いくらか暑さが弱まっている感じがする。
家の砂利道から御三増駅とは反対の方向へと車は走った。
人目に付かないところに向かっている。
多分、ここから西に行ったところには、よく父さんと秋に栗を取りに行った雑木林があるはずだ。
西の方には大きな雑木林がある。
ぼくの家から車で45分だ。
舗装されていない道へ差し掛かると、隣の大原先生は学校の話や他の生徒の話などを実に楽しそうに話していた。
車は人気のないところを進んでいく。ぼくはニッコリと笑って前方を見ていたけど、緊張で喉がカラカラだった。完全に人気がなくなると、急に車が道端に止まった。
「お前はここで死ぬんだよ!!」
大原先生が一変してとても人間とは思えない恐ろしい形相と声になった。
大原先生は懐から鉈のような形状の刃物を取り出し、振り回した。
ぼくは狭い車内で後部座席へと体を強引にねじ込んだ。後部座席に転がり込むとリュックを掴んで外へと車のドアを開けた。
「待て!!」
いつの間にか、大原先生の鉈がぼくの左手と右肩に傷を負わせていた。
激痛が空想を一部破壊した。
ぼくはそれでも、リュックを背負うと雑木林の中へと一目散に走った。
「大丈夫! これはホラー映画の中だ! ぼくは今、夢を見ているんだ! 追いかけてくるのは大原先生じゃない! ホッケーのマスクを被った大男だ!」
ぼくはそう叫ぶと薄暗い雑木林の中をスギや竹の間をジグザグに走り抜ける。
心臓が恐ろしくてバクバク鳴っていた。
呼吸も不規則でままならない。
後ろから大原先生の人間とは思えない咆哮と木々をなぎ倒すくらいの勢いの足音が聞こえる。
ジグザグ走行じゃないと追いつかれる!
痛みと息切れで体のバランスが崩れ、靴が泥や葉っぱがくっついて重くなってきても、ぼくは死に物狂いで走った。
前方の小枝で頬を切り、太い蔓に絡まり転がりながらも雑木林を抜けようとする。
肺が四方八方から酸素を求める。
野鳥たちが悲鳴をだして飛び回った。
前しか見れないから、ぬかるみで数回転んだ。
無数の枝がぼくの顔に無数の傷を作りだしていた。
大原先生の咆哮が近づいてきた。
ぼくは素早く思考を巡らした。
このままだと雑木林を抜けられず。森に入ってしまう。
何とか道路へと出て助けを呼んだ方がいいはずだ。
あいにくとコンパスは持ってきていないから、運任せで雑木林の中から太陽を見て、西側に向かって走った。多分、森は奥にあるから南東の方にあるはず。
枝を払いながら走っていると片側一車線の道路へと出た。
でも、道路へ出るのは問題がある。
大原先生に見つかりやすいし、追い詰められたらさすがに殺されてしまう。
車が走って来てくれればいいんだけど、そこはぼくの幸運を一滴残らず絞らないと……。
雑木林の外は小降りの雨からどしゃ降りとなっていた。
道路の真ん中まで歩いて、苦しい呼吸で車を待っていると、ぼくは今になってフラフラになっていることに気が付いた。
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