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同棲

20話

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 島田はこのアパートの二階にいるが、私たちはいつも電話を使っている。
「夜鶴。奈々川さんってどこのお嬢様なんだ? B区のどこだ?」
 島田が電話越しに言う。

「いや……知らない」
 島田には奈々川さんが総理大臣の娘とは言わなかった。弥生もその様子だ。島田の気性ではB区と全面戦争をしてもおかしくはなかった。
「本人に聞いてー」
 島田が猫なで声を発した。

「いや……本人も言いたくないそうだ」
「ふーん」
 後ろの奈々川さんはスケッシーと遊んでいる。私の部屋に総理大臣の娘をB区の奴らから匿っているなんて、確かに言えない。
「ゲームの調子はどうだ?」
「まあまあかな?奈々川さんとやったら200点になった」
「お前……天才じゃない?」
「ははっ」
 島田は何点なのだろう?

「俺なんてまだ100点にもいかないぜ。銃撃戦の時はお前の方が強いな。接近戦というか殴り合いは俺に任せろ」
 島田がこれからの身に置きそうな作戦を言った。
「ああ」
 今日の早朝のこともあるし、仕事は本当に命掛けになってきた。しかし、金のためには仕方がない。どちらも……金がなくなっても死ぬし、撃たれても死ぬし。これが私が望んだことなのだ。
「夜鶴……。銃の手入れはしっかりな」
 島田が珍しく真剣な声をだした。


 職場へとスヌーピーの絵のある愛車を駆る。夜風がこんな場所だが気持ちがいい。一日1万2千円の夜勤の仕事を止める訳にはいかないのが今の厳しい現状だ。
 嵐の前の静けさなのか、広い駐車場には誰もいない。
 受付のところまで、片手は腰のコルト・ガバメントを握り。歩いていると島田もやってきた。
 島田はなんとベレッタをだしたまんまだ。
 受付の女性に、

「おはようございまっス。田場さんは?」
 いつもの気楽な口調である。
「はい、田場さんは奥の休憩所でミーティングだそうですよ」
「ああ。って、俺たちのことを話しているの?」
 女性はペロっと舌をだして、

「ええ。島田さんと夜鶴さんのことだと思います。今日の朝に起きた殺人事件でテレビ関係者と警察の人たちがこの工場に来たそうですし。ねえ、銃で人を撃つってどんな感じなの?」
「人殺しは、簡単にあっちの世界とこっちの世界を行き来する方法なのさ」
 島田が茶化した。
 私たちはこれからどうなるのだろう。
 気を引き締めて肉の仕分け室に行くと、B区の奴らから一斉に睨まれる。

「行こうや」
 島田は気楽なところは変わらずに、奥のベルトコンベアーに行った。
「夜っちゃんと島ちゃん……」
 津田沼が青い顔して、こちらに視線を向けてきた。
 作業が開始される。
 田場さんが戻って来た。
「仕事中はちゃんとやれ!」
 B区と私たちに言うと、こちらに来た。
「なあ、これからどうするんだ。お前たち?」
「いつも通りですよ」
 私が静かに言うと、

「そうか……。奈々川さんと結婚してみるか?」
 私は奈々川さんの気持ちを確認してからと答えたが、内心はどうしていいか解らなかった。結婚が実現したとしても、命を狙われるのなら意味がないのでは?そう……結婚は解決ではないのだ。ただの通過点だ。
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