ご近所STORY ハイブラウシティ【改訂版】

主道 学

文字の大きさ
21 / 54
同棲

20話

しおりを挟む
 島田はこのアパートの二階にいるが、私たちはいつも電話を使っている。
「夜鶴。奈々川さんってどこのお嬢様なんだ? B区のどこだ?」
 島田が電話越しに言う。

「いや……知らない」
 島田には奈々川さんが総理大臣の娘とは言わなかった。弥生もその様子だ。島田の気性ではB区と全面戦争をしてもおかしくはなかった。
「本人に聞いてー」
 島田が猫なで声を発した。

「いや……本人も言いたくないそうだ」
「ふーん」
 後ろの奈々川さんはスケッシーと遊んでいる。私の部屋に総理大臣の娘をB区の奴らから匿っているなんて、確かに言えない。
「ゲームの調子はどうだ?」
「まあまあかな?奈々川さんとやったら200点になった」
「お前……天才じゃない?」
「ははっ」
 島田は何点なのだろう?

「俺なんてまだ100点にもいかないぜ。銃撃戦の時はお前の方が強いな。接近戦というか殴り合いは俺に任せろ」
 島田がこれからの身に置きそうな作戦を言った。
「ああ」
 今日の早朝のこともあるし、仕事は本当に命掛けになってきた。しかし、金のためには仕方がない。どちらも……金がなくなっても死ぬし、撃たれても死ぬし。これが私が望んだことなのだ。
「夜鶴……。銃の手入れはしっかりな」
 島田が珍しく真剣な声をだした。


 職場へとスヌーピーの絵のある愛車を駆る。夜風がこんな場所だが気持ちがいい。一日1万2千円の夜勤の仕事を止める訳にはいかないのが今の厳しい現状だ。
 嵐の前の静けさなのか、広い駐車場には誰もいない。
 受付のところまで、片手は腰のコルト・ガバメントを握り。歩いていると島田もやってきた。
 島田はなんとベレッタをだしたまんまだ。
 受付の女性に、

「おはようございまっス。田場さんは?」
 いつもの気楽な口調である。
「はい、田場さんは奥の休憩所でミーティングだそうですよ」
「ああ。って、俺たちのことを話しているの?」
 女性はペロっと舌をだして、

「ええ。島田さんと夜鶴さんのことだと思います。今日の朝に起きた殺人事件でテレビ関係者と警察の人たちがこの工場に来たそうですし。ねえ、銃で人を撃つってどんな感じなの?」
「人殺しは、簡単にあっちの世界とこっちの世界を行き来する方法なのさ」
 島田が茶化した。
 私たちはこれからどうなるのだろう。
 気を引き締めて肉の仕分け室に行くと、B区の奴らから一斉に睨まれる。

「行こうや」
 島田は気楽なところは変わらずに、奥のベルトコンベアーに行った。
「夜っちゃんと島ちゃん……」
 津田沼が青い顔して、こちらに視線を向けてきた。
 作業が開始される。
 田場さんが戻って来た。
「仕事中はちゃんとやれ!」
 B区と私たちに言うと、こちらに来た。
「なあ、これからどうするんだ。お前たち?」
「いつも通りですよ」
 私が静かに言うと、

「そうか……。奈々川さんと結婚してみるか?」
 私は奈々川さんの気持ちを確認してからと答えたが、内心はどうしていいか解らなかった。結婚が実現したとしても、命を狙われるのなら意味がないのでは?そう……結婚は解決ではないのだ。ただの通過点だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

処理中です...