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危険な恋
28話
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藤元が今日も仕事だと言って、出掛けて行った。きっと、云話事町TVだろう。
しばらくしてから、弥生さんがリビングの花柄のテレビを点けた。
「お早うっス! 云話事町TVです!」
藤元が美人のアナウンサーの後方から自転車で大急ぎでやって来た。
「藤元さん。遅刻っす」
「おっけー」
いつもの住宅街を背に美人のアナウンサーがマイクを握り直して、
「今日の天気は?」
「えーと?」
藤元が空を見つめる。
「多分……曇りです。」
美人のアナウンサーも空を見つめたが、藤元に視線を戻し、
「そして、今日の運勢は?」
藤元が小さな本をポケットから取り出し一読みし、
「うーんと、今日は……危険が迫っています……」
105号室。今日は休みなので、少し仮眠を取ったら、食事は奈々川さんとラーメンショップへと行った。外にはまだ総理大臣の手下は来ていない。……嵐の前の静けさなのだろうか。スケッシーははしゃぎ過ぎでぐったりしていた。
「今度こそ百杯目のラーメン。きっと……」
「うーむ。そうだといいが」
店内は相変わらず客がいない。
カウンター席に座ると、無愛想な女性バイトが「何にする」とメニューを渡す。
もし、ハイブラウシティ・Bが進行したら、ここの調理人は職を失い。ここでも安価なアンドロイドがラーメンを作るようになるのだろうか。
そんなことを考えていると、注文したチャーシューメンとラーメンと餃子が届いた。
「ふー……。百杯目じゃないですね」
私は落胆する奈々川さんの横顔を見つめた。箱入り娘なのに現実を受け止める心の強さ。悲しい人生を送っていたようだが、それでも人を愛してくれている。きっと彼女も私たちA区の人たちと同じく今の時代を強く生きようとしているのだろう。
「夜鶴さん。今日は休みですよね」
チャーミングなホクロを見ながら、私は、
「ああ。どこかドライブに行こうか。……俺の愛車で」
「ええ……。明日の朝には父に会います」
奈々川さんが俯いた。
「俺も一緒に行くから、きっと大丈夫さ。君の父親は優しいところもあるって言ったじゃないか」
「ええ……」
女性バイトが御冷やの御代わりを持って来た。
「夜鶴さん。銃は置いてきましょう」
「え。それはヤバいんじゃ……」
奈々川さんが強い眼差しをこちらに向ける。
「……解った」
美味いラーメンを食べながら、銃も持たずに戦地に行くのが……正直怖かった。
ピンクのクマのキーホルダーをズボンから取り出し、愛車に乗る。奈々川さんが喜んで助手席に座った。
「すごい。私、車に乗るの初めてなんです」
「きっと、素晴らしい夜になるよ」
私は愛車を小道から大通りに滑らす。この車は排気量が少ないがスピードとパワーはかなりのものだ。
対向車が滑らかに車窓を滑る。
目の前を走る車はいない。
奈々川さんが窓を開ける。9月の夜風は涼しい。助手席の奈々川さんと二人だけでのドライブは、決して醒めたくない微睡みの中にいる。そんな感じだった。
私はA区の大通りをぐるりと回り、B区の小道からB区の大通りに入った。一番安全な道のりだ。そして、一番のデートスポット。云話事シーサイドを走る。
云話事シーサイドには、無数のホテルが夜景を彩り、淡い波の音の聞こえる海が広がっていた。緑の蛍光塗料の付いた服を着た若者たちの真上には、僅か数百メートル上にあると思わせる数多の星たちが浮かんでいた。
「夜鶴さん。あなたと出会えて……本当によかった……」
私はハンドルを自然に回し、今度は云話事シーサイドからそれて、海の道を走る。海の道は両脇に広がる大海原の中央を道路が伸び、一っ直線にパラダイスに続いている。
予約は取っていないが……。
しばらくしてから、弥生さんがリビングの花柄のテレビを点けた。
「お早うっス! 云話事町TVです!」
藤元が美人のアナウンサーの後方から自転車で大急ぎでやって来た。
「藤元さん。遅刻っす」
「おっけー」
いつもの住宅街を背に美人のアナウンサーがマイクを握り直して、
「今日の天気は?」
「えーと?」
藤元が空を見つめる。
「多分……曇りです。」
美人のアナウンサーも空を見つめたが、藤元に視線を戻し、
「そして、今日の運勢は?」
藤元が小さな本をポケットから取り出し一読みし、
「うーんと、今日は……危険が迫っています……」
105号室。今日は休みなので、少し仮眠を取ったら、食事は奈々川さんとラーメンショップへと行った。外にはまだ総理大臣の手下は来ていない。……嵐の前の静けさなのだろうか。スケッシーははしゃぎ過ぎでぐったりしていた。
「今度こそ百杯目のラーメン。きっと……」
「うーむ。そうだといいが」
店内は相変わらず客がいない。
カウンター席に座ると、無愛想な女性バイトが「何にする」とメニューを渡す。
もし、ハイブラウシティ・Bが進行したら、ここの調理人は職を失い。ここでも安価なアンドロイドがラーメンを作るようになるのだろうか。
そんなことを考えていると、注文したチャーシューメンとラーメンと餃子が届いた。
「ふー……。百杯目じゃないですね」
私は落胆する奈々川さんの横顔を見つめた。箱入り娘なのに現実を受け止める心の強さ。悲しい人生を送っていたようだが、それでも人を愛してくれている。きっと彼女も私たちA区の人たちと同じく今の時代を強く生きようとしているのだろう。
「夜鶴さん。今日は休みですよね」
チャーミングなホクロを見ながら、私は、
「ああ。どこかドライブに行こうか。……俺の愛車で」
「ええ……。明日の朝には父に会います」
奈々川さんが俯いた。
「俺も一緒に行くから、きっと大丈夫さ。君の父親は優しいところもあるって言ったじゃないか」
「ええ……」
女性バイトが御冷やの御代わりを持って来た。
「夜鶴さん。銃は置いてきましょう」
「え。それはヤバいんじゃ……」
奈々川さんが強い眼差しをこちらに向ける。
「……解った」
美味いラーメンを食べながら、銃も持たずに戦地に行くのが……正直怖かった。
ピンクのクマのキーホルダーをズボンから取り出し、愛車に乗る。奈々川さんが喜んで助手席に座った。
「すごい。私、車に乗るの初めてなんです」
「きっと、素晴らしい夜になるよ」
私は愛車を小道から大通りに滑らす。この車は排気量が少ないがスピードとパワーはかなりのものだ。
対向車が滑らかに車窓を滑る。
目の前を走る車はいない。
奈々川さんが窓を開ける。9月の夜風は涼しい。助手席の奈々川さんと二人だけでのドライブは、決して醒めたくない微睡みの中にいる。そんな感じだった。
私はA区の大通りをぐるりと回り、B区の小道からB区の大通りに入った。一番安全な道のりだ。そして、一番のデートスポット。云話事シーサイドを走る。
云話事シーサイドには、無数のホテルが夜景を彩り、淡い波の音の聞こえる海が広がっていた。緑の蛍光塗料の付いた服を着た若者たちの真上には、僅か数百メートル上にあると思わせる数多の星たちが浮かんでいた。
「夜鶴さん。あなたと出会えて……本当によかった……」
私はハンドルを自然に回し、今度は云話事シーサイドからそれて、海の道を走る。海の道は両脇に広がる大海原の中央を道路が伸び、一っ直線にパラダイスに続いている。
予約は取っていないが……。
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