ご近所STORY ハイブラウシティ【改訂版】

主道 学

文字の大きさ
30 / 54
危険な恋

29話

しおりを挟む
 次の日。
 値段も手頃なホテルのベットから、起き出した。隣で寝ている奈々川さんをそのままに、私はクローゼットの自分の服を取り出した。

 中にはピースメーカーより大型拳銃のS&W500を宿していた……。
「おはようございます」
 奈々川さんがゆっくり起き出し、テーブルに置いてある朝食を見て喜んだ。
「夜鶴さん。これって?」
「ああ。食べよう」
 私は奈々川さんと向かいの席に着くと、早速料理を吟味した。

 幾つものスライスされたフランスパンにシーザーサラダ。洋ナシのヨーグルト。グレープジュース。それと、一番高かった最高級のチーズをふんだんに使ったチーズフォンデュ。
 いつものコンビニ弁当ではない。……奮発した…………。
「いよいよ、今日ですね……。私、どれくらい父の顔を見てないのかしら……」
「ああ」
 奈々川さんが真剣な表情で私を見つめる。

「もう、君は決して一人ではないよ……」
「……そうですね。私には夜鶴さんがいます」
「それと、島田たちもいる……。結婚を何とか成功させよう」
「そうです。ハイブラウシティ・Bがもう進行してしまっているかも知れないでしょうけど……私たちで何とかしないといけません。今から行きましょう……首相官邸へ……」


 車中。
「そういえば、君のお母さんはどうしているの?」
「ええ……小さい頃に亡くなったのです……」
 助手席の奈々川さんが下を向く。

「私は一人っ子でもあります」
「ああ。それは悲しいことだよね……俺も一人っ子さ」
「でも、夜鶴さんには島田さんたちがいます」
「ああ……」
 車は云話事シーサイドから国道30号線を走る。

 首相官邸はまだまだ先だ。
 恐らく、警護が厳しく中に入ることは簡単には想像できない。けれど、奈々川さんが何とかしてくれるだろう。
「夜鶴さん。もし、私が上手くいかなかったらですけど……逃げて下さい」
 奈々川さんは車の前方を見ながら語気を強めた。
「え?」
「私……父とあまり接していないのです。実は……」
「君は父親には優しいところがあると、前に言ったじゃないか?」
「ええ。嘘ではないです。でも、父は時々、私にはまったく解らない目をする時があるんです」
 奈々川さんが私の方を向いた。
「怖い?」
「いえ……。とは言えないですね。正直、怖いです。父は厳しいところもあって、たまに人の命を顧みない時もあるんです。でも、きっと解ってくれるとは思いますけど……。」
 彼女は箱入り娘だからか? きっと、父親を美化してしまっていたのだろうか? いや、現実を受け止める心の強さがあるはず……どちらにしても、危険を承知で行くしかないか。

 途中、ガソリンスタンドで休憩をした。
 電話で仕事先と島田に連絡をして、しばらく仕事は休むことにしたと言った。
「夜鶴―! 俺も連れていけー!」
 と島田だ。
 田場さんにも同じことを言われたが、無理だった。

 ガソリンスタンドの喫茶店には、背広姿の客が二人いた。カウンター席にいる。私たちは窓際のテーブル席に落ち着いた。
 ネズミを思わせる髭面のマスターにコーヒーを注文すると、私は口を開いた。
「奈々川さん。君は何時頃家出したの?」
「確か二年前です」
 奈々川さんが俯いた。

「あの家は君の?」
「ええ。空き家だったので、大屋さんを呼んだら契約してしまって」
「お金は家から持って来たんだ?」
 奈々川さんが頷いた。
「私……家から貯金を一億ほど父に内緒で下ろしてきたんです」
 い……一億も……。か……金って、一体?

「そういえば、奈々川さんはハイブラウシティ・Bのことをどこで知ったの?」
「何年も前です。夜、父にコーヒーを淹れて、父の書斎へ行ったら机の上で父が感心していました。都市開発企画書類を見つめて、この方法なら私の目的も達成できると……」
「その都市開発企画書類が……」
「ええ……。ハイブラウシティ・Bです。それと矢多辺さんにも言われたんです。父と目的が一緒になったと言ってました。今の都市開発プロジェクトが一変するとも言っていました」


 コーヒーがきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...