平和な日常は終わりを告げた――体格に恵まれぬ三十路の兵士が手にしたのは、触れた能力を己の力に変える『天賦転換』絶望から始まる遅咲きの英雄譚

よっしぃ

文字の大きさ
132 / 139
オランド王国

第130話 聖女と悪魔、欺きの契約

しおりを挟む
 悪魔は、聖女リーンとの契約において、完全に悪魔の方がリーンに騙されてしまったのだ。

 悪魔は、リーンの「対価を先に」という要求を呑み、彼女が最も望んでいるであろう「若返り」を、契約の履行として先に行使した。悪魔の力により、リーンの体から、歳月が巻き戻されていくような感覚が走る。しかし、リーンは、悪魔が期待したような劇的な変化――例えば、若い頃の完璧な美貌を取り戻す――は起こさなかった。

 悪魔が契約の成就を求めようとしたその時、リーンは豪快に笑い飛ばした。

「うははははは! 馬鹿め! まさか、本当に先に若返らせるとはな!」

 悪魔は、自分が騙されたことに気づき、激昂した。契約の対価を確保する前に、力を提供してしまったのだ。

「なっ……貴様っ! この私を騙したのか! ひ、酷すぎる……! まるで……悪魔か!」

 悪魔は、文字通り悪魔をして悪魔と言わしめるほど、リーンの手腕に衝撃を受けていた。自らが使う欺瞞の手法を、人間、しかも聖女に仕掛けられ、成功されてしまったのだ。

「何を言うか! 元国王とアントンを騙しておいて、よくそんなことが言えるな!」リーンは、悪魔を指差し、さらに追い詰める。「お前はあの二人の心の弱みにつけ込み、利用した! 人間を騙すなど、お前たちの得意技だろう!」

 リーンは、悪魔の過去の行いを引き合いに出し、悪魔の論理で悪魔を糾弾する。そして、痛快そうに付け加えた。

「もっとも、騙される方が悪いんだがな! ぐははははは!」

 リーンの言葉は、悪魔にとって最大の屈辱だった。自分の得意技で騙され、さらにその失敗を、自らが過去に騙した愚かな人間どもを引き合いに出されて嘲笑される。そして、「騙される方が悪い」という、悪魔の論理そのものをぶつけられる。

 悪魔は怒りに震えたが、契約は契約だ。例え騙されて先に力を渡してしまっても、契約の形式は成立している。対価は得られなかったが、契約を破棄するわけにはいかない。リーンは、悪魔の力の性質を理解しており、契約の抜け穴を突いたのだ。

 結局、悪魔はリーンに何も得ることはできなかった。それどころか、不本意ながら彼女に(望んだほどではないにせよ)若返りの力を使ってしまった。悪魔は、この屈辱的な敗北に、リーンに対する激しい恨みを抱きつつ、その場から撤退するしかなかった。

 聖女リーンは、悪魔を騙し、打ち負かしたのだ。その手腕は、悪魔さえ舌を巻くほどだった。彼女は、単なる聖女ではない。長年人間社会の裏表を見てきた、深淵のような知恵と、豪胆さを持つ存在だった。

 そんなリーンの「悪魔退治」の一部始終を聞いたシルフィアは、驚愕と共に、何故か尊敬のまなざしをリーンに向けた。精霊たちと心を通わせる純粋なシルフィアにとって、リーンのような「人間的な」狡猾さは、理解を超えているが、ある種の畏怖を感じさせるものだったのかもしれない。

 結果として、聖女リーンは望んだような劇的な若返りはしなかったが、悪魔を出し抜き、その力を不本意ながら使わせることに成功した。悪魔は、再びレクスたちに手痛い一撃を食らわされた形となる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。 広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。 ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。 彼の名はレッド=カーマイン。 最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。 ※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

処理中です...