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世界征服編
この為に産まれてきた
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燃え盛る炎が轟音を立てる。
空気が歪む音と共に、ゆらゆらする鞭のような回し蹴りを避ける銀譲。
「ケヒッ!!オメェは最高だぜぇ!!」
「⋯⋯⋯⋯」
3分。
オーウェンスの連撃を防ぎ続けていた。
最後の後ろ回し蹴りをしゃがんで避け、そのまま少し飛び退くと鼻先につく汗を拭う。
「オメェが6人目だ」
「⋯⋯⋯⋯」
「素手の連撃をここまで避けたのは」
「⋯⋯それは光栄だ」
短く返し、鋭い眼光で答える銀譲。
やはり大将の言う通り。
この男は普通じゃない。
スピード、パワー、邪悪さ。
俺の好きなキャラクターとは正反対の能力値だ。
どれも俺自身を上回っている能力値だ。
「あァ?」
オーウェンスの目には独特な構えを見せながら歩いてくる銀譲の姿。
なんだありゃ?
頭の後ろで手を組んで伸ばすなんて技あったか?
しかもだるそうだし。
"大聖高校史上最強の男──大城始"
「⋯⋯?」
首を傾げるオーウェンス。
大城始。
キックボクシング歴7年。
「⋯⋯っ!?」
オーウェンスと銀譲の距離は一瞬で縮まる。
オイオイ⋯⋯マジかよ!
大城始のスタイルはキックボクシングが中心にあるタイプだが、特筆するべきは違う。
圧倒的なスピード。
そしてそのスピードを活かした足技にある。
「ケッ!」
鼻で笑いながらオーウェンスは連続でやってくる落雷のような速度の蹴り技を硬すぎる拳の鎧でいなす形で捌く。
だがそのまま。
銀譲は着地すると地面に着いた手の反動を使い、靭やかな身体操作でオーウェンスの顎を脚で跳ね上げる。
「⋯⋯っ!?」
あァ?
仰け反りながら後ろへ滑るオーウェンス。
口から溢れでる血を拭き取り、口の中に溜まった血溜まりを吐き捨てる。
「ペッ!」
なんだ今の?
それに。
「⋯⋯⋯⋯」
銀譲を見ながらオーウェンスは内心首を傾げる。
アイツの蹴り──"俺に通りやがった"。
神聖力は魂の浄化したモノを使えばいくらでも強化が可能なのが強み。
だから俺達の強さは保証されているし、攻撃や防御についても同じ。
だがアイツの蹴りは俺達の鎧を突破してきやがった。
「ケッ!なんだ?
どんな手品を使いやがったんだ?」
「⋯⋯⋯⋯」
ーー銀、お前に伝えなきゃいない事がある。
大将から聞いた。
この世界には魔力という概念が存在していることを。
大将によってどうやら今の俺の身体には魔力が通っているらしいのだが、具体的には何も教えてもらえなかった。
石田や他の者達には何か渡していたのに。
「おい、聞いてんのか?」
「化物と話すことはない」
オーウェンス。
コイツはきっと、過去の自分として映っている。
俺が超えるべき壁であり、俺自身の戒めとして。
「じゃあ化物らしくやるとするかなァ!!」
「⋯⋯っ、」
ローブみたいなものが揺れると一瞬で俺の前にやって来るオーウェンス。
「ほら!ほらほらほらほらァ──!!!」
確かにヤツはおかしい。
目から黄金の炎が燃えているし、一撃の破壊力もどうかしている。
拳を避けると本来届くはずだった威力の風が背後にある建物を通して爆発している。
連続で来る蹴りに対して身を屈め、しゃがんで避ければ、ゲームで見るような斬撃が見える。
そう。大将の違和感はこれだったのか。
あの時既に化物だったわけか。
体格差があるのにあそこまで広がってた理由が分かった気がする。
ここまでの怪力を魔力というもので広げられるなら、それは体格という絶対的な格差を埋められる。
むしろ俺が押されるのは当然のことか。
──ただ、無かったとて、
"それでも勝てるなんて微塵も思わないがな"。
あれはセンスの塊ってやつだろう。
生まれ持ったものだ。
戦闘に対する予知。
天性の感覚。
どの道負けて今の人生を歩んでいると思うと⋯⋯人の運命というのは面白いと言わざるを得ない。
「避けてばっかじゃつまらねぇだろうがよォ!!」
凄い風圧だ。
当たってもないのに迫りくる拳の周りに謎の衝撃波のようなものが既にまとわり付いている。
だが──負けない。
「ぐっ⋯⋯うっ!?」
清陵高校トップ──酒井仁。
上奥高校トップ──斎藤隆。
二人の見せるボクシングスタイル。
電光石火のスピードを活かした技と反撃に特化したスタイル。
銀譲のカウンターは見事綺麗に決まり、オーウェンスの鼻にめり込む。
「オイオイ⋯⋯」
「ッ!?」
バックステップをとり、そのままダッキングして皆木を思い出す。
「中々やるじゃねぇか」
鼻血が舞う視界の中。
オーウェンスの意識は最高潮に盛り上がっていた。
「獅子の鼓動」
「⋯⋯!?」
ドクン、ドクン。
この場に心臓の鼓動が響く。
──脈動だ。
人の形をしているオーウェンスの心臓が、これでもかというほど鼓動を鳴らしている。
なんだ?
銀譲は素早く攻撃を止め、距離を取る。
「悪いなァ?
俺達もそろそろお遊びの時間は終わりなんだよォ」
「その割には満身創痍に見えるが?」
「オイオイ馬鹿言うなよ!」
そう言ってオーウェンスは軽く後ろへ砂利を滑らせるが如く蹴る。
ドゥン──!!
先程までそこにあった瓦礫が更地に姿を変えている。
視線がオーウェンスに戻る銀譲のこめかみには冷や汗が伝う。
やはり⋯⋯本気ではなかったか。
「テメェなんぞ最初からいつでも殺せた。
なんで付き合ってやってるか⋯⋯分かるかァ?
⋯⋯調子に乗った弱者を甚振るのがすこぶる好きなんだよォ。
俺はなァ!!!」
っ、さっきとは桁違いのスピードだ!
「ほらァ!!!」
オーウェンスの放つ突き。
それがさっきまでの威力とは別次元の破壊力を持っている。
銀譲が両腕をクロスした上からでも、背後のビルに吹き飛び、その建物は倒壊する。
「ケッ!雑魚がイキんなよ」
やべぇな。
神聖力が意外と足りねぇな。
魂と神聖力が飛び交う光景を見上げるオーウェンス。
プロヴァンハイドは順調そうだが、これには俺達にも欠点がある。
それは神聖力を使って召喚する必要があるからこそ、大量に必要とする儀式。
それらを集まるとはいえ、信仰の量が今の状態でも召喚には足りねぇ。
だからあの堅物隊長様は魂を使って集める⋯⋯なんて言い放ったわけだが、俺達の神聖力も喰われてる。
本体はここにはないが、アメーロによって顕現している事もあって最大限力を発揮できない状態で神聖力を奪われながら戦わないといけない。
つまり長期戦に全く向いてねぇ。
弱体化しながら相手しねぇといけねぇのに⋯⋯あんな人間がまだこの世界にいるなんてな。
倒壊したビルを横目にオーウェンスは舌打ちする。
危なかったぜ。
あと少し時間取られていたら、俺もただじゃ済まなかったなァ。
アメーロなんて二度とごめんだ。
本体じゃねぇと安心感がねぇ。
「⋯⋯?」
パラパラと落ちる瓦礫の残骸。
その中から人影が蠢くのをオーウェンスは見逃さない。
「オイオイ──獅子の鼓動で強化して放ったのにまだ生きてんのか?」
⋯⋯厄介だなァ。
あとどれだけの人間がここにいるんだ?
隊長に伝えたほうが良さそうだな。
「ゴホッ、ゴホッ!」
意識を失いかけた。
立ち上がる銀譲。
その姿はなんとも言えない。
フラフラして立ってるのが精一杯。
額からは切り傷越しに血が垂れている。
全身ボロボロ。
だが、肝心の瞳はこれまでで一番の興奮を見せていた。
「ハァ、ハァハァ⋯⋯」
ーーねぇお兄ちゃん!
銀譲の頭に浮かぶのは、ここに来る前の出来事。
『お兄ちゃん、湊翔お兄ちゃんと会ってからカッコよくなった!』
『そうか?』
『うん!
でも、これから怖いところに行くんでしょ?』
俯く鈴を見下ろす銀譲。
『大丈夫だ。
必ず鈴と大地を迎えにくる』
『ほんと?』
『あぁ。
だから、ここで待ってるんだぞ?』
二人を抱きしめ、銀譲は日本へ帰国した。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
ーー大将!
『ん?どうした?』
『行く前に⋯⋯礼を言いたくてな』
作業している湊翔は手を止め、銀譲を見上げる。
『俺を、俺達を⋯⋯導いてくれて感謝する』
『なんだ突然?
死ぬつもりはないだろ?』
『勿論だ。
前回も命を賭けて救ってもらっている』
『今回はそう行かない』
『⋯⋯だろうな。
大将の顔色を見れば分かる。
大将ほどの人間が東京国民を守りきれないのは信じられないが、そうしなきゃいけない理由があるんだろう』
『買い被り過ぎだ』
『いや、俺はそう信じている』
『そうか?』
作業に戻り、視線を落とす湊翔。
しばらくの沈黙の後、銀譲は静かに言い放った。
『俺は、本当は守る為に生きたかった』
研いでいる手が止まる湊翔。
『俺は一度、道を違えた。
そのせいで極道という道に進み、大将と出会った時も、金に目が眩み、自分という柱を見失う寸前のところだった。
石田の力を借りて。
しかし、今は大将のおかげで、俺が本当にやりたかった事をやれる。
それに命を賭けれる事を⋯⋯誇りに思う』
『死なねぇよな?銀』
『勿論だ』
湊翔は銀譲を見上げることはしなかった。
そこに確かな信頼があったからだろう。
『俺には時間が必要だ。
ギリギリまでどうにかする必要がある。
だから今回、色んな人間を呼びつけてそれぞれ配置を決めた。
銀、俺の信頼が伝わるか?』
「ハァ⋯⋯⋯⋯ハハハハ」
ーーお前は、俺の中で"特別"だ。
脳内に響く声。
銀譲はフラフラになりながらも、声に出して笑う。
「ハハハハハ!!」
「なんだなんだァ?
おかしくなっちまったんじゃねぇのかァ?」
するとオーウェンスの周りに衝撃波が起こったかと思うと、一瞬で銀譲の前に行き、肉眼を超えた速度の突きが向かう。
その一撃。
ガン、と。
突きは確かに届いた。
「⋯⋯っ?」
突いたオーウェンスの表情は困惑する。
なんだ?
吹き飛ばねぇ⋯⋯だと?
土埃が晴れると、そこには。
「受け⋯⋯止めた?俺の一撃を?」
そこには、両足、そして腰を落として踏ん張り、無防備にも顎を上げて喉仏を晒す銀譲の姿。
謂わば変速の三戦に近い。
「⋯⋯⋯⋯」
仰け反ることもない。
ただ、地面に広がる衝撃波がソレを物語っている。
"神門流極真空手──鉄山"
「っ?」
神聖力によって強化された視力でオーウェンスは銀譲の体内を見ていた。
なんだ?アレ?
白い⋯⋯炎?
奔る、奔る。
その時、銀譲の頭の中で、様々な記憶が走り続ける。
産まれてからずっと⋯⋯飢えて、飢えて、護ると。
ーー「「お兄ちゃん!」」
ーー「アニキ!!」
ーー「信じてます!」
ーー「最初の舎弟賢──誠実剛拳のアニキを最期まで見届けるっす!!」
ーー「アニキ、どこまで付いていきます」
ーー「⋯⋯銀、言葉はいらない。
男だからな」
それこそが自分の産まれてきた理由だと。
「ハ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!゛!゛!゛!゛」
──今度は違う。
"神門式格闘術"
──護るために。
"第一式"
──この為に産まれてきたんだ。
「"""王牙"""」
巨大な白い炎の奔流。
銀譲の拳が触れた瞬間。
オーウェンスの身体は白い炎によって爆散し、体内にあった神聖力は蒸発していく。
たった一撃。
しかしそれは、知覚も出来ない神速の一撃。
その余波は、そのまま背後にある109の壁面全てを抉るような風穴を開けた。
「ハァ、ハァ」
あの時とは違う。
なぜか、座禅をした時から身体が強くなった気がする。
意味は分からない。
しかし。
両手を見つめる。
前回は立てもせず、結果も知らず、何も出来なかった。
強く掌を握り締める。
「護れた」
──大将、護れたぞ!!
「とはいえ、満身創痍だな」
フラフラな中。
「アニキー!!!」
「石田?」
寄りかかる銀譲の元へやって来る⋯⋯石田の姿。
「エリクサー飲んでください!これ!」
お椀を持つようにして渡してくる石田を見た銀譲は穏やかに笑う。
「これが魔法ってやつか」
手にとって飲み干す。
すると身体が嘘のように癒えていくのを感じる。
「大将はやっぱり天才の類だったか」
「あんなのチートなだけですよ!
存在してる事こそおかしいんですから!」
「これならまだまだ戦えそうだ。
他に困ってる所はないのか?」
「あるっすけど、一旦──」
その時だった。
楽しげに話す二人の間の目と鼻の先。
そこには奇妙なモノが。
【Galatube運営が第十惑星地球を観測。】
【惑星データを確認。】
【まだこの惑星では未発見のエネルギーを確認。】
【この世界は塔に認知されました。】
【世界の介入度合いを確かめるため、オープンチャットに切り替えます】
「「な、なんだこれ?」」
「あ、アニキも見えます?」
「あ、あぁ。
石田もか?」
二人の前にはタブレットほどである大きさのウインドウのようなものが現れている。
「ギャラチューブ?
今流行ってる動画サイトの名前っすかね?」
「大将が配信者と裏でヤリまくってる男になりたいから今の内からどうのこうのと言ってた事と関係あるのか?
もしかして」
石田は表示されている謎のウインドウに手を通す。
「でもこれ、透明ですよ?
貫通します!」
「なんだこれ?」
「ええ、とにかく、伊崎さんの所へ向かった方が──」
【想定外のコインを消費したハンドルネーム:[黒髪滅する]がこの世界に直接介入出来るようになりました】
【Galatubeの注目急上昇度が18006位までに上昇】
「「やっぱあの人の所へ急がないと!」」
空気が歪む音と共に、ゆらゆらする鞭のような回し蹴りを避ける銀譲。
「ケヒッ!!オメェは最高だぜぇ!!」
「⋯⋯⋯⋯」
3分。
オーウェンスの連撃を防ぎ続けていた。
最後の後ろ回し蹴りをしゃがんで避け、そのまま少し飛び退くと鼻先につく汗を拭う。
「オメェが6人目だ」
「⋯⋯⋯⋯」
「素手の連撃をここまで避けたのは」
「⋯⋯それは光栄だ」
短く返し、鋭い眼光で答える銀譲。
やはり大将の言う通り。
この男は普通じゃない。
スピード、パワー、邪悪さ。
俺の好きなキャラクターとは正反対の能力値だ。
どれも俺自身を上回っている能力値だ。
「あァ?」
オーウェンスの目には独特な構えを見せながら歩いてくる銀譲の姿。
なんだありゃ?
頭の後ろで手を組んで伸ばすなんて技あったか?
しかもだるそうだし。
"大聖高校史上最強の男──大城始"
「⋯⋯?」
首を傾げるオーウェンス。
大城始。
キックボクシング歴7年。
「⋯⋯っ!?」
オーウェンスと銀譲の距離は一瞬で縮まる。
オイオイ⋯⋯マジかよ!
大城始のスタイルはキックボクシングが中心にあるタイプだが、特筆するべきは違う。
圧倒的なスピード。
そしてそのスピードを活かした足技にある。
「ケッ!」
鼻で笑いながらオーウェンスは連続でやってくる落雷のような速度の蹴り技を硬すぎる拳の鎧でいなす形で捌く。
だがそのまま。
銀譲は着地すると地面に着いた手の反動を使い、靭やかな身体操作でオーウェンスの顎を脚で跳ね上げる。
「⋯⋯っ!?」
あァ?
仰け反りながら後ろへ滑るオーウェンス。
口から溢れでる血を拭き取り、口の中に溜まった血溜まりを吐き捨てる。
「ペッ!」
なんだ今の?
それに。
「⋯⋯⋯⋯」
銀譲を見ながらオーウェンスは内心首を傾げる。
アイツの蹴り──"俺に通りやがった"。
神聖力は魂の浄化したモノを使えばいくらでも強化が可能なのが強み。
だから俺達の強さは保証されているし、攻撃や防御についても同じ。
だがアイツの蹴りは俺達の鎧を突破してきやがった。
「ケッ!なんだ?
どんな手品を使いやがったんだ?」
「⋯⋯⋯⋯」
ーー銀、お前に伝えなきゃいない事がある。
大将から聞いた。
この世界には魔力という概念が存在していることを。
大将によってどうやら今の俺の身体には魔力が通っているらしいのだが、具体的には何も教えてもらえなかった。
石田や他の者達には何か渡していたのに。
「おい、聞いてんのか?」
「化物と話すことはない」
オーウェンス。
コイツはきっと、過去の自分として映っている。
俺が超えるべき壁であり、俺自身の戒めとして。
「じゃあ化物らしくやるとするかなァ!!」
「⋯⋯っ、」
ローブみたいなものが揺れると一瞬で俺の前にやって来るオーウェンス。
「ほら!ほらほらほらほらァ──!!!」
確かにヤツはおかしい。
目から黄金の炎が燃えているし、一撃の破壊力もどうかしている。
拳を避けると本来届くはずだった威力の風が背後にある建物を通して爆発している。
連続で来る蹴りに対して身を屈め、しゃがんで避ければ、ゲームで見るような斬撃が見える。
そう。大将の違和感はこれだったのか。
あの時既に化物だったわけか。
体格差があるのにあそこまで広がってた理由が分かった気がする。
ここまでの怪力を魔力というもので広げられるなら、それは体格という絶対的な格差を埋められる。
むしろ俺が押されるのは当然のことか。
──ただ、無かったとて、
"それでも勝てるなんて微塵も思わないがな"。
あれはセンスの塊ってやつだろう。
生まれ持ったものだ。
戦闘に対する予知。
天性の感覚。
どの道負けて今の人生を歩んでいると思うと⋯⋯人の運命というのは面白いと言わざるを得ない。
「避けてばっかじゃつまらねぇだろうがよォ!!」
凄い風圧だ。
当たってもないのに迫りくる拳の周りに謎の衝撃波のようなものが既にまとわり付いている。
だが──負けない。
「ぐっ⋯⋯うっ!?」
清陵高校トップ──酒井仁。
上奥高校トップ──斎藤隆。
二人の見せるボクシングスタイル。
電光石火のスピードを活かした技と反撃に特化したスタイル。
銀譲のカウンターは見事綺麗に決まり、オーウェンスの鼻にめり込む。
「オイオイ⋯⋯」
「ッ!?」
バックステップをとり、そのままダッキングして皆木を思い出す。
「中々やるじゃねぇか」
鼻血が舞う視界の中。
オーウェンスの意識は最高潮に盛り上がっていた。
「獅子の鼓動」
「⋯⋯!?」
ドクン、ドクン。
この場に心臓の鼓動が響く。
──脈動だ。
人の形をしているオーウェンスの心臓が、これでもかというほど鼓動を鳴らしている。
なんだ?
銀譲は素早く攻撃を止め、距離を取る。
「悪いなァ?
俺達もそろそろお遊びの時間は終わりなんだよォ」
「その割には満身創痍に見えるが?」
「オイオイ馬鹿言うなよ!」
そう言ってオーウェンスは軽く後ろへ砂利を滑らせるが如く蹴る。
ドゥン──!!
先程までそこにあった瓦礫が更地に姿を変えている。
視線がオーウェンスに戻る銀譲のこめかみには冷や汗が伝う。
やはり⋯⋯本気ではなかったか。
「テメェなんぞ最初からいつでも殺せた。
なんで付き合ってやってるか⋯⋯分かるかァ?
⋯⋯調子に乗った弱者を甚振るのがすこぶる好きなんだよォ。
俺はなァ!!!」
っ、さっきとは桁違いのスピードだ!
「ほらァ!!!」
オーウェンスの放つ突き。
それがさっきまでの威力とは別次元の破壊力を持っている。
銀譲が両腕をクロスした上からでも、背後のビルに吹き飛び、その建物は倒壊する。
「ケッ!雑魚がイキんなよ」
やべぇな。
神聖力が意外と足りねぇな。
魂と神聖力が飛び交う光景を見上げるオーウェンス。
プロヴァンハイドは順調そうだが、これには俺達にも欠点がある。
それは神聖力を使って召喚する必要があるからこそ、大量に必要とする儀式。
それらを集まるとはいえ、信仰の量が今の状態でも召喚には足りねぇ。
だからあの堅物隊長様は魂を使って集める⋯⋯なんて言い放ったわけだが、俺達の神聖力も喰われてる。
本体はここにはないが、アメーロによって顕現している事もあって最大限力を発揮できない状態で神聖力を奪われながら戦わないといけない。
つまり長期戦に全く向いてねぇ。
弱体化しながら相手しねぇといけねぇのに⋯⋯あんな人間がまだこの世界にいるなんてな。
倒壊したビルを横目にオーウェンスは舌打ちする。
危なかったぜ。
あと少し時間取られていたら、俺もただじゃ済まなかったなァ。
アメーロなんて二度とごめんだ。
本体じゃねぇと安心感がねぇ。
「⋯⋯?」
パラパラと落ちる瓦礫の残骸。
その中から人影が蠢くのをオーウェンスは見逃さない。
「オイオイ──獅子の鼓動で強化して放ったのにまだ生きてんのか?」
⋯⋯厄介だなァ。
あとどれだけの人間がここにいるんだ?
隊長に伝えたほうが良さそうだな。
「ゴホッ、ゴホッ!」
意識を失いかけた。
立ち上がる銀譲。
その姿はなんとも言えない。
フラフラして立ってるのが精一杯。
額からは切り傷越しに血が垂れている。
全身ボロボロ。
だが、肝心の瞳はこれまでで一番の興奮を見せていた。
「ハァ、ハァハァ⋯⋯」
ーーねぇお兄ちゃん!
銀譲の頭に浮かぶのは、ここに来る前の出来事。
『お兄ちゃん、湊翔お兄ちゃんと会ってからカッコよくなった!』
『そうか?』
『うん!
でも、これから怖いところに行くんでしょ?』
俯く鈴を見下ろす銀譲。
『大丈夫だ。
必ず鈴と大地を迎えにくる』
『ほんと?』
『あぁ。
だから、ここで待ってるんだぞ?』
二人を抱きしめ、銀譲は日本へ帰国した。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
ーー大将!
『ん?どうした?』
『行く前に⋯⋯礼を言いたくてな』
作業している湊翔は手を止め、銀譲を見上げる。
『俺を、俺達を⋯⋯導いてくれて感謝する』
『なんだ突然?
死ぬつもりはないだろ?』
『勿論だ。
前回も命を賭けて救ってもらっている』
『今回はそう行かない』
『⋯⋯だろうな。
大将の顔色を見れば分かる。
大将ほどの人間が東京国民を守りきれないのは信じられないが、そうしなきゃいけない理由があるんだろう』
『買い被り過ぎだ』
『いや、俺はそう信じている』
『そうか?』
作業に戻り、視線を落とす湊翔。
しばらくの沈黙の後、銀譲は静かに言い放った。
『俺は、本当は守る為に生きたかった』
研いでいる手が止まる湊翔。
『俺は一度、道を違えた。
そのせいで極道という道に進み、大将と出会った時も、金に目が眩み、自分という柱を見失う寸前のところだった。
石田の力を借りて。
しかし、今は大将のおかげで、俺が本当にやりたかった事をやれる。
それに命を賭けれる事を⋯⋯誇りに思う』
『死なねぇよな?銀』
『勿論だ』
湊翔は銀譲を見上げることはしなかった。
そこに確かな信頼があったからだろう。
『俺には時間が必要だ。
ギリギリまでどうにかする必要がある。
だから今回、色んな人間を呼びつけてそれぞれ配置を決めた。
銀、俺の信頼が伝わるか?』
「ハァ⋯⋯⋯⋯ハハハハ」
ーーお前は、俺の中で"特別"だ。
脳内に響く声。
銀譲はフラフラになりながらも、声に出して笑う。
「ハハハハハ!!」
「なんだなんだァ?
おかしくなっちまったんじゃねぇのかァ?」
するとオーウェンスの周りに衝撃波が起こったかと思うと、一瞬で銀譲の前に行き、肉眼を超えた速度の突きが向かう。
その一撃。
ガン、と。
突きは確かに届いた。
「⋯⋯っ?」
突いたオーウェンスの表情は困惑する。
なんだ?
吹き飛ばねぇ⋯⋯だと?
土埃が晴れると、そこには。
「受け⋯⋯止めた?俺の一撃を?」
そこには、両足、そして腰を落として踏ん張り、無防備にも顎を上げて喉仏を晒す銀譲の姿。
謂わば変速の三戦に近い。
「⋯⋯⋯⋯」
仰け反ることもない。
ただ、地面に広がる衝撃波がソレを物語っている。
"神門流極真空手──鉄山"
「っ?」
神聖力によって強化された視力でオーウェンスは銀譲の体内を見ていた。
なんだ?アレ?
白い⋯⋯炎?
奔る、奔る。
その時、銀譲の頭の中で、様々な記憶が走り続ける。
産まれてからずっと⋯⋯飢えて、飢えて、護ると。
ーー「「お兄ちゃん!」」
ーー「アニキ!!」
ーー「信じてます!」
ーー「最初の舎弟賢──誠実剛拳のアニキを最期まで見届けるっす!!」
ーー「アニキ、どこまで付いていきます」
ーー「⋯⋯銀、言葉はいらない。
男だからな」
それこそが自分の産まれてきた理由だと。
「ハ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!゛!゛!゛!゛」
──今度は違う。
"神門式格闘術"
──護るために。
"第一式"
──この為に産まれてきたんだ。
「"""王牙"""」
巨大な白い炎の奔流。
銀譲の拳が触れた瞬間。
オーウェンスの身体は白い炎によって爆散し、体内にあった神聖力は蒸発していく。
たった一撃。
しかしそれは、知覚も出来ない神速の一撃。
その余波は、そのまま背後にある109の壁面全てを抉るような風穴を開けた。
「ハァ、ハァ」
あの時とは違う。
なぜか、座禅をした時から身体が強くなった気がする。
意味は分からない。
しかし。
両手を見つめる。
前回は立てもせず、結果も知らず、何も出来なかった。
強く掌を握り締める。
「護れた」
──大将、護れたぞ!!
「とはいえ、満身創痍だな」
フラフラな中。
「アニキー!!!」
「石田?」
寄りかかる銀譲の元へやって来る⋯⋯石田の姿。
「エリクサー飲んでください!これ!」
お椀を持つようにして渡してくる石田を見た銀譲は穏やかに笑う。
「これが魔法ってやつか」
手にとって飲み干す。
すると身体が嘘のように癒えていくのを感じる。
「大将はやっぱり天才の類だったか」
「あんなのチートなだけですよ!
存在してる事こそおかしいんですから!」
「これならまだまだ戦えそうだ。
他に困ってる所はないのか?」
「あるっすけど、一旦──」
その時だった。
楽しげに話す二人の間の目と鼻の先。
そこには奇妙なモノが。
【Galatube運営が第十惑星地球を観測。】
【惑星データを確認。】
【まだこの惑星では未発見のエネルギーを確認。】
【この世界は塔に認知されました。】
【世界の介入度合いを確かめるため、オープンチャットに切り替えます】
「「な、なんだこれ?」」
「あ、アニキも見えます?」
「あ、あぁ。
石田もか?」
二人の前にはタブレットほどである大きさのウインドウのようなものが現れている。
「ギャラチューブ?
今流行ってる動画サイトの名前っすかね?」
「大将が配信者と裏でヤリまくってる男になりたいから今の内からどうのこうのと言ってた事と関係あるのか?
もしかして」
石田は表示されている謎のウインドウに手を通す。
「でもこれ、透明ですよ?
貫通します!」
「なんだこれ?」
「ええ、とにかく、伊崎さんの所へ向かった方が──」
【想定外のコインを消費したハンドルネーム:[黒髪滅する]がこの世界に直接介入出来るようになりました】
【Galatubeの注目急上昇度が18006位までに上昇】
「「やっぱあの人の所へ急がないと!」」
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敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
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しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
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※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
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