【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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世界征服編

万物の王と呼ばれた男と獅子王と呼ばれた男

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 二人の出会いは、一つの場所から始まった。

 「た、旅の方!困ります!」

 押しかける一人の肩まで伸びる赤い髪をした絶世の美男子。

 その名を"ノーザン"。 
 真ん中分けの束感溢れる前髪に、サラサラしっとりの後ろ髪。

 彼の時代はいくつもあるが、この時はケルビンという人物ではなく、表向きはノーザンという旅の魔法使いになって早100年が経とうとしていた頃の話だ。

 「何がだ?
 俺は俺のしたいようにしてるだけだ。
 お前の話なんぞ聞いとらん」

 「ノーザン様が高名な魔法使いであられる事は重々承知していますが、ここはアレイスター管轄の聖堂であります故⋯⋯」

 「うるせぇな。
 オメェに人権なんてねぇよ。

 聖堂だかなんだかしらねぇけど、こっちはてめぇらの謎の言い分が聞いてらんねぇから足を運んでやってんだっつーの」

 「⋯⋯と、仰いますと?」

 「俺の育てている黒い髪の少年なんだが、間違えて皇都だったか?

 そこに配属されてしまったせいで有無を言わせずに殺されたんだ。

 こっちは知らん内に返ってきたのは腕一本だぞ?

 親の気持ちがわかるかってんだよ。

 それを聖堂だから云々で黙ってられると思うのか?てめぇの家族がそうなって待てんのか?」

 「で、ですから」

 「オイ──」

 全身から溢れ、立ち昇る⋯⋯化物じみた魔力の奔流。

 案内係の中年男性が腰を抜かしてノーザンを見上げる。

 「ヒッ!」

 「だったら⋯⋯お前の奥さんでも母親でも売り飛ばしてみようか?

 それで本当に文句も言わずに働いてたらいいな?」

 「ぁ⋯⋯っ⋯⋯かっ!」

 男の頭を鷲掴み。
 鼻先まで顔を近付け、嗤う。

 「お前、俺の気持ちがわかるよな?
 子持ちの心配性は治らねぇんだよ。

 早く上を呼べ、呼べって言ってんだこのクソ野郎が!!!!!」

 後ろを歩いていた事務員の頭が綺麗に弾ける。

 「キャァァァァァァ!!!!!」

 男の目には、爆発的な魔力を燃え上がらせ、猛獣に掴まれ、目は見開いたまま、その後ろの歩いていた人間が何もしていないのにいきなり頭が飛び散る光景。

 「わ、わた⋯⋯」

 「あァ?」

 「けっ、権限が⋯⋯」

 「そうだな?
 じゃあお前の奥さんを盗賊にでも預けようか?

 そうしたら返ってくるのは腕の一本かもしれない。

 立派な事だな?」

 そこへ、コツ、コツと一人の足音が聖堂で響く。

 「⋯⋯あ?」

 ノーザンが外の方へと目を向ける。
 聞き耳を立てると外の廊下から誰かの声がこだまする。

 「獅子王殿下!
 いけません!」

 「客人は酷く怒り狂っているのだろう?
 上を呼べとかなんだとか。

 私ならばきっと満足してくれると信じている」

 なんだ?

 ノーザンの瞳にはこれでもかというほど溢れる黄金の魔力が隠れずにだだ漏れている。

 聖堂の扉が開かれる。

 「旅の客人様、遅れて申し訳ありませぬ」

 正された姿勢。
 優れた容姿。
 所作の一つ一つが完璧。
 服装も単純。

 しかし、全てを持った男がノーザンの前で一礼する。

 「失礼、乱暴はご容赦していただきたい。

 私は獅子王という役職、呼び名でいるアレクサンドル・オジディンデウス・リアハイル・アレイスターと申します」

 独特な挨拶をみせ、アレクサンドルはノーザンの前に現れた。

 「旅の魔法使い、ノーザン」

 「ノーザン様のお名前は失礼ながら存じ上げませんが、一つ経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか?」








 「ケルビン・アルファル・ディア・アウグスベルファウス!!!!」

 「小僧!剣は相変わらずだな!」

 
 ーー私としては教義に則り、実行したまででございますので、もし手違いで起こってしまったのだとすれば、手厚く生涯で得られる平民一人の金銭で解決しましょう。

 "お前、イカれてんのか?"

 ーーはい?何故でしょう?
 産まれているだけで罪なのですから、放置されているだけでもマシなのでは?

 手厚い補償もすると申し上げているのですから、文句を言われる謂れはないと思いますが?

 
 「ハハハハハッ!!!!
 貴様の為に沢山のお土産があるぞ!
 お前を殺す為に得た──力だ!!」

 "根源よ目覚めろ──────

 「⋯⋯っ!」

 軽く振るうと迫りくる黒い斬撃。

 なんだ?アレ。
 私の知らない魔力体系。

 ケルビンは即座に頭に浮かべる。

 "古い不要な10年分の記憶"

 返ってくるのは、グニャグニャとした文字。

 「捨てる」

 翳す手には幾何学模様の障壁が展開される。
 そのままガン!と斬撃を相殺し、反撃に出る。

 亜空間から取り出した黄金の剣──不滅の黄金スタトレウス

 星の魔力を込め、構える。

 ドクン、ドクンと。
 刀身に纏う星の力は増幅し、金属音が反芻し更に加速する。

 「星の咆哮フローディアレオ

 ジュァァァアアアアア!!!!!

 神秘的な咆哮と雷電。
 枝のように奔る星の雷が黒騎士へと向かう。

 「ハハハハハッ!!
 そんなモノ──」

 その時、目を見開く黒騎士。

 「貴様⋯⋯!」

 「私の魔力にやっと気付いたようだな」

 黒い障壁をすり抜け、直撃する黒騎士。

 「くっ!」

 神聖力と星の魔力。
 師は気付いていたんだ。

 星の魔力が唯一、神聖力の鉄壁を超える力だということに。 

 ま、と言っても。
 アイツの神聖力の量じゃ、焼け石に水だがな。

 黒い神聖力が黒騎士を瞬時に癒やす。
 もはや喰らったか分からない速度だ。

 「⋯⋯弱くなったな、万物の王」

 「それはどうも。
 お前の言う通りだ」

 「あの時は認めるなどつゆほどもしなかった男が」


 "教義だかなんだかしらねぇけど、お前らにそこまで言われる筋合いはねぇよ"

 この時、三時間近く二人は言葉を交わした。
 アレクサンドルはノーザンとある種似ている部分があったからだ。

 雰囲気なのか、魂なのか。

 ーー私としましては、教義ですから。 
 平民の生涯稼ぐであろう数倍⋯⋯金貨100枚。

 これ以上は分不相応ではないかと思うのです。

 "お前、家族いるのか?"

 アレクサンドルの顔はピクつく。

 ーーどういう意味でしょう?

 "文字通りの意味だよ。
 人の生命は金で解決できると?"

 ーーその通りでございます。
 この世界はアレイスター神がお創りなられた世界。

 咎めないということはつまり、是である。 
 それが我々の見解です。

 生命は誰にも与えられる権利でありますが、同時に、現状の制度はどうしても否定できません。

 しかしそれをお許しなられているということは、それは許されるということです。

 家族の有無についてであれば、産んだ母上がいますから、両親はいます。

 

 剣戟は続く。
 星の魔力を纏う万物の王。

 「⋯⋯ははッ!」
 
 "愛されてこなかっただろ?"

 「ハァァァ!!!!」

 ーー両親はこの世界を憂いておられるのですよ。

 万物の王の連撃を最小限の攻撃で防ぐ。
 一撃膠着するだけで、波紋が広がり、空中を蹴り上がるだけで周囲の建造物が揺れる。

 「こ、これが、伊崎さんの本気」

 空には常時展開する空色の光と黒い光。
 30分以上も続くその"個の戦争"

 地上にいる石田たちは、ただその光景を眺めるしか出来ない。



 "不要な300年分の記憶"

 「捨てる」

 幾何学模様が剣に纏う。

 「ふンッ、魔力が足らなそうだな!」

 「⋯⋯そりゃどうも」

 律法すらまだ使わねぇか。
 キツイな。

 攻防の中、ケルビンの表情は曇る。

 「貴様の為に地球の平行世界に行った」

 「ぐッ⋯⋯!」

 一瞬の隙に黒騎士の回し蹴りがケルビンの溝に入り、後方へ吹っ飛んでいく。

 「そうだ。
 パラレルワールドと言ったか?

 私は契約したのだ。
 貴様の存在を滅ぼす為に、この魂の穢れを受け入れた!!」

 黒い燃えるオーラが、今まで以上に噴き出す。

 「分かるか?
 貴様がのうのうと生きてきた間、私は幾万年という時間を受け入れ、貴様の痕跡全てを消す為に、代行したのだ!

 貴様に殺された後──あのお方が私に取引を持ち出してくれたのだ!!」

 首が壁に埋まるケルビン。

 「ハハ。
 大層な事ばっかり言いやがって」

 「何?」

 「何が気に食わねぇんだ?
 自分の手で人を殺したからか?
 それとも、自身を神だと信じきった自分への罪滅ぼしか?」

 「貴様⋯⋯!!」

 急速に集束する黒いエネルギーと甲高い金属音。

 瓦礫から顔を出したケルビンの前には、剣先に集まる黒い塊。

 あれは避けれない。
 本能が言ってる。

 "記憶6万年"

 「⋯⋯っ、捨てる」

 『ねぇ、ケルビン!!』
 
 「⋯⋯⋯⋯」
 
 「黒い弾劾メノウ

 絶叫の不協和音。
 障壁は直撃するが、なんとか耐え忍ぶ。

 「ほう?」

 ケルビンの周囲は無。
 クレーターは出来上がってはいるものの、破壊ではなく、無くなっている。
 
 「ふぅ」

 知らねぇ技だが、なんとか⋯⋯か。

 見上げるケルビン。

 「ふッ。
 化物になって帰ってきたってのは本当みてぇだな」

 「化物でも構わないさ。
 もう私の記憶にはお前しか記憶にはない。

 幾万年生きて行ってきたのは、この地球という歴史を、未来から順番に消し去り、過去を書き換え、我々アレイスターの土壌を作り上げたのだから」

 「過去を書き換える?」

 「あぁ。
 私は幾万年を費やした。

 この地球という全てのパラレルワールド⋯⋯その選択肢に我々の教義を植え付けた。

 過去、現在、未来。 
 アレイスター神の力と叡智、その全てが!」

 黒騎士は拳を握り締め、再度構える。

 「ッ⋯⋯」

 「貴様がいつ見つかるかと長い間考えて生きてきた」
 

 ーー教義として⋯⋯

 "一つお前に聞きてぇことがある"

 ーーなんでしょう?

 "お前の好きなものは、この教義に載っているか?"

 ーーありません。

 "お前の将来なりたいものは?
 食べ物は?どんな生活がしたい?どんな女が好みだ?

 ここに全て載っているのか?"

 ーーない

 "ではお前は失敗だ"

 ーー何故です?

 "てめぇの人生がここに載ってねぇんだから、これに従う理由はないからだ。

 従う理由は?
 そこまで崇拝する割に⋯⋯お前の従うべき教義はどこにもない"

 
 「⋯⋯貴様は間違えている」

 避けれるが。
 隣には、石田たちが映る。

 「ハハハハハッ!
 私の気持ちがわかるか!?」
 
 "ふ──"

 「捨てる」

 『あの景色綺麗だよねー!!』
 『ダイアウルフの真似ー!』
 『ケルビン~!一緒に寝ようよ!』

 「黒い弾劾メノウ!!!」

 今までで一番の障壁が、東京上空に展開される。

 「なっ、何故!?」

 奴は全盛期の半分以下の力しかないはず。
 楽に殺れるとばかり。

 黒騎士の顔は濁るも、だが手を止めない。

 『ねぇーケルビン、今日はさ、みんなで縄跳びやろうよ。だってマリーがね?一緒に遊ぼうって言ったんだけど、────って言ったの!でも私悪くないよね!?
 ケルビーン!!大好きー!!!
 今日何するー?えー?見てるだけー?ほら、みんな見てよー!!ケルビンが本ばっかり読んで⋯⋯え?アンナと遊ぶ約束した?でも良くないよ!!─────ケルビン!私受かったの!!アカデミー!!───って言うんだけど────で───もね!え?今日は豪華なご飯!?やった!──と────だって!?──食べて───しようよ!──?──⋯⋯えー!!──王都に───じゃん!────────────私けっ───じゃん!ねぇお久しぶりです────────────────────────私この度───と結婚───────え?あぁ───の事ですか?─ら。────────────────────────?どうしたんですか?────は────あらあら、───も立派になられてぇ。──────────────も元気でいますよ───も書記官になりましたし、─────────────だと。────え?もうお忘れですか?──も─歳になりましたし──も──に─────────────────なりました。──────ははっ。───────面白いですよ──と──────────話すことも─────────────────────────────────────────って言いましたし───────────────────────────────だと思います───────────────え?と』





































 「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」 

 服はビリビリ。
 その中、瞳孔が開きっぱなしの瞳には何かが頭の中を走っている。

 「貴様、どうやって防いだ?
 アレを二発も防げるなど意味不明だ」

 「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」

 『私ね!受かって─────────なの! 
 まだや───もいっぱいあるし──もやらないと────※※※※※※※※※※─────!!』

 地面には私の血。
 記憶が急速になくなっているせいか。

 鼻血が止まらない。

 「万物の王。
 よくここまでやり切ったと言うべきか?」

 見下ろす黒騎士の前には、数キロにも及ぶクレーター。

 だが、この激戦の中でも生き残っている一般市民や石田たちには被害が及んでいない、全て障壁の結界が吸い込んだ。

 ただ、その爆心地にはケルビンがボロボロの状態で立ち尽くしていた。

 「全盛期でないのが残念でならない。

 貴様の魔力量は侮れん。
 だから私はあのお方の取引によってここまで限界を引き上げたのだが」
 
 「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」

 やっぱり強いな。
 獅子王。

 全盛期じゃないだけでこんな有様とは。
 まぁ──あの時の私は無敵だったからな。

 殺すだけなら出来る。
 ただし、この地球を滅ぼす事にもなるが。

 「どうだ?守りながら戦う状態は!!
 それだけでは精一杯!!

 貴様にはどうしようもない!!」

 だろうな。
 私もそう考えているところではある。

 世の中で最も強い人間は、失うものがない人間である。

 「⋯⋯怖いか?」

 「怖い?」

 見上げて嗤う。

 「圧倒的な力の前に絶望する感覚は!!」

 「つまり、お前は怖かったんだな」

 「何!?」

 「そんなにキレんなよ。
 陛下なんて大層な名で呼ばれてる人間が聞いて呆れる」

 私はもう。
 死を恐れた事はない。

 むしろ⋯⋯

 「まだ戦う気か?伝説の錬金術師よ」

 回復のポーションを飲み、足りなさすぎる魔力を回復するポーションを飲み干す。

 「当たり前だろ」

 ーーそーくん!

 「なんの為に帰ってきたと思ってるんだ」

 「フッ!ならば精々足掻いてみせろ!
 万物の王と呼ばれた男よ!!」

 「──おうよ」
 
 男には逃げてはならない時があるというのが常識だが、全く。

 ⋯⋯私には何度逃げてはならない時が来るのだか。
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