【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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世界征服編

完成された男

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 私は、史上最も優れた男として産まれた。
 
 「聖嗣様」

 産まれた時から、私は"聖嗣"という敬称で、両親以外からは名前ですらない名称で呼ばれる。

 「我が家の希望の光よ!」

 理解できなかったが、両親は私が産まれると大層喜んだ。

 「貴方は将来、アレイスター神の為に剣を使うの」

 母上に肩を抱かれ、私と見上げるのは、本殿の聖堂。

 私の産まれたこの場所では、アレイスターという創造神が世界を創り、森を、海を、大地を創造した。

 その最後に、人間という生命を創造したのだという。

 そして我々はその上で生き長らえているという。

 私は、由緒正しき歴史ある直系だということを知る。

 そこには、不自由などという概念が生まれてからなかった。

 「いけません!
 神子様はそのままで居てくださいまし!」

 欲しいと思う服は大体すぐに買ってもらえた。

 食べたいと思うモノも食べられた。
 
 「いけません!
 神子様は口を開けてくださるだけで!」

 使用人は私をなにかと間違えているのでは?
 などと内心思っていたことも誰も知るまい。

 私は自分で着替えられるし、食事も自分の手が使える。

 と言っても、その時の私は知る事はないが。

 私が5歳になる頃には、既に神聖力という力を手にしていた。

 ⋯⋯それも膨大な。
 今思えば、これが全ての始まりだったのだろうか。
 
 「これで⋯⋯」

 「母上?」

 そう。
 母上が最も私に感情を向けてくれた日だった。

 「アレクサンドル、貴方は私の救世主よ!」

 私を抱いて母上はそう絶叫にも似た歓喜に震えた声で喜んでいる。

 どうやら母上は、この教の中では立場が良くなかったそうだ。

 最後の頼みで結婚し、子を成し。
 ──産まれたのが私。

 おかげで母上は上機嫌。
 私は素直に喜んだ。

 「算のお勉強をしましょう!」

 アレイスター神は優れた人間を好むという。
 我々一族を含め、教の人間の子供は英才教育の速度が普通ではない。

 本格的に学ぶのは5歳くらいであるが、2歳になる頃から既に勉学に触れているのはどこの家もそうらしい。

 「では聖嗣様、この問題は?」
 「ヌゥ」

 私は産まれてから苦労したことがなかった。
 いや、分からなかった。

 全て理解できる。

 「素晴らしいです!!
 リオナ様、聖嗣様の頭脳は既に大人レベルかと」

 「あら!」

 問題を解くと、母上は嬉しそうに笑う。
 それを見ると、私も嬉しい。

 「アレクは凄いわね!
 これでもっとお役に立てるわね!」

 しかし気付いていた。
 この人は私を見ているのではなく、私の能力の方を見ているということに。

 だが、それでも母親なのだからだろうか。
 私は気付いていながらも何も言えなかった。

 言ってしまったら、全てが崩壊するかもしれないと本能で気付いていたからだろう。

 





 「聖嗣様?」

 「駄目でしょうか」

 7歳のある日。
 私は変わらぬ毎日を過ごしていた。

 不自由ない生活。
 通常平民は、そもそも五体満足で家があるだけでも上々であるのも難しい世界。

 みんな必死なのだ。
 そんな中自分は当たり前のように食事をして、当たり前のように水を飲む。

 体力作りをしながら、勉学を積み上げる。

 はっきり言えば⋯⋯どれも簡単だ。
 みんなが私を持て囃した。
 しかし私は退屈で仕方なかった。

 最初はあれ程喜んでくれた母上も、今では、

 "あぁそう、凄いわね"。

 などと流されてしまう。
 基本私は両親と何故か離れて暮らしている為か、私は外の世界が気になった。

 別に辺境に行きたいなどとは言っていない。
 目の前に見える皇都に少し行きたいと言っているのだ。

 ──そして、許可が降りた。

 「わぁぁぁっ!」

 普段の私には、見たことがない景色。
 人々が私に対してお辞儀するわけでもなく、人々が流れるように動く事。

 人々が自分の店に呼び込み、それがまた別の人間を呼び、そうして活気というのが生まれていく。

 ふと、そんな時だ。

 「あいたっ!」

 私の目の前で私と同じくらいの子供が転んだのだ。

 何故転ぶんだ?
 どうやったら転ぶんだ。
 母上なら、きっと──

 「ヤミ!大丈夫?」

 私の予想は見事に打ち砕かれた。
 何故助けるのだと。

 「ママ!痛い!」

 「あら⋯⋯どうしたの?」

 私の視線に気付いたこのヤミという母親。

 「あっ、その」

 咄嗟になんて言えばいいかわからず、詰まらせた私に、彼女はニコッと笑ったのだ。

 「ボク、迷子?」

 「ま、迷子ではない。
 私は皇都に探検に来たのだ」

 「あら。
 それはいい事ね」
 
 母親はそっと自分の子供を抱え、手を繋いでいる。

 「母というのは」

 「ん?」

 「そういうものなのか?」

 私の知る母というものと違う。
 この人はそういうものとは違う気がしたのだ。

 「母親はねぇ、子供が大好きなの!
 特別じゃなくていいの。

 ただ、普通にこの子と夫と、すくすくこの子が育つまで⋯⋯愛情を注いで立派な男になってもらえれば⋯⋯それで」

 いつもなら何か言うところだった私。
 何故だと?

 しかし、きっと、この母親の言うことが私の頭にはない、真新しいモノだったからだろう。

 我が子を撫で、愛で、心の底から嬉しそうに笑う彼の母を見て、私は言葉を失った。

 「そういうものなのか」

 「えぇ、お母さんはいないの?」

 「いる。いるにはいるのだが」

 いや。そんなはずはない。

 「おぉ、アリア。
 ん?この子は?」

 「あぁ⋯⋯あれ?」

 それから私は逃げるように噴水広場の縁に座って、人々を眺める。

 「ねぇ、ママ!今日はお肉がいい!」
 「駄目よ。パパの給金が少ないから」
 
 「⋯⋯⋯⋯」

 「ほら外は危ないから、手を繋ぎましょう」

 「⋯⋯⋯⋯」

 私は無意識に、家族というものに憧れた。
 私はいつも独りであったから。

 私にはアレクサンドルという名前がある。
 しかし、両親でさえも、ほとんど名前を呼ぶことはない。

 使用人も呼びもしなければ、誰も。

 「⋯⋯⋯⋯」

 





 「聖嗣様?」

 私は、その日を境に、間違いを挟むようになった。

 「どうしました?
 熱でも⋯⋯いえ、熱はないようですし」

 きっとみんなが私には興味を持ってくれるのだろうと思ってもらえると思ったからだ。

 しかし現実は私に冷酷を突きつけてくる。

 「アレク?なんで間違えるの?」

 「え?」

 母上は、私に長い間声を荒げた。

 「貴方は選ばれた子なのよ?
 貴方はアレイスター神から叡智と才を授かったのよ?

 こんな些細な事で間違えるはずがないわ?
 何がいけなかったのかしら?
 食事の回数?それとも男の選び方?
 それとも⋯⋯」
 
 目には広場で見た母親と重ね合せてしまっていた。

 私の母は違う、と。

 幼いながらに自分という感情を閉じ込めるに値する出来事だったのだと思う。

 「良い?アレク」

 私の肩を掴み、母上は言う。

 「私達は皆、間違いを犯さないの。
 皆高潔で、皆が笑顔で、皆が罪はないの。
 黒い髪の子だけは例外。
 彼らは生きているだけで罪なの。

 間違いを犯したら、殺されるのよ」

 この時の言葉が、それから毎日繰り返されるようになる。







 「あ、あのアレクサンドル様」

 「はい。
 私は皆が知っているアレクサンドルです」

 14歳。
 流石にこの時の私は、全てが退屈で、全てが遊戯のような境地に至っていた。
 
 私を見てくる女は私ではなく、私の顔を見て話し。

 「わ、私と⋯⋯!」

 「いけませんよ。
 私は、アレイスター神のお仕えする為、今もこの魂を磨き上げている最中なのですから」

 あぁ。私は誰なのだろうか。
 この女も、使用人も、誰も彼も。

 「素晴らしい!!」

 剣術を褒めちぎるこの壮年の男も。
 きっと私の血統と才を褒めている。
 誰も⋯⋯私を見てはくれないのだ。

 もうどうでもいい。
 早く家に帰りたい。

 剣を磨き、教典を読み、誰もいない家に帰り、自分の書いた小説を書く。

 「私は母上⋯⋯いや、違うな。
 普通の子であれば、ボクと言っていたな。
 端なくはあるが、ママと呼んでいた」

 私の長編小説。
 夢の中で抱いていたいは、捨てられた子供がある一家に拾われて、暖かみ知っていく小説だ。

 私の楽しみは、書斎でこれを書いている時間のみ。

 その他は何も楽しくない。

 そうして日々を歩んでいく。
 別に怠っているわけでもいないが、私は毎日が退屈で、酷く疲弊しきっていた。

 私の笑顔は、周りにはどう見えているんだろうか?

 魔導鏡で笑顔の練習はしたのだから、問題はないだろう。

 「初めまして。
 私は──聖嗣、アレクサンドル・オジディンデウス・リアハイル・アレイスター。

 アレイスター神に仕えるべく精進している者です」







 私の経歴道は華やかだった。

 一度も敗北を喫する事はなく、全てにおいて完璧であり続け、最年少で騎士団に入団。

 その後最速で役職である団長を経て幹部にまで上がり、獅子王という二つ名付きの単独執行官にまで上がった。

 母親が喜んだのを久しぶりに見たのは、その執行官になったパーティーで周りに言い触らしているところのみだった。

 そして、それから更に年月が経ち、あの日が訪れた。

 「獅子王殿下!!」

 今日のご飯はオムワロフの煮込みご飯⋯⋯

 書いている最中に入って来ないで欲しいのだが。

 「どうした?」

 「一人の魔法使いが暴れまわっているのです!」

 「はぁ⋯⋯魔法使いだと?」

 なんて厄介なんだ。
 魔法使いは1万人一人の確率。
 その中でも暴れ回れる魔力と研鑽を積んでいる魔法使いは更に希少。

 どこの国の魔法使いだ?

 「とにかく、私が行けば問題ないでしょう」

 いざ現場へ直行してみると、魔法使いは私を見るとすぐに場を収めた。

 私が強いと判断したからなのか?
 いや、そんな人間には見えない。

 「話をしよう」

 旅の魔法使い、ノーザン。
 応接間でしばらく喋っていたのだが、彼は突然そんなことを言い出し、私と共に街を歩こうと言ってきた。

 「お前たちは何を信じている」

 私の横を歩きながら、彼は街並みを眺めそう言ってくる。

 「アレイスター神です」

 不思議だ。
 私はこの時思っていた。

 魔法使いは歩く災害。
 街を破壊出来るほど強力で、人格が歪んでいるということで有名だからだ。

 しかし。

 「お前たちの前に現れたことはあるのか?」

 この男は、何かがおかしかった。
 確かに。やっていることは暴れまわっては怒鳴ら散らかしている。

 だが彼は正気だ。

 「ありません。神の光を浴びたことは」

 「おいおい、それでなんで信じられるんだ?」

 自分でも何故だからわからない。
 
 「分かりません。
 産まれた時からアレイスターというものを触れてきましたから」

 「お前は?」

 「はい?」

 彼は止まると、空を眺めて言う。

 「お前はどうしたい?」

 「質問の意図がわかりません」

 初めてだった。
 教の人間でも、すれ違う人間でもない。
 暴れている人間にそんな問いをされたのは。
 
 「お前の目は、ここに生きている者の瞳じゃない。

 まるで俺達が見上げている空みてぇだよ」
 
 こんな人間に、私の本心を突かれるとは微塵も思っていなかったから。

 「お前、寂しいだろ?」

 「⋯⋯違います」

 止めろ。
 今更だ。

 「おい、あんな所に屋台があるじゃねぇか!
 "アレク"!」

 やめてくれ。
 今更欲しかったものが目の前にあるなんて。

 「私は貴方の言う敵ですよ」

 「別にお前が殺したわけじゃない⋯⋯ん」

 「ん?」

 こちらに渡してくる謎の物体。

 「串焼き!
 オメェそんだけ生きてんだから食えよ」

 「これは、平民が食すものでは?」

 「いいから食えって言ってんだよ」

 「ンぉぉ!!」

 なぜこの歳で口に突っ込まれないといけないんだろうか。

 だが。

 「美味しい⋯⋯」

 「だろ?」

 私は無言で見つめる事しかできなかった。
 
 「ん?どうした?」

 そうだ。
 まるで自分の小説に出てくるアウネみたいだ。

 「んだよ。 
 串焼きくれぇでそんな顔すんなよ」

 







 「私は、教義を第一にして生きてきました」

 自分の剣先には、主教を切り裂いた血が滴っていた。

 「何をする!!!」

 「何を?」

 "私達は皆、間違いを犯さないの。
 皆高潔で、皆が笑顔で、皆が罪はないの。
 黒い髪の子だけは例外。
 彼らは生きているだけで罪なの。

 間違いを犯したら殺されるのよ"

 「貴方方は間違いを犯しました」

 あの魔法使いの言う通りだった。
 
 ーー人が罪を犯さないわけないだろ。
 多分世界でお前だけだと思うぞ?

 私は皆が母上の言う人間たちだと完全に思っていた。

 だから一人一人聞きまわった。

 「貴方は人の物を盗った経験は?」

 「子供の時に一度だけ」
 
 斬った。

 「キャァァァァァ!!!」

 我々アレイスターを信奉する以上。

 「悪口を言ったことが」

 斬った。
 老人でも、子供でも、女でも、何でもかんでも罪がある者は殺した。

 そして。

 「なぜ私を生かすのですか、アレイスター神様」

 皇都全域は血で充満し、残るは一人。

 「腐食領域エルラゴの領域に入ってくるなんて正気じゃないな」

 手足は腐って溶けていく。
 
 「ン゛ン゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ゛!゛!゛」

 だが、神聖力が私を治す。

 また溶け。

 「ぐ゛ぅ゛ァ゛ッ゛⋯⋯ハ゛ァ゛ッ゛⋯⋯⋯⋯ハ゛ァ゛⋯⋯⋯⋯ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛!゛!゛!゛」
 
 あと⋯⋯一人殺せば。

 「私が死ねば、全て浄化される」

 罪ある者は死すべし。
 あなたの教えであり、教典に書かれてあったことです。

 「すげぇな。
 笑いながら歩いてくるなんてお前が初めてだ」

 「が゛ァ゛ッ゛ハ゛ァ゛⋯⋯⋯⋯ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛⋯⋯ハ゛ハ゛⋯⋯ウ゛ヤ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛」

 「獅子王、アレクサンドル。
 中々面白かった」

 「お前が殺したのだろう!?
 そもそもお前が居なければ⋯⋯!」

 「ふん⋯⋯そうかもな。
 でも結果的にお前が死ぬのが早まっただけだ。

 それに、お前は」

 「⋯⋯?」

 「いや。
 面白かったぞ」

 すると私の懐から茶日記がポトリと落ちる。
 偶々なのか。

  開かれたのは、私が20の頃に描いた家族の絵。

 私が真ん中で、その両端には両親が。
 みんなで手を繋ぎ、買い物に行く絵。

 見上げると。
 奴が笑っている。

 「何故笑っている」

 瞬きもしない時。
 私の意識が途絶えた。


 ⋯⋯はずだった。




 「復讐シタクはナイか?」

 「はい」

 迷いはない。
 アイツさえいなければ、私は退屈だったが絶望して死ぬことはなかったのだから。

 「貴方様はアレイスター神様なのでしょうか?」

 「ソノ通りダ」
































































 「オイ、万物の王よ。
 何故笑っている」
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