【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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世界征服編

普通の大晦日

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 「ん~!」

 上半身を起こし、ボンバヘアーを全身鏡越しに見る。

 最近は、寝過ごすというのはすっかりなくなってしまったな。

 隣には寝息を立てている衣里と理沙。

 「⋯⋯ふっ」

 この光景を見るのも一体いつぶりだろうか。
 俺の日常。

 二人を起こすわけにはいかないからそのままキッチンに行って顔を洗って、歯を磨いて、そんで厚着しながら⋯⋯外のテトラポッドがある所で座る。

 「⋯⋯さみ」

 さすが今日は大晦日だ。
 この時期にもなると、やはり厚着しないと死ぬ。

 「⋯⋯⋯⋯」

 まだ真っ暗だ。
 さざ波の音に紛れて、澄んだ高音が細かい響きを鳴らす。

 「⋯⋯⋯⋯」

 口から出る細煙が早朝の空へと立ち昇っていく。

 「帰還したのが2012年か」
 
 スマホを開いて確認する。
 
 「4年か」

 今日で2016年は終わりだから、実質5年か。
 て、そんな事はいいか。

 ジュウウと煙草の先端が焦げた音を立てる。

 「ふぅ⋯⋯」

 たった4年。
 けれど、俺にとっては重くて⋯⋯長くて⋯⋯短く、懐かしい。

 ──そんで、儚い。

 「俺は上手くやれたんだろうか」

 やれただろう。
 少なくとも今、世界的には日本は救世主であり、俺が如何にでもできる状況を握ってる。

 何も気にする必要もない。

 資産もあるし、力もあるし、物理的な力から魔力と、今の俺は何も気にする必要のない人生。

 「⋯⋯万々歳か?」

 もう少し早ければ、なんてな。
 
 スマホを開いてAiNeを確認すると、あの頃の奴らから連絡が来ている。

 "俺、理三受かったわ!
 親に言われて仕方なく受けたけど、ワンチャン院生になって研究するかも笑"

 "おーい、伊崎。
 飯行こーぜー!イザキング!
 あんとき教えてくれたお陰で俺、彼女できたぜ!

 浮気したら怒られた"

 「てか浮気させる為に教えた訳じゃねぇんだが。

 ⋯⋯はぁ、男ってのは昔から変わらねぇな」

 つうか返事返せやって話だが。

 「まぁいい。
 いずれ会うだろうしな」

 俺ももう20になるのか。
 時の流れは早いな、本当に。

 「なんか辛気くさ」

 ただこの景色をおかずに煙草を吸いたかっただけなんだがな。

 





 いつも通り朝飯を食って、いつも通りみんなと喋る。

 色々あったが今年は転換点だっただろう。
 言いたいことは沢山あるが、些細な日常は後だ。

 「⋯⋯⋯⋯」

 手には大量の紙袋。
 インターホンを鳴らす。

 ガチャンと開いた先には、母。
 
 「あらっ!そーちゃん!!」

 「おっ!母さん、荷物⋯⋯」

 玄関でコアラハグを喰らい、若干ビビるも、俺は笑ってしまう。

 そうだ。
 これが。

 コレを俺が⋯⋯きっとかつて獣だった俺が──ずっと欲しかったもの。

 「家に入ろうよ」

 「あら!あらやだ!」

 廊下を抜けると、変わらぬ景色がそこにはある。

 リビングにはスマホで何かを眺める家族三人。

 奥には酒を飲む父が。
 手前二つには南と拳哉が。

 「湊翔!」
 「お兄ぃ!」
 「お兄ちゃん!」
 
 「⋯⋯ただいま」

 
 
 そうして、夕方は正月ならではのおせちやそば、普段出ないような食事の数々が並ぶ。
 
 「ギャラシンも連続で紅白に出てるから凄いよねぇ」

 「wishもなんだかんだでトップアイドルになったもんなぁ」

 アルケミもとうとう日本の頂点に立ったな。
 出演アーティストの7割がウチからデビューしている人間だ。

 「あっ、そうだそーちゃん」

 「どうしたの?母さん」

 「美容液⋯⋯あれまだあるかしら?」

 「あるよ。
 在庫なんて死ぬほどあるから」

 なんなら、家族用に倉庫があるんだから⋯⋯とは言えない。

 「良かったぁ!
 ちょうど今切らしそうになっててね」

 「そういうのはもっと早く言ってよ。
 送るから」

 「あらやだ。
 そーちゃん無駄遣いは駄目って教えたでしょ?」

 「でも母さんにあげるのは無駄じゃないでしょ」

 「あらやだお父さん、そーちゃんが強くなった!」

 「今のは妥当だろう。
 湊翔はまともな事を言ったまでだろう?」

 こんな会話を聞けるなんて、平和になったもんだ。

 「あ、そうだ。最新家電は使えてる?」

 「そうよ!そーちゃん!
 送り過ぎよー!?

 洗濯機も、食器洗い器も⋯⋯お金凄いでしょう?」

 「何言ってるの。
 母さんの手が荒れる事のほうが問題でしょう?」

 乾燥している母の手をチラ見して見上げると。

 そこには半泣きの母がいる。

 「お父さん⋯⋯!
 そーちゃんが良い息子よぉ!!」

 「よしよしー。
 うちの息子はずっと変わらんよー」

 犬をあやすかのようにハグして頭を撫でる光景。

 夫婦がラブラブなのはなんて平和なんだろうか。

 「ママー!
 ご飯中!」

 どうやら下二人は恥ずかしいようだ。

 「南、拳哉。 
 今はそれでいいが、いつかこの二人を見て羨む日が来る。

 沢山目に焼き付けとけよ」

 「えー!
 そんな訳ないでしょ?」

 「⋯⋯特に南はな」

 「うげ」

 「女の子はこんな風にしてくれる男に将来会う確率はどれくらいかをしっかり考えた方が良い。

 我が家の大黒柱は男として一流だぞ」

 「⋯⋯湊翔が褒めるなんて珍しいな」

 「なんでよ、父さん。
 いつも褒めてるでしょ」

 まっ。
 恥ずかしいなんて感情は何処かへ置いてきたからな。

 今更だ。

 「拳哉も、女の子にモテたかったら父さんを見習う事だ。

 恥ずかしいからと言ってちょっかいばかりかけてないか?」

 おう。
 その様子なら絶賛片思いでもしてるんだろうな。

 「自然体で好意を伝えながらいれば、少なくともフラレることはあるかも知れないが、そこそこ好感度はあるだろう。

 ⋯⋯誰が好きなんだ?」

 「お兄ちゃん!やめてよ!」

 「そんなあからさまにプイってしたら誰でも分かるだろう?」

 「⋯⋯よ、4組の長谷川茉莉ちゃん」

 「「「「おぉ」」」」

 「おおじゃないよ!
 恥ずかしいからやめてよ!」

 「良いことだ。
 恋心は大事に取っておけよ」

 「お兄ちゃんに言われると何も言い返せない⋯⋯」

 「そんな拳哉に、ほら」

 新しいゲーム機とソフト。

 「マジ!?」

 「もうそろそろ欲しくなってくる頃だと思ってな」

 「湊翔⋯⋯あげすぎだ」

 目の前の父が溜息混じり、言ってくる。

 「まぁまぁ。
 こういう時じゃないと。
 どうせ普段は厳しくしてるんでしょ?」

 反論しない父を置いて、俺は拳哉に色々渡し、南の分も渡す。

 「えっ!?」

 「優待券とか未販売のブランド物だ。
 使いたい時な。

 あとは来年のドームツアーの関係者席とグッズの事前販売の時に買える権もある」

 「神っ!!お兄ぃ神!!!」

 「駄目だこの兄、妹弟に甘すぎる」

 「まぁいいじゃない。
 私達も普段買わないし」
 
 「あっ!待って!!カウントダウン!」

 指差すと、アイドルたちがカウントダウンを始めている。

 2016年は終わる。
 
 『5』

 呪いも、障害も。

 『4』

 全てが。

 『3』

 終わったんだ。

 『2』

 本当に。

 『1』

 帰って来れてよかった。
 ──本当に。

 「Happy New Yearー!!!!」

 「ねぇ、写真撮ろ!」

 全員で写真を撮り、俺達は着替えて外に出る。

 「お兄ぃが外に出るなんて珍しくない?」

 「1回やりたかったんだ」

 父の運転で、少しだけ遠い海に向かう。

 そこで花火を買ったり、まぁ色々買い込んで、クソ寒い冬の夜中を過ごしながら朝を待つ。

 「わー!」
 「お兄ちゃん!」

 南の声と共に拳哉も嬉しそうに笑う。

 「湊翔」

 ゆっくりと見上げる隣で、父が話し掛けて来る。

 「ん?」

 「ありがとうな」

 「どうしたの?
 グラビアアイドルが忘れられないの?」

 「ちっ、違うっ」

 「ごめん。どうしたの?」

 「現地には行けなかったが、日本中回った。
 その中で沢山の命を救ったのはきっと湊翔だと⋯⋯俺は信じている。

 どれだけの重圧とプレッシャー。
 俺には想像もつかない。

 代償を払ったのかすらわからないが、ただ、日本を救ったのは湊翔だというのは分かっている。

 ⋯⋯父として誇らしい」

 「隣にいる父があってこの息子なんだと思うよ」

 横目で笑いかけ、俺は線香花火を渡す。

 「父さんがいなかったら、この花火みたいに儚く散っていったと思う」

 「人生には色々あるものだ。
 まだ俺にも壁があると思うと、この歳でも学ぶべきものが多い」

 オレンジの朝日が俺達を照らす。

 「だが、これからどれだけの事があろうと」

 俺を見て漢らしく笑う。

 「今の俺なら歩める気がする」

 「⋯⋯父の背中はデカイね」

 「何を言う。
 本来なら、担がれるのは湊翔だ」
 
 「お父さん?そーちゃん?
 話してないで朝日を眺めましょう?」

 「あぁ」

 日常⋯⋯か。
 何もないというのは少々寂しいことでもあるが、俺としてはこれが欲しかったものだ。

 だから、このままみんなの顔を見れる今が。

 「お兄ぃ!」
 「お兄ちゃん!」
 「湊翔、早く写真を撮るぞ」
 「そーちゃん!早くー!」





































 
 一番生きているという実感が湧くのだろう。

 「うん、今行く」

 全てが終わった。 
 今日から、また一年が始まる。

 「はい、ポーズとってー」

 並んで全員を一人一人見る。

 思春期真っ盛りに入って恥ずかしそうな拳哉。

 それを笑っているが、自分も恥ずかしそうな南。

 そんでどこにでも居る普通の両親。
 その後ろで、全員を見下ろす俺。
 
 ここに帰って来て、毎日思う。
 欲しかったのは、数百万もする月収でも、数百億の財産でもなく。

 ただ。
 ただ、この普通の場所が欲しかっただけなのだと。

 「お兄ぃ⋯⋯笑って!」

 「──あぁ」

 顔を上げ、レンズに向かって笑う。

 この時間が永遠でないというのは分かっている。

 今は自立する必要のない下二人も、いつかは自立して家を出ていく。

 高校が終わったら大学なのか⋯⋯はたまた専門に行くのか。

 拳哉は中学を受験するかもしれないという話を聞いたし。

 両親はもしかしたら実家家業の仕事を増やすという事も言っていた。

 今あるこの場所は文字通りずっとではない。
 
 「はい、撮るよー!」

 だからこそ。
 俺は精一杯護りたかった。

 南が元気に大人に成れるその日まで。 
 拳哉と仲良くなって、いつかお酒を飲みながら会社の悪口を聞かされる日も。

 両親が好き勝手生きて、文句を言う日が来る事も。

 「はい、チーズ」

 その役目を、帰りたかった理由を。
 俺は全う出来たのではないか?

 諦めかけた。
 何度も下を向いた。
 けれどその先にこんな温かい日々があるのなら、地獄を見て良かったなと思う。

 ⋯⋯人生とは、愉快で、良いモノだ。
 
 























 ──カシャ!
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