【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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世界征服編

聖なる祈りと

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 「行ってくる」

 車から降りて、その自然な空気を鼻から吸い込む。

 成人の集まりがあってからはや数ヶ月。
 今は夏だ。

 世間はクソほど猛暑真っ只中、俺はある小さな村に入るための入口に降り立っていた。

 「本当に自然豊かだな」

 道中も舗装されていない道ばかりで、何回か石田がミスりかけてたな。

 太い木々の間を通り抜けるが、合間合間に野生動物の痕跡が残っている。

 近付いて見ると研いだ痕みたいな。

 バキバキ言わせながら辿り着いたのは、高めの柵に囲われたぽつん、とあるような奥行きもない、家も数軒しか建っていないような小さな村。

 「神村もすげぇとこに住んでんな」

 どうやら神村家としては、お金は生きる為に必要ってだけで、それ以外に全く使わない⋯⋯というより、預けるのが掟らしい。

 「すげぇ家だわ」

 俺ならすぐ遊びに行っちまうのに。

 「てか靴間違えたな」

 まいいや。

 「あ、どうもー」

 「伊崎湊翔様でお間違いないでしょうか?」

 やっと着いた村。
 そこには一人のおばちゃんが姿勢を正して待っていた。

 「はい」

 「遠路遥々ようこそ。
 大変だったでしょう?」

 「えぇ、舗装して欲しい限りですが」

 苦笑いしながら答えると、おばちゃんも口元を隠して上品に笑っている。

 「私達はこれから起こるであろう進化の前に、本来の生活を取り戻すという意味でもこのような生活をしているのです」

 「そうなんですね?」

 「既にテクノロジーの進化がありますでしょう?

 私共はその先に破滅しかないと考えています。

 行き過ぎた技術は私達人間の身に余るという元、必要最低限の食事と身の回り、そして行動をする事で、いつでも万物の全てと繋がるという我が家の口伝です」

 一理ある言い分だな。

 「少しは贅沢してもよいのでは?」

 「⋯⋯正直、私もそう思っているところではありますが、例外は⋯⋯あってはなりませんから」

 「そうですか。
 大変だとは思いますが、応援しています」

 「こちらこそ柔軟な対応感謝いたします。
 真彩お嬢様もこんなにも素敵な男性と会えたこと、これも万物のお導きでしょう」

 ある場所で止まる。
 どうやらここが、彼女が過ごしているという祠だという。

 もはや家ですらない。
 
 一礼していくと、おばちゃんは少し離れたところで待機している。

 入るか。

 



 「あっ!伊崎くん!」

 「久しぶり」

 初対面が嘘のように輝いている。
 星びやかな黒髪が右から左へと大きく流れ、白いその礼服がこれでもかというくらい際立っている。

 「全然会わなかったから、もう会わないのかと思ってたよ!」

 「悪い悪い」

 一緒に祠の中を歩いていく。

 「凄いな、幻想的っていうか」

 橋が掛かってて、その両脇には滝に近い上から下へ落ちる水の光景。

 だが、それでも全体の空間は暗く、本当に昔の時代に逆行したように思える一つの世界のよう、というか。

 「夜になると星がここから見えたりして結構いいんだよ」

 神村が天井を指差す。

 「へぇ。
 いいもんだな⋯⋯俺とは別世界だ」

 「伊崎くんは必要ないでしょ?
 伊崎くん、自ら輝いてるんだから」

 笑いながらそう突っ込まれ、満更でもない俺の顔。

 「褒めるのが上手くなったな」

 「べ、別にそんなことないよ!」

 橋を渡って、しばらく歩いた先には。

 「ここは?儀式っぽい所だな」

 棺桶とは言わないが、手作りで長方形型の蓋がついた置物か何か。

 その近くには蝋燭や燭台、現代ではまず見ない品々。

 「ここで生活してるんだ」

 「辛くないか?」

 あまりにも即答な自分に驚きながらも、そう突っ込まざるを得ない。

 「んーんー?
 意外と慣れちゃえばそんなことないかな?
 ここのお水は飲めるし、ご飯も村で育てている鶏さんの卵や牛さんとか食べているし」

 「⋯⋯跡取りってのは大変だ」

 「それはそうかも。
 今でも全然足りないくらいだから」

 近くの壁に寄りかかって、少し離れた滝を眺める。

 「神村は、将来はどうするんだ?」   
  
 「基本的にはお母さんと同じ道を辿る感じになるかなぁ?」

 「祈祷師⋯⋯であってるか?」

 「一応呼び名はあるけど、まぁ大体あってるよ。

 スターィアとかって言ったりしてる」

 「なんか星みたいだな」

 そう突っ込むと神村がまさに!と言った顔をしている。

 「星詠みの一族でもあるから多分そうなんだよね!

 受け継いで来たモノだから詳細は継がないと分からないんだけどね」

 「⋯⋯もしそうなると普通の暮らしも出来ないだろ?」

 「まぁ、皆みたいに暮らせないけど、私からしたら元々こういう日々だったから特別違和感はないっていうか⋯⋯皆の方がおかしいっていうか⋯⋯」

 のっぺりとした笑い方で俺も笑ってしまう。

 「まぁ、昔の人類はこうやって暮らしてたわけだから、今の人類は少々行き過ぎってやつか」

 「悪いってわけじゃないけどね」

 滝を眺めながらそこから数秒静まる。
 
 確かに。
 凄い心地が良い。

 断続的に聞こえてくる滝の打ち付ける音と、自然な風、美味い匂い、空間。

 「伊崎くんはどうするの?」

 「ん?俺は変わらない。
 引き込もってのらりくらり過ごすさ」

 「⋯⋯変わらないね」

 「なんだその引いてますって顔は」

 「「ハハハハハッ」」

 一笑い終わると、神村が真剣な顔に切り替わった。

 「⋯⋯ありがとね」

 「ん?何がだ?」

 「あの時、私の好意を素直に受け入れてくれて。

 そして今も、集まりに行けなかったからこうして来てくれてる」

 「なんだ、そんな事気にしてたのか?」

 「そりゃあ気にするよ!
 だって他の人たちは皆来ないし!」

 そりゃ田舎中の田舎っていう所に行く面子じゃねぇしな。

 「と、とにかく!ありがと!!」

 「──おう。
 聞きそびれたが、今後どうなるんだ?
 母親と同じとは言ってたが」

 「まぁちょっとルールが変なのは理解して欲しいんだけど」

 と、語ったのは神村家とその周りの事情だった。

 要約すると、基本的には草薙やその辺りの人間と同じく、外部の人間とは一切関わらずで、恋愛結婚はなし。

 特に神村のような女であって人気があると来たらほぼ自由は無いそうだ。

 「なんか切ねえな」

 「そうかな?
 昔から聞いていたから、私はなんかこう⋯⋯腹括るって言えばいいのかな?」

 「男みたいだな」

 「そうそう!そんな感じ!
 だから⋯⋯」

 俯く神村。
 だが、そこには儚げな⋯⋯穏やかな顔が在った。

 「ん?」




































 「学生の時に、一度でいいから自分が選んだ男の子に恋をしたかったの」

 「っ、」

 一瞬──言葉に詰まった。
 だが、俺はすぐに答える。

 「ありがとな。
 そんなピュアな気持ちで俺を選んでくれて」

 「うんうん!
 私だって自分の容姿が悪いことは分かってたから⋯⋯相手にされるなんてこれっぽっちも思ってなかった。

 伊崎くんは何も悪くないよ」

 「だが、少しは改善したか?」

 「し過ぎだけどね」

 「「⋯⋯⋯⋯」」

 「なら、後は未来の男の子に任せるとしようかな」

 良い顔をしている。
 これなら平気そうだ。

 「わざわざ時間作ってくれてありがとな」

 背を向けて言うと。

 「──やっぱり私の好きな人だ」
 
 「ん?」

 振り向くと、説明し辛い⋯⋯女の顔。
 
 「本当、細かい所に気付くんだね」

 「伊達にモテてきてないよ」

 「表は遊んでて変なこと言うのに、中身は暗くて、繊細」
 
 「ふっ、影が薄いって?」

 「いやいや!
 本当は誰よりも繊細で人の気持ちに寄り添える人だってことだよ!」

 「──さすが星詠み」

 「あっ!最後に!」

 「どうした?」

 「日本を救ってくれて⋯⋯ありがとう!!」

 「⋯⋯⋯⋯⋯⋯おう」

 背を向けて歩き出す。

 「いつか、いつか!
 会おう!!」

 「次は人妻としてな~!」

 「伊崎くん!言い方!」

 「あっははは!」

 頑張れよ、神村。
 もう俺にあの時以上の護る力は残ってないからな。
 
 







 そして俺には、まだやるべき事がある。
 大事な、大事な⋯⋯事が、な?

 「えっ!?伊崎くん!?」

 「よっ、白波」

 めっちゃパジャマやん。

 「わっ!!わざわざ来てくれたの!?
 ちょっとまって!?

 と、とりあえず入って入って!」

 すんごい勢いで家の中へと入っていく。
 数秒後に怒鳴り声と破壊音が聞こえ、内心ビビった。

 「伊崎様、どうぞ」

 すると使用人の数人が俺を案内してくれる。

 歩いていると上機嫌の白波会長と夫人とすれ違い、俺は二人に深く"""一礼"""してから目的地のゲストルームへと入って白波を待った。

 

 「お待たせー!」

 10分後。
 白波はなんともない顔で入ってくる。

 「悪いな。
 なんか無理矢理お洒落させたみたいで」

 白シャツにデニム⋯⋯王道で良いな。

 「こ、これしかなくて!!」

 「全然。綺麗だよ」
 
 「そっ、そう!?
 そそそれで!?急じゃない?」

 そんな白波の言葉を聞いていると、蝉の鳴く音。

 「そうだ。
 白波は結局、大学は?」

 「慶應です!」
 
 と、ドヤ顔で学生証を見せてくれる。

 「法学か。
 めちゃくちゃ頭いいじゃないか」

 「これから、白波っていう看板を背負わないといけないから⋯⋯!」

 並大抵のことではない。
 さすがだな。

 「決心はついたんだな」

 「うん!
 私は白波を継いで、胸を張って生きる!」

 ーー私が生きてる理由が分からない

 「⋯⋯⋯⋯」

 ーー胸張って生きられるようになりたいんだ!

 「⋯⋯⋯⋯そうか」

 「おぉっ?なんか反応遅くなかった?」

 ガクッと芸人みたいなリアクションで落ちる白波。

 「いや、立派だなと思ってな」

 てか、暑いな。

 「もう夏だよねぇ。
 ⋯⋯暑い暑い」

 白波さん。
 パタパタしてますが、なんか透けてますけど。

 狙って──

 「そ、そうだっ!
 伊崎くんは成人の集まりは行った?」

 「行ったけど、全然居れなかったよ。
 周りは野獣みたいに俺に一枚噛めないかしか考えてないような連中だったからな」

 頬杖ついて言うと、白波は不安げだ。

 「私も将来、そんな中で堂々としていないといけないんだよね」

 「大丈夫だろう。
 白波パパはまだまだ健在だろうし」

 この間だって、俺がちょっと新事業のアイディアを言おうとしたら、すぐ口を塞がれて寿司屋に連れて行かれた。

 "何でも食べなさい、それで?"

 なんて言われた時には腹抱えて笑ったな。

 「甘えてばかりじゃいられないしね」

 「まぁそれもそうか」

 日差しを浴びながら、俺は今までの思い出を掘り返す。

 色々あったなぁ、とか。

 「もう、あの時言ってた離れないといけない事はなくなったの?」

 「そんな不安な顔しなくていいよ」

 「だ、だって⋯⋯!」

 ーーさっさと行っちゃえ!!

 「まぁ白波が遊んでるのかと思ったら⋯⋯まさかなんの遊びもしてなかったとはなぁ」

 「あっ!悪口だ!
 真正面から悪口言ってきたな!」

 「ラッパーかと思ったもんな」

 「だって男って無垢な女が良いって」

 「まぁ否定はしない」

 「そ、それで!?」

 「⋯⋯⋯⋯もうないよ」

 そう言うと少し、顔が穏やかになった。

 「──そっか」

 邪魔くさい蝉の鳴き声、人肌の湿った匂い、無風かと思うそよ風。

 俺達の間には、途方もない密度の壁があるような気さえする。

 「それでさ、白波」

 「ん?」

 そうだな。
 俺の"負け"だ。

 いつかの自分に向かって言う。
 「少し寄り道していくよ」って。









































 「あのさ」
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