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第一章:取引

有栖_1-3

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 話を始めた刀義に対して、有栖は耳を傾けながらも彼に対する警戒を解くことはなかった。彼女は最大限に彼を警戒し、全く緩める気はない。

 ――背後に立たれたことに気がつかなかった。

 有栖は高良組に足を踏み入れてから油断をした覚えはない。寧ろ、急襲されることも考慮し、いつでも臨戦態勢だった。それにも関わらず、簡単に背後を取られたことは彼女にとっては信じられないことだった。
 そして、今、改めて高良刀義、という男を眼前にして抱く印象は、

 得体の知れない何か

 その一言でしかなった。
 不気味で、つかみ所のない――ただ確実に言えることは戦っても勝てるか解らない。できることなら戦いたくない。
 それが警戒しながらも有栖が切に願うことでもあった。

「そんなに熱い殺気を向けないでちょうだいよ。こちとら争う気はないんだからさ」

 髪の毛で目を隠したまま、刀義は有栖に顔を向けて笑う。

「こちらとしても、それが一番だと思ってます」

 有栖は笑わず返す。

「じゃあ、双方の意見が合致したところで続けるよ。まず、こっちの知っている情報だ」

 そこから刀義が話したことは次のことだった。

 天使のこと。
 あらゆるデータ改ざんが可能とするウイルス『レシエントメンテ』のこと。
 そして、ユースティティアがそのワクチンである『デスペラード』を求めていること。
 ユースティティア……いや、有栖達に起こったことを含め、詳細に語ってくれた。

「――ここまでは間違ってないよな?」
「随分と詳しいですね」

 その言葉が褒め言葉ではないことは明らかだが、それでも刀義はけらけらと笑う。

「優秀な情報屋がいるもんでな」 

 その回答については久慈が代わりに答えた。
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