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第二章:ファイティングプロレス

有栖_2-4

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「まずはオフィスから紹介しましょう」

 そう言ったあと、棚神選手は有栖と反保を連れてファイティングプロレスの社内を案内してくれることになった。
 エレベーターへ案内され、五階へ。その間も棚神選手は軽快なトークを弾ませ、気まずい沈黙は皆無だった。

「プロレスは見たことありますか?」
「ユースティティアでも訓練はありますよね? トレーニングの参考にしたいのですが、教えていただけたりしますか?」
「今回は仕事ですが、合間で観戦ができるのならして欲しいなぁ。ネットでの観戦も良いですが、生観戦も楽しいですよ」

 色々な話をしてくれる棚神選手はまるで子供のように感情を顔に表し、会話をしていて不快感は全くない。プロレス好きではなくても人として彼に好感を抱いてしまう。ファンならより一層その感情を強く抱くだろう。

 棚神選手の説明では、二階と三階は選手がトレーニングを行うジムになっており、四階と五階がオフィスになっているそうだ。そして、このビルを出て近くにある『道場』では実践に近いトレーニングを行っている。その情報は有栖達が事前に調べていた内容の答え合わせとなった。

「このオフィスエリアで全社員の方々が業務を行っているのですか?」

 五階に到着し、棚神選手が会議室や区分されている事務所とその内容を説明してくれる中で、有栖が質問をした。

「そうですね。ですが、地方巡業などもありますので、配信など現地まで一緒に来てくれる社員もいますよ」
「なるほど」
「ですが、企業としての戦略や方針を定めるのはここですね。その点の詳しい説明ができそうなのは……あ、林(はやし)さん!」

 棚神選手に呼ばれ、一人の男性が三人の方を振り向いた。
 白髪混じりだがしっかりとセットされた髪。これまでの経歴を表すような顔に刻まれた皺と少し疲れを見せるくぼんだ目。年齢は五十代に見える。だが、スーツを纏いこちらに歩いてくる足取りも姿勢もしっかりとしていた。

「棚神さん、どうかしましたか?」
「今、ユースティティアさんが来社していましてね、業務内容を少しでいいから説明して欲しいんだけど、時間取れるかな?」
「えぇ、大丈夫ですよ」

 棚神選手のお願いを林は笑顔で了承した。

「では、空いている会議室を押さえますので少々お待ちください」

 林は笑顔のまま有栖達に一礼をした。
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