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第二章:ファイティングプロレス

反保_2-5

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 藤内選手の紹介を終えると、海野と中島に連れられてもう一つ上のフロアに上がる。そこもジムだが使用している様子はなかった。彼らは互いに顔を見合わせた後、海野がフロアの奥の方を指さすと中島が頷く。

「ちょっとロッカールームを見てきますので待っていてください」

 海野がそう言って、先程彼が指さしていた方向へと駆け足で向かっていく。

「すみません、手際が悪くて」
「いえいえ、こちらとしてはトレーニングで忙しいところにお邪魔してしまい申し訳ないぐらいです」

 中島の謝罪に有栖が首を振る。そんなやり取りをしていると再び奥から足音が聞こえ、今度は近寄ってくる。

「すみません、選手を紹介しますのでお手数ですがロッカールームまでご足労いただいて良いですか?」

 戻ってきた海野に有栖と反保が笑顔で頷くと、二人の後に続き、ロッカールームへと向かった。



「失礼します」

 ロッカールームに着くと、海野がノックし中に入る。
 ロッカールームは最大で十人ぐらいが使用できるぐらいの広さで、それだけの人数が使える細長いスチール製のロッカーが並んでいた。そして、真ん中に自由に使って良いであろう大きな机が置いてある。あとは椅子が疎らに置かれていた。
 そこにジャージ姿の一人の外国人の男性が立っていて笑顔で手を振り迎え入れてくれた。
 その人物も反保が事前に情報をインプットしていた選手だ。

 ウィリアム・ミサゴ
 三十代前半と若く、青い目とブロンドの髪をツーブロックにしているヘアスタイルが特徴的で、スラッと細長い長身だ。だが、試合時に見せる筋肉はカモシカのようにしなやかで、ハイフライヤー、と呼ばれるリング上を縦横無尽に走り、翔び回る超人的な動きで人気の選手だ。その派手かつアスリートのような動きのプロレスは素人目に見ても驚き、魅了させるが、一方で危険だと棚神選手に否定に近い評価を受けたことがある。
 この団体に来たきっかけは海外の興業時にハルカ選手と戦い、当時二十代だった彼はその才能を認められ、スカウトされた。
 今ではこの団体を愛しているが、故郷に恩返しをしたいと常日頃から取材で発信しており、今以上に多くの試合を故郷で実施したいことから海外進出に前向きだと噂されている。

「ウィルさん――――」
「――――――」

 海野が外国語でミサゴ選手と会話をし、度々、こちらに視線を送りながら話を続ける。おそらく、有栖と反保の紹介をしているのだろう。
 しばらく会話をするとミサゴ選手が笑顔で有栖と反保に近づき、

「オシゴト、タイヘンダトオモイマスガ、ガンバッテクダサイ!」

 そう言って二人に握手をする。そして、再び海野に言葉を発すると、

「でも、俺の試合はスゴいからそのときだけが休憩して見てくれって言ってます」

 海野が笑いながら通訳し、それが二人に伝わったことが解ると、ミサゴ選手も大きな声で笑う。

「デハ、ジャアネ。バイバイ」

 陽気な空気を残しつつ、ミサゴ選手は出て行った。

「楽しい雰囲気の方ですね」

 反保がそう言うと、

「プライベートとファンの前では、ですけど。試合では彼の本来の気の強さが出ていて、想像できないぐらいに鬼気迫る表情が見れますよ」

 中島が少し怯えたよう素振りを見せた。
 反保も映像でミサゴ選手の試合を映像で見たことがあるので、中島のいうことは理解できた。相手選手と殺し合いをしているのではないか、と思うぐらいの危険な試合をしており、先程話した人物と同一人物とは思えない。

 ――どちらが本当の彼なんだろう

 そんな疑問が浮かんだが、反保はそれを言葉にはしなかった。
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