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第四章:旗揚げ記念日

京_4-1

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 できる限りの事前の準備を済ませ、旗揚げ記念日の当日となった。
 京はユースティティアの隊員に対して、警備の指示や注意事項を細やかかつ的確に伝え、また、全員の名前を覚えていたことから初めて一緒に任務を行う者達からあっという間に信頼を得てしまった。
 その後は警察の代表とも挨拶。相手は飛田と石橋だった。細かい取り決めは事前に有栖と反保がファイティングプロレス社で行っていたので、多くを話すことはない。ただ彼女の挨拶に対し、飛田は目を一度だけ合わせ、それ以降は合うことはなかった。石橋は何か突っかかるような態度をみせようとしていたが、行動に移る前に飛田に連れて行かれた。

 会場の二時間前には選手達が疎らに専用入口から入場してきた。そこで社員と京達が立ち会い、抜きうちの持ち物チェックが行われた。今回、注視している選手を含め、だいたいが試合のコスチューム、会社と相談しメーカーと協力した上で提供されているその選手専用の粉末のプロテインとシェイカー、本、ゲームなどと普段持って来ているものと同じらしく、初見となる物や違和感はなかった、と社員から聞いた。
 ただ、既に開封済みの飲み物については回収。未開封の水を新たに渡した。
 過去には海外選手の参入の際にその選手がドラッグを使用していたことがあるので、試合当日の持ち物にサプリメントを含む薬剤の持ち込みは事前に申請しないと不可になっている。その点はリスク管理がしっかりされているようだった。

「あの、藤内選手は?」

 注視していた選手の中で藤内選手だけが来ていないことについて京は社員に尋ねた。

「あぁ、あの人は試合ギリギリまで来ないんですよ。今日だとメインイベントに出場だから、その二つか三つ前の試合まで来ないと思います」

 尋ねられた女性の社員は、それを当然のように話した。一考することなく口から出るということは社内では周知のことなのだろう。

「そんなにギリギリまで何を?」
「興行が行われる会場周辺や街を散歩しているそうですよ」
「散歩?」
「今日、試合する場所はこんな場所なんだ、こんな人がいるんだってそういう思い出をしっかり自身に刻みつけて、試合へのモチベーションを上げるそうです。下積みを卒業してからずっとやっていることなんです」
「……なるほど」
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