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第四章:旗揚げ記念日

京_4-2

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「どうだった?」

 京は選手控え室が並ぶ廊下で、聞き込みを終えて戻ってきた有栖と反保の姿を見かけると駆け寄り、話しかけた。
 京の問いに有栖と反保は一度互いの顔を見合わせると、

「それが――」

 少し戸惑った様子で有栖から口を開いた。


「……そう、なるほどね」

 二人の話を聞き、少し考える様子を見せた後、

「全てを鵜呑みにするわけにはいかない……とは思うけれど、今日、スタッフと選手に接してみて今の話に納得してしまう部分もある。これは実務経験に基づく勘に近いけれど」
「京さんの勘なら信憑性が高そうですけど」
「錆び付いてなければね」

 有栖の言葉に小さく笑って京は返す。

「もうすぐ試合開始ですけど、他の状況はどうですか?」
「個室が与えられた選手以外はユニットごとに控え室を設けて中にはユースティティアの隊員を一人以上常駐。隊員には誰かが何かを飲ませたり、食べさせたり、もしくは混入させるような行動がないかチェックするように伝えてる。今のところは異常なし。試合が近づくにつれて、選手に近づくスタッフもいないわ。みんな忙しいみたいね」
「そうですよね。スタッフが選手に毒を服毒させるなら試合間近で接近する必要がありますから、この時点で近くにいないと実行は不可能ですよね」

 反保は京に質問し、その回答から自身で回答を導き納得する。

「そもそも選手が試合前に口にするものって、そんなに無いみたい。食事はほとんどが試合後みたいね。試合直前では基本は水、もしくはメーカーと協力して選手ごとに専用に配合したプロテイン。選手はそれを試合前後に水に溶かして飲んでいるみたい。ちなみに水は未開封。これは団体が元々そうしている」
「選手専用ならそれを誰かに渡すのも、他の選手がそれに近づくのも不自然で目立ちますからね……本当にどうやって試合直前に食べることもなく、飲み物を未開封で、相手に服毒させるんでしょうか?」
「遅効性の毒で、しかも、試合中に事故死にみせかけるようにコントロールして服毒させるのは素人には難しい」

 京の言葉に二人は納得する。だからこそ、その手法に対しての考えが浮かばない。有栖と反保が得てきた情報も加えて、状況を理解するが混乱しそうになる。

「とりあえず、未然に防ぐ対策はしているけどあとは注意深く観察して――」

 京が一旦、この場を解散させる為に話をまとめようとしたときだ。
 一人の隊員がこちらへと駆け寄って来た。

「一色課長。藤内選手が来場したそうです」

 予め、唯一遅れて来場していたその選手が来た際には連絡するように伝えていた。その連絡が今、滞りなく届いたということだ。

「有栖さん、反保くん行ってきて」
「はい!」
「はい!」

 京の指示を聞き、有栖と反保は返事をすると即座に駆けだして行った。
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