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第二章 恋におちたら
60 side哉
しおりを挟む『そんな……どうして。いいところのお嬢さんが大勢通っている学校でしょう? どうしてそんな怖いことをする生徒が……』
「いいところのお嬢様がみんなマトモだとは限らないということですが、申し訳ありません。おそらく僕のせいです」
『え?』
「いえ。教師は犯人のことをなにか言っていましたか?」
『それが……現場を見たわけではないからどの生徒かは言えないって……とにかく明日私、学校に行こうと思って』
そうだろう。藤原呉緒の父は寄付者名簿の中でも上位にいるはずだ。そんな娘がなにかやっても、学校ぐるみでもみ消すに決まっている。
いつからだ? あのパーティーから一週間。髪を切られるほどまでにエスカレートするような執拗ないじめを受けていたなんて、全く気づかなかった。
そう言えばあの後から、すこしぼんやりと何か考えているような顔をしていることが多くなっていたとは思っていたが……
『樹理は……樹理は誰にされたか言ったんですか?』
「ええ。同級生の藤原呉緒という子です。樹理さんが目を覚ましたら……明日の朝にでも家に電話するように伝えます」
『ええ、お願いします』
受話器を置いて、樹理の鞄から携帯電話を取り出す。発信の履歴は、自分とあの二人の電話番号ばかりだ。一番新しい真里菜の電話番号を選んでかける。
『お姉さま!? よかった繋がって。今ね、未来ちゃんの店にいてっ……えーっと知り合いのやってるカットサロンにいるんだけど、お姉さまの髪に合いそうなエクステが何種類かあるから、学校休んで明日朝イチで絶対来てっ! あ、開店は九時なんだけど早めにあけてくれるって、だから八時前に……』
「すまない。樹理じゃない」
『え!? えええっ!? お姉さま、家に帰らないであなたのとこにいるのっ!? あれ? なんであなたがお姉さまの電話でかけてるの? ダメダメダメっ! 親しき仲にも礼儀ありですっ 恋人でも携帯電話は見ちゃダメっ』
「樹理はもう寝た。だから聞きたいことがある。樹理に嫌がらせをしていたのは藤原呉緒だけか?」
『一緒になってやってた取り巻きいっぱいいるけど首謀者はそうだと思う。って! 寝た!? お姉さまがそこで寝てる!? なんでっ!? どうして?? ちょっとアンタ私のお姉さまになにしてんのよー!!!』
「明日朝八時に緒方さんの店だな」
電話の向こうで真里菜がギャーギャー叫んでいる。あまりのやかましさに電話を切って、樹理はお前のじゃないと思いつつ、ついでに電源を落とす。
それにしても。
樹理は自分で何とかしたいといっていたが、おそらく樹理一人ではどうしようもないだろう。
この落とし前はどうやってつけようか。
樹理の携帯電話を元通り鞄に仕舞い、自分の携帯電話を取り出す。あのパーティーの日ふざけて入れられた絶対に使わないだろうと思っていた番号がこんなに早く役に立つとは思ってもいなかったが、まだリダイヤルに残るその相手に電話を掛ける。
「もしもし? ええ、僕です。実はちょっと頼みたいことがあるんですが……」
これまでの経緯と用件を簡潔に伝えると、受話器の向こうで一拍の思考の間を空けて、おそらくろくでもないことを思いついたのであろう相手が楽しそうに言った。
「そう言うことなら、派手にやっていいかしら?」
「ええ。できるだけ」
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