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嵐の前の静けさ
ウソ。ホントにマジで?
しおりを挟む「おー いい音」
「しょーがないだろっ 腹減ってんだからっ」
ずっと寝てて時間の感覚全然なかったけど、時計を見たらもう午後八時過ぎてる。
「歩けるか?」
「歩く!!」
もう、これ以上抱えられてなるものか。よろよろ壁伝いだけど何とか歩いてダイニングテーブルにたどり着いたら、こんな一瞬で作ったとは思えないようなごちそう。フルじゃないけどコースっぽい料理が並んでた。
「え。藤也って料理できたの? お菓子だけじゃないの?」
「失敬だなお前は。とは言っても、コレ全部デリバリーの温め直しだけどな」
そーっと椅子に座って、テーブルの上の料理を見て涎を垂らさんばかりの俺の皿に、藤也が色々よそってくれる。
「いただきます!」
コースなら前菜からだけど、今は全部そろろってるから、好きなモノから。柔らかいのに噛んだらプリッとした食感のエビに、薄いピンクのトマトタルタルソース。あ、これ、よく連れて行ってもらってた店のだ。
「これって、エベールブランシュの?」
濃厚なクリームが絡まったフィットチーネ。
しゃきしゃきの水菜のサラダ。ポタージュスープは人参がベースなのか、オレンジ色。上にクリームとかぼちゃの種がトッピング。
メインは鴨のグリルかな。外カリカリで中がきれいなお肉色。マスタードの効いたソースとの相性も抜群!
「そ。よくわかったな」
「んー なんとなく? よく行ってるし。お持ち帰りもしてるんだ?」
「ケーキ以外はフツーはしてない」
順番無視で、四角いプレートにバランスよく盛られた目にもおいしいごちそうたち。
好きなモノからばくばく食ってる俺と違って、柊也はきちんとルールを守っていつも通りの綺麗な食べ方。
藤也は食べながら俺の皿が空になる前に、俺が次に食べたいモノが分かるみたいに追加してくれる。
「ケーキある?」
「あるある。季節のタルトと梨のミルクレープ、四種のベリーショート。あと、プリン。全部俺製」
「あ? そっか、そう言えば、あの店のデザート、藤也のなんだよな」
藤也の行動や人格はともかく、作るお菓子はめちゃくちゃおいしい。食後のデザートに思いを馳せていたら、ワイングラスをことんとおいて、柊也が笑う。
「違いますよ、エベールブランシュも藤也の店です」
「へ!?」
ウソ。ホントにマジで? 確かに、食べに行くたびにシェフっぽい人出てきて、藤也にあいさつと言うか、いろいろ喋ってたけど。
藤也は、確かモンプティットローズって名前のパティスリーをやってる。このマンションからすぐ近くの駅前のが本店で、もっと都心に独立店舗の支店一つと、デパ地下にも販売のみの店がある。
全部、藤也に連れて行ってもらったことあるからそれは知ってた。
本店のほうは店のケーキとか軽食とか食べられるカフェも併設してるけど、ちゃんとした飲食店まで持ってるなんて聞いてねぇ!
「あー 言ってなかったっけ。もう一軒、藤屋ってのも俺の店ね」
そっちもよく連れてってもらってる創作和食の店! っていうか店の名前!!
「俺の店っつっても、藤屋の方はコンセプトとメニューの方向性、店のデザインとかな、そういうのやってるだけで人任せだけど」
コイツ、五軒も店持ってんのかよ!?
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