あい らぶ? こめ。

神室さち

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嵐の前の静けさ

遠慮じゃねぇええええぇぇッ!!!

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 お互いの入院期間が重なったのは三日くらいのもので、よくそんな短期間に父さんの事丸めこ……仲良くなったなぁと思う。

 けど、母さんは退院するその日に『私、絶対、あなたの事軽く養える女になって見せるから、絶対、十八歳になったら嫁に来てね!!』とプロポーズ(?)して、母さんは二十四歳にしてバイヤーとして確固たる地位を築き、誰にも文句を言わせない年収額を叩き出し、本当に父さんを配偶者にしてしまって、更には一年後、俺まで産み落とした。

 『生まれましたよーって、こう、胸のとこにね、乗っけられた真琴の顔見て、天樹君そっくりだったからもう、私よくやった!! って、ガッツポーズしてアンタの事危うく落としそうになったわ』とか、出産直後も母さんらしいんだけど。

 でも、小さかった俺でも十分わかるくらい二人とも、ものすごく幸せそうで、周りのみんなが『まこちゃんち、お父さんとお母さんが反対でおかしい』とか言われても、全然気にならなかった。

 父さんは、主夫っていっても大したことはできなかったんだろうと思う。料理も洗濯も掃除もがんばってたけど、ちょっと動いたら息が上がってた。入退院も繰り返してた。酸素がうまく取り込めないから、携帯って言っても結構でっかい酸素ボンベが手放せなくて、それ引きずりながら、俺の保育園の送り迎えとかしてくれてた。

 母さんがちらっと言ってただけだからよく知らないけど、俺の死んだ父さんは結構いいとこの子供だったらしい。小さいころから入院してることが多くて、家族とも疎遠で、病気が理由で跡が継げないから、ってほとんど放っとかれてたんだそうだ。

 父さんの葬式にも、家長代理とか言う人が香典を持ってきただけ。父さんの親も兄弟も、一人も来なかった。母さんが怒鳴り散らすのを見たのは、後にも先にもあの時だけだった。声を荒げるようなことは、それまでも、それからも、アレ一回きり。出されたやたらと分厚い香典も、文字通り叩き返して追い返してた。

 喧しい人だけど、怒ることは滅多になかったから、俺は声も出ないくらい怖かったけど、その人が帰った後、しばらくずーっと、ぎゅーて、してた。

「俺、よくわかんないけど、お母さんたちが柊也に嘘ついて、お見舞いこなくていいって言ったのは、柊也の事いらないからじゃなくて、そんなことしなくても家族だから大丈夫って思ったからだと思う。結局、それで柊也は今も、色々後悔してるみたいだけど、柊也はその間、何にもしてなかったわけじゃなくて、勉強とか、いっぱいしてたんだろ? お見舞いに割く時間が無駄だとは思わないけど、ちゃんと、無駄じゃない時間、使ってたんなら、使ってるって知ってたから、お母さん、柊也の為に時間を使うべきだって、思って、そうしたんだと思うし、えっと、あの、ごめん、よくわかんなくなった」

 最初からよくわかんないこと言った気がするけど、ぎゅってしてる柊也の体から、ふっと力が抜けた。

「わりぃ 風呂もうちょっとかか……あー!! 何してんのッ! ちくしょー 柊也羨ましッ!!」

 何してたんだか、やっと帰ってきて廊下とダイニングをつなぐドアを開けた藤也が、叫びながら一瞬でこっちに来た。

「藤也もしてやるから黙れ」

 とは言っても、藤也は立ってるから頭をぎゅーってわけにもいかなくて、腰にぎゅーだけど。

 あー むかつくくらい腰にも筋肉ついてる。

「何なにコレ。なんのご褒美?」

「プリンの、ですよ」

「はー これにちゅーとかついてきたらおにーちゃん張り切ってマコの為だけにどうにかしてバケツにプリン作っちゃうよ」

「誰がそこまでするか、バカ」

 調子に乗った藤也が、バカみたいなこと言って俺の頭をぐりぐり撫でる。

 ん? なんか、頭に違和感あるんだけど。


 ばっ……と、藤也から離れて。アタマ。両手で確認。

「──っ! な、んで、こんなもんついてんだよ!?」


 違和感の正体。ネコ耳。


「あははははー 取り忘れてた?」

「違うだろ! 先につけてたのと違うだろコレ!!」

 ぷるぷる震える俺の手の中にあるのは、ピン耳モードのネコ耳。たれ耳モードのは、この充分恥ずかしい服、着る前に、リストバンドなんかと一緒に自分で取った。はずなのにッ!!




 いーつーのーまーにーッ!!!




 俺、こんなの付けたままメシ食ってたのかよ。

「いいじゃん。にゃんこちゃん、いい食いっぷりで見てて楽しかったー」

「首を傾げたりする仕草も自然でしたしね」

 当たり前だッ 気づいてないんだからッ!

 眼福ー とか言いながら、藤也が俺の手からネコ耳を奪い取って、また頭につけられた。

 んで、俺が取ろうとする直前、ひょいっと担ぎ上げられた。

「ちょっ!? 藤也ッ!! 降ろせー」

 太腿の裏と、膝の裏に藤也の腕が回ってて、ちょっと不安定だから、ネコ耳外したくても、咄嗟に藤也の頭にしがみつく。


 行き先はもう、わかりきってる。

「さて。今日は頭も洗ってやるからなー ウチの風呂、ホテルほど広くないけどはいれるから、三人くらい入っても多分大丈夫だから」

「まてまてまてまてまてー!! 一人で洗うッ! 一人で入るッ!!」

 広い狭いの問題じゃない。そして無理して三人いっぺんに入る意味が解らない!!

「猫が自分で洗えるわけないでしょう?」

「いやいやいやいやいやッ! 俺、猫じゃないから!!」


 また耳つけられてるけどッ!!

「遠慮すんなって」





 ……………だから。

 遠慮じゃねぇええええぇぇッ!!!


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