あい らぶ? こめ。

神室さち

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後の祭り

……なにを? なにを中にセットするの?

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 ってか、病気でも故障でもないのに、どう言い訳してやめたらいいんだろ。

「あー うー いー……」

 退部届って、どうやって書くんだろうって呻いてたら、ぽんぽんと、頭に乗っかる手。

「大体何を悩んでいるのかわかりますけどね、真琴は私が用意した退部届を顧問に渡せば終わりですよ。もし、マネージャーでもいいから残ってくれ、など言われたら、中を見てもらえばいいようにセットしておきますから」


 ……なにを? なにを中にセットするの?

 なんて、聞きたくても聞けない、柊也の笑み。


「泳ぎたいなら俺らのいってるジムで一緒に泳げばいいだろ」

 パーカーの上からくしゃくしゃっと撫でるのは、藤也。

「そうですよ。泳ぐだけならどこでもできます。悪いことは言いません。水泳部は辞めなさい」

 きっぱりと、柊也が言い切るのは、えーっと、中に入れる物に何か関係あるんだろうか? あるんですね。ええ。

「もー わかったよ。辞める。辞めます。えーっと、合宿後三日休みで……今日何日だっけ? うわー どうしよう、俺、今日部活無断で休んでる」

 合宿の最終日と、俺の誕生日と、そこからの日数を指で折って、もうすでに部活が始まってたことに気づいた。水泳部はいつも、合宿後に夏休みを置いて、その後はお盆も毎日部活。来るべく秋季大会に向かって。

「心配しなくても、体調不良で欠席の連絡は入れてあるぞ?」

 ソツのないことだ。


「明日……は、さすがに調整が付きませんが、明後日一緒に学校へ行きましょうか」

「柊也が?」

 時間が自由になるって言う意味では、藤也の方だと思うんだけど。

「ええ、私が。言ってはなんですが、藤也より私のほうが、いろいろ説得力がありますよ?」


 確かに。


「では、真琴は……そうですね、明後日には自力で普通に歩けるように、しっかり寝てください」

「……しれっと言ったけど、こうしたのお前らだから」

「ハイハイ。もう明後日まではなんもしませんよっと」

 うわ! いきなり抱き上げるな!! 着ているものがポンチョ一枚だからって、どさくさお尻を撫でるなッ!

「俺らも充分マコチャージできたし、ゆっくり寝ようか」

 連れて行かれた寝室のベッドは、いつの間にかシーツが替えられてて、あのぐちゃぐちゃのどろどろの惨状は、匂いすら残ってない。なんか、むしろ、お花のイイ匂いするんだけど。

 ぺりっと肩にかかってるだけの一枚布みたいなウサ耳フードつきポンチョをひっぺがされ、ころんとベッドの真ん中に転がされて。

「せまいんですけど」

 両脇にでっかいのが。すぐそこにでっかいのが。同じサイズのが、さも当然の様に風呂上りに来てたシャツとかハーフパンツ脱ぎ去った生身がッ!! 両脇に!!

「思うんだけどっ 追加でベッド買ったんだし、もっとゆっくり寝たらいいじゃん。こんなくっつくなら、追加のベッド一つあったらよかったんじゃないの?」

 て言うか寧ろ、一つのベッドにみっちり乗ってる気がするんだけど。

「えー でもだって、真ん中マコだし」

「ベッドの隙間と言うか、マットレスの継ぎ目は結構痛いものですから、それを回避しようと思ったら、この形がベストなんですよ。私たちも、少々動いたところで体が落ちることもなく、誰もが痛くないというところで」

 ……なんつーか、なんなの。二人ともそう言う『誰かと一緒に寝て』の経験済みの折込済みってことですか。


 なんかちょっと、ムカツク。


「大げさに言うと、人間、生きてる時間の四分の一から三分の一はベッドの上で過ごすわけですから、快適が一番ですよ。この程度、贅沢にも入りません」

 なるほどー って、挟まれてる俺、快適と程遠いんですが。


 とか、言いつつ。

 心地よい硬さのマットレスと、両脇からの熱すぎない熱と、疲れと。

 そんなのが重なって、案外簡単に、俺は夢も見ないくらいに、すこーんと、寝てしまった。

 なんかもー これからどうなっちゃうんだろうとか、思っても、考えるのも、めんどくさい。

 そう言う適当さが、俺の悪いところだって知ってるけど……

 もう、なるようにしかならないだろ。結局。

 気持ちいいことを、気持ちイイって甘受した時点で、俺の未来は決まってしまったのかもしれないけれど。





 それに気づくのはそれこそ、二学期の初めのドタバタが終わって、さらにもうすこし未来の出来事だ。





 とりあえずもうちょっと続きの話をすると、俺は翌朝から微熱と言うには高い熱を出して三日間ほど寝込んだ。

 熱で唸りながら文句タラタラの俺に、さすがの双子もちょっとだけ反省した様子だったから、それこそちょっとだけ気が晴れた……んだけど。

 当然、退部届も出しに行けるはずもなく、俺の回復も待たずに柊也が代理で出しに行ってしまった。

 だいぶ後になってから鞄と一緒に発掘した携帯電話で、一応自分から部長に連絡を入れたら、マネージャーでいいから残ってくれって言われて、引き止めようとしてくれることにグラッとしたけど、人が泳いでるのを見て、我慢するとか無理そうだから、それも丁重にお断りした。


 この学校のプールが屋上にあってホントに良かったと思うよ。フツーに目に付くところにあったら、未練たっぷりで見てたかもしれない。



 はぁ



 返す返すも思い出したくない日々だ。

 部活辞めたら二学期からちょっとヒマになるかも。

 なんて言うのは、まぁ 夏休みも含めてありえなかったわけで。

 学校が始まっても、さして変わり映えすることなく、むしろなんかだんだん慣れたような気がしないでもない日々だ。

 べちょーっと体をくっつけていた机が、なんとなく発熱しているみたいになってきて、いい加減体を起こさなきゃなぁとか思いながら。

 風でふわりと揺れたカーテンの向こうの、まだまだ夏を残した空を見上げていたのが、平穏の終わりだとは思いもしないまま、あくびをかみ殺しつつ、俺はゆっくりと、身を起こした。



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第二部終了。
続きは今書いてる。


しばらくお待ちいただければ幸いです。
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