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ばれんたいん きす
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しおりを挟む本編の流れに沿った閑話で、夏清の一人称になります。
最初に謝っておくと18年前の私がイベントに乗ったアホっぽい話が書きたかったから歌いながら書いた。ごめんなさい。
この閑話は一日朝晩二回更新です。時と場所……は、関係ないけど何にも考慮せずマイペースに更新です。
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ねえどうして世間様ってなんでこんなにイベント好きなんですか?
なんていうの? クリスマスとか誕生日とか、バレンタインとか。
別にね、私は、買ったらいいやって思ってたのに、なんかみんな『本命には手作りよねー』みたいな雰囲気?
草野さんとかまで手作りするとか言うじゃない? どうなのかなどうなのかな? やっぱり先生も手作りとかのほうがいいのかな? で、本人に聞いてみることにしたの。
「は?」
新聞ばさって畳んで先生まぬけな顔してるよ。いま。
だって私、今までバレンタインで人に何かあげたりとか、したことないんだもん。そりゃさ、クリスマスは約束どおり連れてってもらったよ、ディズニーシー。実冴さんが株主専用のパス大量にくれたから、全部回れたし。すごい楽しかったけど、ああなんで、私、欲しいものあるか? って聞かれて、連れてってくれるだけでいいなんて言っちゃったんだろう。なんかもらっといたら良かった。あげたのよ? 手編みじゃないけどマフラー。そんでなんももらわなかったの。ちっ……うわいやだ。なんか先生のクセ感染っちゃってるよ。
「え、だから、いいよね? 買ったやつで。そっちの方がおいしいし」
うわあ、嫌そうなカオ。作ってくれないのかってカオしてるよこの人。
「だって私、作ったことないし。チョコなんて。絶対変だよ? 形とか。味の保証もないし」
溶かして固めるだけだってコトは分かってるのよ。味なんて変わらないってコトも。だから余計おいしいって評判のお店の、おいしいののほうがよくない? いいよね? 私はそっちが食べたいわ。
「お前が食うんじゃなくて、食うのは俺。買ったやつにしてみろ、返しも誕生日もないと思えよ」
うがー!!! ひどいっなんてこと言うのこの人? なんかホントにくれなさそう。しかたないな。実冴さんとかに聞こうか…作り方とか。どうせだから向こうで作っちゃうとか? あ、そっちの方が絶対いいよね。うんうんと一人でプラン練ってたら、そんなことお見通しって感じで先生が言う。
「言っとくけどココで作れよ。ココで」
「え? ヤダ」
即答。してからすぐに今居た場所から三歩後ろに逃げる。ふっ分かってるのよ先生のやりそうなことなんて。私のことを捕獲し損ねた先生が悔しそうな顔してるよ。
「ほほーう。なんかお前、最近やたらと察しがいいな?」
「あたりまえじゃん。もう一緒に暮らしだして一年経つんだよ? 先生、行動ワンパターン過ぎ」
いいながら逃げる。テーブルをはさんで右や左にフェイントかけたり。くぅ……唯一の誤算は先生の背後に私の部屋の入口があるってことだわ。
「絶対絶対クリスマスのときと同じことしようと思ってんでしょう!?」
「悪いか?」
「悪い!! あの時家中クリームべたべたになって撒き散らしたの先生なのに全部私があと片付けたのよ?」
「そりゃお前が逃げるからだろ」
「逃げるわよ普通!!」
そう。この目の前の人、なにしたと思う? この家にはオーブンがないし、作り方も良く分からなかったからクリスマスのケーキは実冴さんと、北條先生のうちで焼いたの。でもデコレーションしたやつを壊さずに持って帰る自信もなかったし、ホイップしたクリームと生地、飾り用のいちごとか別々に持って帰ってきたの。家で飾りつけようと思って。
「そのあと三日ほど体中あまかったんだからね!?」
もうホントに。そんなことされると思ってなかったからわりかし素直にキスして服脱がされたりしていつも通りな感じだったのにっ!!
「どこに人の体にクリーム塗るバカがいるのよ!?」
「いるだろ? ほれ、注文の多い料理店だっけ?」
「日本を代表する文学作家の名作と自分の変な趣味、一緒にしてないでよ!!」
「おんなじだって。最後は食うつもりだろ?」
「ちっがーう!! うぎゃ」
力の限り叫んでたらいつのまにか間合い詰めてた先生に捕まる。
絶対違う、絶対違う、絶対違う!! 絶っ対!!
ああもう宮沢賢治先生ごめんなさい。私、次からあの話、読むとき平常心でいる自信がないです。
応援ありがとうございます!
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