【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました

桃月とと

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14 処刑台

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 ミケーラがレティシアの中に入ってそろそろ半年。王都では様々な変化が起こっていた。
 
 偽聖女パミラに手を貸し、レティシアをギロチン台に送った者全てが処刑されることに決まった。

 聖女パミラの悪事が暴露されたのだ。

「悪魔が聖女の名を語り我々を騙していたのだ! 予言の厄災全て、この偽聖女パミラが招いたものだ!!!」

 大神官は信徒達に向け大々的に公表した。人々は半信半疑だったが、今の大神官メドルバは公平な人間で、権力に屈するような人物でないことは知っていたし、何よりパミラの予言はいつも被害を免れないタイミングで告げられていた為、何か裏があるのでは? と考える人は少なくなかった。

「いっつも遅いんだよなぁ~あの予言」
「そうそう。予言があってもなくても同じっていうか……」
「意味ないのよ。あと少し早く予言してくれてたらうちの人は助かったかもしれないのに……!」

 それにここ最近、王都の高級店で傍若無人に振る舞う姿や、派手なドレスで観劇するパミラを多くの者が目撃していた。そして凡そ聖女の行動とは思えない噂が飛び交っていたのだ。

「王太子ライルはその立場にありながら悪魔に騙され手を貸した。よって廃嫡し、レオンハルトを次期王として迎え入れる! これは教会も認めたものである!!!」

 元王太子ライルは違法娼館通いの罰を終え、すでにあの牢から出ていた。その後は王の最後の願いをミケーラが聞き入れ、刑の執行までは自室に幽閉されていた。だがすでにかつての美しく勇ましい彼の容姿は失われている。髪の毛は抜け落ち、何も食べられなくなっており、皮膚に潤いもなかった。そしていつも何かぶつぶつとしゃべり続けている。
 
 王宮で暮らしていたライルの母である王妃は、その頃には息子同様、心が壊れてしまっていた。

「誰だ!!! 私の食事に泥水を入れたのは!!?」
「そのようなもの入ってはおりません!」

 王宮内の廊下でレティシアを見かけてからというもの、王妃は何を食べても泥水の味しかしなくなっていた。

 結局彼女も無実の公爵令嬢を陥れた罪と心身喪失で王から離縁され、故郷で幽閉されることになった。

「パミラ!!? パミラはどこへ行った!?!?」

 彼女だけはパミラが偽聖女と伝えても信じなかった。最後までパミラの名前を呼び続けたのだった。

 パミラに与した神官達は皆絶望と後悔の中残された日々を風も光も与えられない部屋で過ごしていた。刑が執行される前に自らの悪行を顧み、旅立った者も多かった。

 王宮内での重要な役職から外された者も多くおり、不満を持つ者がいないわけではなかったが、あの穏やかな王が強硬な姿勢を崩さないことに恐怖を覚え、素直に受けいれていた。王は決してレティシアを嵌めた者達を許さなかった。

(何故死んでしまった令嬢にそこまで?)

 誰もがそう思っていた。

 人々は王や教会の大きな変化に戸惑っていた。そして同時に確信していた。

『なにか起こったのだ』

 あの仲の悪かったこの国の最高権力者2人が協力してまで、あの『偽聖女』を排除しようとしている。だからこそ逆にパミラは『本物』なのだと信じた。『聖女』か『悪魔』か誰にもわからなかったが。

 そしてその答えは、偽聖女として糾弾されたパミラの処刑日にわかった。

 多くの者が処刑されるその日は、レティシアが処刑された日と同様に大雨が降ってた。そしてあの日と同じように、『聖女』を信じる者とそうでない者に別れた怒号が響き渡っていた。

 あの日と違うのは、ギロチンを前に1人、誇り高く背筋を伸ばし、少しの恐怖も見せなかったレティシアと、ギロチンの列から少しでも遠くにあろうと恐怖に震える体で許しを請う者達だった。

「どうか! どうかお許しください!!! なんでもしますから!!! どうか!!!」

 涙が雨かわからないもので、彼らの顔は濡れていた。

「私は聖女よ! 誰か! 誰か早くどうにかしなさい! 誰かぁぁぁぁ!!!」

 パミラは拘束された後もずっと同じように主張し続けていた。彼女の声は絶叫に耐えかね、すっかりかすれてしまっている。

「レティシアがくるまたレティシアがくるレティシアがくるまたレティシアがくる」

 元王太子ライルだけは抵抗することなく、相変わらずぶつぶつと呟いていた。

 いよいよ処刑が始まろうとした時、人々の耳に直接、美しい鳥の声が響いた。高く優しい声色のそれは、人々の昂る気持ちを落ち着かせていった。
 上を見上げると、その声の主であろう瞳と嘴と長い尾が金色に輝く真っ白の鳥が大空を待っていた。そうしてあれだけの大雨がピタリと止み、雲間から美しい光が差し込み始めた。
 人々は静まり返った。そして再び処刑台の方を見た時、全員が息をのんだ。

 公爵令嬢レティシアがそこに立っていたのだ。そうしてへ向けて丁寧にお辞儀をした。

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