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23 我儘
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マリロイド王国では災難が続いていた。国全体が日照り続きで水不足に陥り、穀物地帯への影響も甚大だった。水魔法が得意な者達が各地を周ったがそれだけではとても足りなかった。人々はわずかな水の為に争っていた。
それに続き、現聖女が倒れたのだ。高齢な彼女はすでに命を削った力で国を守っていたが、後進の教育は上手くいかないどころか不安が増すばかりだっため、無理に無理を重ねていた。
「聖女様! どうか教会へ……どうか……!」
「嫌よ! 結界は残ってるんでしょ? ならまだ私は必要ないじゃん」
「しかし!」
「無理強する気!? 王太子に言いつけるわよ!!?」
神官達の願いも虚しく、ユリアは聖女としての務めを放棄していた。
聖女は毎日教会で祈りを捧げなくてはならない。その祈りが結界の力になるのだ。聖女の力量によってその強度は変わるが、現聖女の命を懸けた祈りによって彼女が倒れている間も奇跡的に保たれていた。
「ユリアは嫌がっています。彼女はまだ若い。教会に閉じ込められると感じて不安なのです!」
アルベルトは彼女に代わり国王に向けて力説する。
「彼女は聖女である前に俺の未来の妻です! 未来の王妃です! そんな彼女のささやかな願いすらこの王国は聞けないのですか!」
だが父親の表情は暗いままだ。
「祈りを拒否する聖女など聖女ではない」
王の静かな怒りがアルベルトに伝わった。
最近はこの父親と上手くいっていなかった。それどころか毎日のように王妃である母からも新しい婚約者のことで苦言を呈されている。
「なぜ我々の幸せを認めてくれないのですか!?」
「お前達の幸せがなんだというのだ」
「えっ!?」
あの優しかった父親の言葉とは思えなかった。
「国民の幸せの上に我々王族の幸せがあることを忘れたか……この! 痴れ者め!!!」
これは幼い頃からずっと言われ続けたことだった。良き王となる為の大事な心得だと、父も母も乳母もいつも優しく伝えてくれた言葉だった。
今はその言葉を喉が引き裂かれんばかりの怒鳴り声で浴びせられる。
(これはまずい……!)
ここまできてやっと、父親が本気で怒っていることを理解した。もう甘えも我儘も一切許してもらえない所まできたいた。
実は今、城の中である噂が駆け巡っていた。
『王はすでに息子を見限っている』
アルベルトには残念ながら身に覚えがあった。
「わかりました……ユリアに話してみます」
「結果を知らせよ」
「……はい」
もう父親との会話は業務連絡でしかなくなった。
「頼むよユリア……!」
「酷い! アルまでそんなこと言うなんて! 私のこと愛してないの!?」
ユリアは目を潤ませながら訴える。
「愛しているさ! だけどこのままでは結界が消えてしまう。そうなればこの国にいる君だって困るだろう?」
「嫌よ! あんな暗くてみすぼらしい所から出られなくなるなんて……私はアルのお嫁さんになるのに!」
実際はそんなことはない。毎日教会の所定の場所で一定時間祈りを捧げる必要はあるが、それ以外の時間は王都内であれば自由に動き回れる。ただ何かあった場合に備えて、常に教会へ戻れる距離にいる必要はあるので、彼女が不満を言うとしたら『王都内から出ることが出来ない』と言うべきなのだ。
彼女は王都を気に入っていた。この国で1番の大都会で、あらゆる店がある華やかな街だった。……ただ最近は、ベルーガ帝国の帝都のことが気になって仕方ないようだが。
つまりこれはただゴネているだけなのだ。
「だが君は聖女だ……聖女だからこそ、あっさり教会はレミリアとの婚約破棄もユリアとの婚約も認めてくれた……」
「はあ!? なにそれ! 身分で許す許さないが出るなんて酷い!」
実際、ギリギリの所で認められた関係だった。アルベルトはレミリアと婚約破棄しての初めての公務で、人生で初めて平民に冷ややかな目を向けられた。自分は父と同じように平民からも人気のある王になると思っていたが、実際平民に人気があったのは元婚約者の方だった。
それは当たり前だ。手が汚れようと服が汚れようと関係なく、平民達と触れ合っていたのは彼女の方だったのだから。孤児院への訪問も国が手掛ける橋作りの見学も、災害現場での手伝いも、アルベルトはただ彼らに手を振るだけ。離れたところから様子を見るだけだった。
アルベルトは困り果てていた。しかしなんとか彼女を説得できなければ本気で王に、父に見放されてしまう。そうなるとどうなるか、想像するのも嫌だった。
「現聖女様の体調が戻る間だけだから……終わったらこの間言っていたドレスを作らせるよ」
「……本当?」
「……! ああ! ドレスに会うイヤリングも作ろう!」
「あの人、あとどのくらいで戻ってこれるの?」
「……一ヵ月は休息が必要だと言っていたが……」
本当は半年……いや、復帰できるかも今はまだわかっていない。だがアルベルトは現婚約者ユリアに真実を話すことが出来なかった。
そうしてユリアは大袈裟にため息をついた。
「はあ。仕方ないわ。愛する人の頼みだもの!」
「……ありがとうユリア! 父上もお喜びになるだろう!」
(これで父上に報告が出来る!)
ドレスの予算はグレンに頼めばなんとかなるだろうと勝手に当てを付けた。
「ねぇアル? 私考えたんだけど、今回の災害の件、ベルーガ帝国の大賢者様にお願いしたらどうかなぁ」
「えぇ!? し、しかしアイツは我々を馬鹿に……」
「だってちゃんとご挨拶もしてなかったしぃ~」
すでに彼女の中で、あのパーティでのことはなかったことになっているようだった。
今度はアルベルトが小さくため息をついた。
「……父上に相談してみよう。確かにすでに我が国の魔術師だけでは収まりきれなくなっている」
大賢者の側には元婚約者がいる。しかも彼女は自分の側にいた時よりずっと楽しそうだった。隣に立っている男が自分よりも評価されているのも気に入らない。
王太子アルベルトにとって、面白くないことが続くのだった。
それに続き、現聖女が倒れたのだ。高齢な彼女はすでに命を削った力で国を守っていたが、後進の教育は上手くいかないどころか不安が増すばかりだっため、無理に無理を重ねていた。
「聖女様! どうか教会へ……どうか……!」
「嫌よ! 結界は残ってるんでしょ? ならまだ私は必要ないじゃん」
「しかし!」
「無理強する気!? 王太子に言いつけるわよ!!?」
神官達の願いも虚しく、ユリアは聖女としての務めを放棄していた。
聖女は毎日教会で祈りを捧げなくてはならない。その祈りが結界の力になるのだ。聖女の力量によってその強度は変わるが、現聖女の命を懸けた祈りによって彼女が倒れている間も奇跡的に保たれていた。
「ユリアは嫌がっています。彼女はまだ若い。教会に閉じ込められると感じて不安なのです!」
アルベルトは彼女に代わり国王に向けて力説する。
「彼女は聖女である前に俺の未来の妻です! 未来の王妃です! そんな彼女のささやかな願いすらこの王国は聞けないのですか!」
だが父親の表情は暗いままだ。
「祈りを拒否する聖女など聖女ではない」
王の静かな怒りがアルベルトに伝わった。
最近はこの父親と上手くいっていなかった。それどころか毎日のように王妃である母からも新しい婚約者のことで苦言を呈されている。
「なぜ我々の幸せを認めてくれないのですか!?」
「お前達の幸せがなんだというのだ」
「えっ!?」
あの優しかった父親の言葉とは思えなかった。
「国民の幸せの上に我々王族の幸せがあることを忘れたか……この! 痴れ者め!!!」
これは幼い頃からずっと言われ続けたことだった。良き王となる為の大事な心得だと、父も母も乳母もいつも優しく伝えてくれた言葉だった。
今はその言葉を喉が引き裂かれんばかりの怒鳴り声で浴びせられる。
(これはまずい……!)
ここまできてやっと、父親が本気で怒っていることを理解した。もう甘えも我儘も一切許してもらえない所まできたいた。
実は今、城の中である噂が駆け巡っていた。
『王はすでに息子を見限っている』
アルベルトには残念ながら身に覚えがあった。
「わかりました……ユリアに話してみます」
「結果を知らせよ」
「……はい」
もう父親との会話は業務連絡でしかなくなった。
「頼むよユリア……!」
「酷い! アルまでそんなこと言うなんて! 私のこと愛してないの!?」
ユリアは目を潤ませながら訴える。
「愛しているさ! だけどこのままでは結界が消えてしまう。そうなればこの国にいる君だって困るだろう?」
「嫌よ! あんな暗くてみすぼらしい所から出られなくなるなんて……私はアルのお嫁さんになるのに!」
実際はそんなことはない。毎日教会の所定の場所で一定時間祈りを捧げる必要はあるが、それ以外の時間は王都内であれば自由に動き回れる。ただ何かあった場合に備えて、常に教会へ戻れる距離にいる必要はあるので、彼女が不満を言うとしたら『王都内から出ることが出来ない』と言うべきなのだ。
彼女は王都を気に入っていた。この国で1番の大都会で、あらゆる店がある華やかな街だった。……ただ最近は、ベルーガ帝国の帝都のことが気になって仕方ないようだが。
つまりこれはただゴネているだけなのだ。
「だが君は聖女だ……聖女だからこそ、あっさり教会はレミリアとの婚約破棄もユリアとの婚約も認めてくれた……」
「はあ!? なにそれ! 身分で許す許さないが出るなんて酷い!」
実際、ギリギリの所で認められた関係だった。アルベルトはレミリアと婚約破棄しての初めての公務で、人生で初めて平民に冷ややかな目を向けられた。自分は父と同じように平民からも人気のある王になると思っていたが、実際平民に人気があったのは元婚約者の方だった。
それは当たり前だ。手が汚れようと服が汚れようと関係なく、平民達と触れ合っていたのは彼女の方だったのだから。孤児院への訪問も国が手掛ける橋作りの見学も、災害現場での手伝いも、アルベルトはただ彼らに手を振るだけ。離れたところから様子を見るだけだった。
アルベルトは困り果てていた。しかしなんとか彼女を説得できなければ本気で王に、父に見放されてしまう。そうなるとどうなるか、想像するのも嫌だった。
「現聖女様の体調が戻る間だけだから……終わったらこの間言っていたドレスを作らせるよ」
「……本当?」
「……! ああ! ドレスに会うイヤリングも作ろう!」
「あの人、あとどのくらいで戻ってこれるの?」
「……一ヵ月は休息が必要だと言っていたが……」
本当は半年……いや、復帰できるかも今はまだわかっていない。だがアルベルトは現婚約者ユリアに真実を話すことが出来なかった。
そうしてユリアは大袈裟にため息をついた。
「はあ。仕方ないわ。愛する人の頼みだもの!」
「……ありがとうユリア! 父上もお喜びになるだろう!」
(これで父上に報告が出来る!)
ドレスの予算はグレンに頼めばなんとかなるだろうと勝手に当てを付けた。
「ねぇアル? 私考えたんだけど、今回の災害の件、ベルーガ帝国の大賢者様にお願いしたらどうかなぁ」
「えぇ!? し、しかしアイツは我々を馬鹿に……」
「だってちゃんとご挨拶もしてなかったしぃ~」
すでに彼女の中で、あのパーティでのことはなかったことになっているようだった。
今度はアルベルトが小さくため息をついた。
「……父上に相談してみよう。確かにすでに我が国の魔術師だけでは収まりきれなくなっている」
大賢者の側には元婚約者がいる。しかも彼女は自分の側にいた時よりずっと楽しそうだった。隣に立っている男が自分よりも評価されているのも気に入らない。
王太子アルベルトにとって、面白くないことが続くのだった。
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