28 / 63
28 公爵家の長男
しおりを挟む
ロニー・ディーヴァは公爵家の長男だ。母親は男爵家の1人娘で、新婚のディーヴァ公爵を誘惑し彼の子を産んだ。
彼女にとって幸運なことに、ライバルである正妻が若くして亡くなったので、すでに子を産んでいた彼女が繰り上がりで公爵家に入ることが出来た。
更に有難いことに、義理の娘は継母に全く無関心だった。だがその継母がレミリアを邪見扱い、王都の屋敷から追い払おうと画策するとそれはすぐにバレ、逆に継母の方が危うく追い出されてしまうところだった。
幼いレミリアに泣いて謝る母親を見て、ロニーは酷くショックを受けた。自分と同じ年の少女に懇願するように泣き縋らなければならないのは、母の身分が低いせいだと思い込んだ。
「レミリアには気を付けなさい」
ロニーはいつも母親にそう注意されていた。
「僕は母上と違って半分は公爵家の血が流れているから」
それが彼の大切なアイデンティティになっていた。だがそれは、両親ともに公爵家のレミリアには到底かなわないものだった。
「またレミリアに勝てなかったのか……お前は将来この家を継ぐんだぞ?」
たまに実家に帰っても父親は成績の件をチクリと言うだけ。いつものように姉と比べてガッカリされるだけだった。母は自分のせいだと、自分の生まれのせいだと嘆くようになっていた。それはロニーが自ら招いたものだ。小さなころからいつだって上手くいかないことは全て母親の出身のせいにしていた。
「母上が下級貴族出身のせいだ」
レミリアはその言い訳を聞くたびにウンザリという顔をしていた。
(いったい何の関係が?)
それにこだわっていたのはロニーだけだったのに。
そんなロニーが平民の女の子に恋をした。彼女はいつも彼を頼ってくれた。いつも褒めてくれた。姉への嫉妬心も認めてくれた。彼の実力がわかっていない両親に対して一緒に憤ってくれた……。
(身分なんて関係なかったんだ)
そう気が付き始めた時、ユリアは聖女の力に目覚めた。そうして王と同じ唯一無二の存在となってしまった。これまで平民だと馬鹿にしていた連中が途端に黙って彼女に道を譲るようになった。ユリアも譲ってもらうのが当たり前という態度を取るようになった。
(なんだ……やっぱり身分なんじゃないか)
そうして彼女は彼らの中で一番身分の高い男を選んだ。
だが彼女は良い事もしてくれた。あの鬱陶しくてしかたなかった姉レミリアを国外へ追いやってくれた。これで家では父の次に身分が高いのは自分になった。
なのに、いつまで経っても姉と比べられ続けた。
ロニーの姉は他国に居ながら……国外追放された身でありながらこの国を疫病から救ったのだ。
だから今はいない姉の痕跡をおった。どんな生活をしていたのか興味が湧いたのだ。
(どうせ優雅で華やかな公爵令嬢らしい生活だろ)
姉を上げ、自分を下げ、そうしてまた自己憐憫に浸ろうとしていたのだ。
部屋に入ったら書物で溢れかえっていた。雑然としていて、完璧だと思っていた姉の部屋だとは思えなかった。床には衣類が脱ぎ散らかされたままだった。
「少しは片付けて出てけよ……」
(……そんな暇はなかったか)
魔術で失敗したせいだろう、一部のドレスに燃えた跡があった。公爵令嬢らしくない平民が着ているような衣類も沢山あった。メイドによると、暇を見つけては孤児院へ行ったり平民向けの学校に顔を出していたらしい。
「あーーー! レミリア様の馬車だあ!」
孤児院へ行ってみると、ディーヴァ家の馬車を見て子供達がわらわらと集まってきた。相手は公爵家だというのに少しもかしこまる雰囲気がない。ここでレミリアは子供達に読み書きを教え、一緒に遊んでいたのだ。
「レミリア様の授業、厳しかったなぁ……でもまた来て欲しい……」
子供達はレミリアがどうなっているのか、なんとなくわかっているようだった。レミリアは自分がいなくなった時のことも考え、新しい先生を手配していたし、それとなく子供達にはいつか自分が来なくなる日が来ると伝えていたのだ。
「今度からはロニー様が来てくれるの?」
期待するような顔がたくさん見え、ロニーは動揺した。これまで誰もそんな目で自分を見なかった。公爵家の長男に畏まることも、出来のいい姉と比べて値踏みされることもなかった。
「まったく……姉上は大切なことを教えていないじゃないか! 目上の者に対するマナーや礼儀を知らないのか!」
「申し訳ありません……! まだ幼い子供達でございます……何卒お慈悲を!」
この孤児院を取り仕切っていた神官が焦っている。レミリアが特殊なだけであって基本貴族というのは身分の低い者への態度は厳しい。
「し、仕方ないから僕が全部教えてやる! 姉上より厳しいからそのつもりでいるように!」
「へ? あ……ありがとうございます!」
ロニーは心臓がドキドキしていた。自分がこんなことを言い出すなんて思わなかったのだ。
(なんで……)
自問しながらも、ここで過ごせば自身の心にこびりついた、『身分』という概念を再び変えられるという、勘に近い何かを感じたからだった。
彼女にとって幸運なことに、ライバルである正妻が若くして亡くなったので、すでに子を産んでいた彼女が繰り上がりで公爵家に入ることが出来た。
更に有難いことに、義理の娘は継母に全く無関心だった。だがその継母がレミリアを邪見扱い、王都の屋敷から追い払おうと画策するとそれはすぐにバレ、逆に継母の方が危うく追い出されてしまうところだった。
幼いレミリアに泣いて謝る母親を見て、ロニーは酷くショックを受けた。自分と同じ年の少女に懇願するように泣き縋らなければならないのは、母の身分が低いせいだと思い込んだ。
「レミリアには気を付けなさい」
ロニーはいつも母親にそう注意されていた。
「僕は母上と違って半分は公爵家の血が流れているから」
それが彼の大切なアイデンティティになっていた。だがそれは、両親ともに公爵家のレミリアには到底かなわないものだった。
「またレミリアに勝てなかったのか……お前は将来この家を継ぐんだぞ?」
たまに実家に帰っても父親は成績の件をチクリと言うだけ。いつものように姉と比べてガッカリされるだけだった。母は自分のせいだと、自分の生まれのせいだと嘆くようになっていた。それはロニーが自ら招いたものだ。小さなころからいつだって上手くいかないことは全て母親の出身のせいにしていた。
「母上が下級貴族出身のせいだ」
レミリアはその言い訳を聞くたびにウンザリという顔をしていた。
(いったい何の関係が?)
それにこだわっていたのはロニーだけだったのに。
そんなロニーが平民の女の子に恋をした。彼女はいつも彼を頼ってくれた。いつも褒めてくれた。姉への嫉妬心も認めてくれた。彼の実力がわかっていない両親に対して一緒に憤ってくれた……。
(身分なんて関係なかったんだ)
そう気が付き始めた時、ユリアは聖女の力に目覚めた。そうして王と同じ唯一無二の存在となってしまった。これまで平民だと馬鹿にしていた連中が途端に黙って彼女に道を譲るようになった。ユリアも譲ってもらうのが当たり前という態度を取るようになった。
(なんだ……やっぱり身分なんじゃないか)
そうして彼女は彼らの中で一番身分の高い男を選んだ。
だが彼女は良い事もしてくれた。あの鬱陶しくてしかたなかった姉レミリアを国外へ追いやってくれた。これで家では父の次に身分が高いのは自分になった。
なのに、いつまで経っても姉と比べられ続けた。
ロニーの姉は他国に居ながら……国外追放された身でありながらこの国を疫病から救ったのだ。
だから今はいない姉の痕跡をおった。どんな生活をしていたのか興味が湧いたのだ。
(どうせ優雅で華やかな公爵令嬢らしい生活だろ)
姉を上げ、自分を下げ、そうしてまた自己憐憫に浸ろうとしていたのだ。
部屋に入ったら書物で溢れかえっていた。雑然としていて、完璧だと思っていた姉の部屋だとは思えなかった。床には衣類が脱ぎ散らかされたままだった。
「少しは片付けて出てけよ……」
(……そんな暇はなかったか)
魔術で失敗したせいだろう、一部のドレスに燃えた跡があった。公爵令嬢らしくない平民が着ているような衣類も沢山あった。メイドによると、暇を見つけては孤児院へ行ったり平民向けの学校に顔を出していたらしい。
「あーーー! レミリア様の馬車だあ!」
孤児院へ行ってみると、ディーヴァ家の馬車を見て子供達がわらわらと集まってきた。相手は公爵家だというのに少しもかしこまる雰囲気がない。ここでレミリアは子供達に読み書きを教え、一緒に遊んでいたのだ。
「レミリア様の授業、厳しかったなぁ……でもまた来て欲しい……」
子供達はレミリアがどうなっているのか、なんとなくわかっているようだった。レミリアは自分がいなくなった時のことも考え、新しい先生を手配していたし、それとなく子供達にはいつか自分が来なくなる日が来ると伝えていたのだ。
「今度からはロニー様が来てくれるの?」
期待するような顔がたくさん見え、ロニーは動揺した。これまで誰もそんな目で自分を見なかった。公爵家の長男に畏まることも、出来のいい姉と比べて値踏みされることもなかった。
「まったく……姉上は大切なことを教えていないじゃないか! 目上の者に対するマナーや礼儀を知らないのか!」
「申し訳ありません……! まだ幼い子供達でございます……何卒お慈悲を!」
この孤児院を取り仕切っていた神官が焦っている。レミリアが特殊なだけであって基本貴族というのは身分の低い者への態度は厳しい。
「し、仕方ないから僕が全部教えてやる! 姉上より厳しいからそのつもりでいるように!」
「へ? あ……ありがとうございます!」
ロニーは心臓がドキドキしていた。自分がこんなことを言い出すなんて思わなかったのだ。
(なんで……)
自問しながらも、ここで過ごせば自身の心にこびりついた、『身分』という概念を再び変えられるという、勘に近い何かを感じたからだった。
32
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる