千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる

桃月とと

文字の大きさ
3 / 35
第一章 千年後の世界へ

第3話 千年後

しおりを挟む
 呆然としているメルディの前で、青年達は心配そうに目を見合わせていた。

「……大丈夫?」
「おい……」

 気の毒そうな視線がメルディに向かう。

(大丈夫? 何が? 私が?)

 混乱した頭を必死で元に戻そうと、止まっていた呼吸を再開し、目をぱちぱちとさせる。どんなこともなんとかなる。そうやって彼女は修行を乗り越えてきた。

(なんのこれしき……だわ!)

 これも師匠の滅茶苦茶な修行の一つだと思えばなんのその。というか、本当にその可能性だってあるとさえメルディは考え始めていた。

(だってあの師匠のことだもん)

 それが意外ではないほど、とんでもない修行はこれまでも散々あった。

「ご親切にありがとう。……実は少し困ったことになっちゃってて、いくつか教えてもらいたいことがあるんだけど」
「もちろん!」

 そう言いながらも茶髪の青年は、彼女が質問するより先に自分の疑問を投げかけてきた。なにやらワクワクしているのが伝わってくる。

「あ! オレ、ユーリ。こっちのちょっと愛想の悪い金髪はエリオ。この街で大学生とやってるの。おねーさんのお名前は? なんでココに?」

 そう言えばまだ自己紹介もしていなかったとお互い少し慌てた気持ちになっていた。

(ダイガクセイ? トレハン? この国の何かの役職名かな?)

 人懐こそうなユーリと少し気難しそうなエリオの視線を受け、メルディは姿勢をただし礼儀正しく答えようと務めた。 

「私はメルディ。大魔法使いレオナルド・マグヌスの弟子をしています。転移災害にあっちゃってココに……」
「え……?」

 二人の声色が曇り、困惑と驚きと気にかけるような視線に変わっていった。自分のことを心配してくれる人がいるという状況に慣れないせいか、メルディは別に大したことではないですよ、と余裕ぶった手振りになる。

「ココってどこかしら? キルケの街からは遠い? セレスタ王国にあるんだけど」

 彼女の師匠であるレオナルドは魔法使い業界では超が付くほど有名人。実力も、そして変わり者具合も。セレスタ王国も半世紀前から戦争すれば負けなしでブイブイいわせていた。ここが小国であっても名前くらいは聞いたことがあるだろうと思いつつ、二人の答えをドキドキと待っている。

「……!!!」
「うわぁぁぁ! すごい! すごい! あの手紙は本物だったんだ!!!」

 驚いて声もでないエリオと興奮して手を横にブンブン振っているユーリ。そしてまたしてもわけがわからない状況になっているメルディはまたも口がポカンと開いている。 

「ああ! ごめんね! 勝手に盛り上がっちゃって……えーっとお答えします!」

 ウォホン! ともったいつけたように咳払いをした後、ユーリがハッキリとした声で信じられないことを言った。

「ココはセレスタの街の一つ、名前はキルケ。だけどもう王国じゃないんだ。随分前に共和制に移行してて。名前だけは残ってるけど」 
「え? ……それってどういう……」

 呼吸が早くなる。だけど二人には決してバレないように注意した。他人に弱い自分を見せることは彼女にとってかなりリスクが高い行為だ。とはいえ、流石に表情が引き攣っている。
 答えを知りたいような知りたくないような……けど今のメルディは知るしかない。

「メルディ、君は千年後の世界にやってきたんだ!」

 どうだ! っと、なぜか嬉しそうなユーリが満面の笑みを向けた。その隣にいるエリオは眉を顰めているが。

(ああ、なんてこと)

 メルディの胃の中に重いものがのしかかってくる。ズンと体に響き渡ったようだった。

「時空転移……」

 ポソリとエリオが呟いた。その言葉に彼女の思考も引っ張られる。

(ただの転移じゃなかったんだ……時空を超えたなんて……)

 転移災害という稀な出来事に遭遇したと思ったら、実はさらにレアな事象に巻き込まれていたとは。

「どうやって帰ろう……」

 呆然としたまま、完全に中に閉じ込めておけなくなった不安が声となって外へ出てしまっていた。

「あ……ごめんオレ……君にとっては大変なことなのに浮かれちゃって……」

 自分はなんて不謹慎で心無い反応をしていたのだろうと、ユーリは大慌てになった後、申し訳さそうにしょぼんと肩を落とした。

「ううん。教えてくれてありがとう。状況が理解できてよかった」

 メルディはそんなこと少しも気にしていなかったが、ユーリはそうはいかない。彼女の言葉が気遣いに感じられさらに落ち込んでいく。

「あ、でもなんで私が来たのが千年前ってわかるの?」

 その疑問には落ち込んでいるユーリに変わってエリオが答えることにしたようだ。

「俺達はこいつん家の書庫でレオナルド・マグヌスの手紙と思われるものを見つけたんだ。今日、この時間にこの場所に来るよう書かれてた。まあ俺は全然信じてなかったんだが……結果はこうだ」

 これまでユーリの一歩後ろにいたエリオだったが、今はメルディを気遣っているようだった。まだ自己嫌悪で落ち込んでいるユーリに関しては、お前が悪いと特にフォローはしない。

「これなんだけど」

 ごそごそとユーリが鞄からビニール袋に入れられた古い手紙を取り出し、メルディに手渡す。

「うん。これは師匠が書いた手紙だ」

 やっぱり! と、また少し興奮を見せたユーリだったが、反省が続いているのかそれ以上騒ぎはしない。
 手紙の文字に目を走らせて、メルディは何か探しているようだった。内容はエリオが言った通り、この手紙を見つけた者へのお願いとして書かれていた。

「あとこれも。封筒の中に入ってたんだ」

 手渡された銀のプレートの表面には『メルディへ』と文字が彫られている。少し錆びていたが年数のわりにはかなり綺麗だ。

(……まあ何か仕込んでるんでしょうけど)

 指先でにぎりメルディはそのプレートに魔力を込める。

(こういう演出が好きな人な~)

 それはみるみる形を変えて、小さな鍵へと姿を変えた。

「うわぁ! て、手紙が……!」

 今度は手紙か……忙しいな、とメルディは特に驚くでもなくユーリの方を向く。手紙の文字が浮かび上がりぐにょぐにょと形を変え、どんどん新しい文章が出来上がっていく。 

『やあメルディ! 君にとってはさっきぶりかな? 時空転移に巻き込まれるなんてドジを踏んだね! あ、僕は関係ないよ? 僕を疑ったでしょ? 僕はやってないからね! さて本題だ。君はまだ修行途中の身。つまり見習い魔法使い。と言うことで、引き続き修行を続けてもらうよ! それは何かって? それを簡単に教える僕じゃないって君も知っているよね! じゃあまた!』

(ご丁寧なことですこと!)

 大魔法使いレオナルド・マグヌスがもしかしたら千年の時を超えて助けに来てくれるかも! とは彼女は全く期待していなかった。彼がこの手紙で言いたかったのは、時空移動は自分のせいじゃないということだ。

「マグヌスってこんな感じなんだ……!」

 この手紙に目を輝かせ感動できるユーリの純粋さがメルディは眩しい。どうやら彼は自分の師匠を好いているようだと、物珍しいものを見つけた気分になっている。一方、エリオの方はちょっとひいているのが見て取れた。

(とりあえず、この鍵にあう何かを探せってことね)

 ふよふよ浮かばせた鍵を空中でクルクル回しながらメルディはため息をつかずにはいられない。

「ねぇメルディ。これからどうするの?」
「え?」

 彼女のため息をこれからの不安から出たものだとユーリは思ったのだ。

「もう君の家はないんだろう?」
「千年も前だもんな」

 そう言えばそうだな、とエリオがユーリに相槌をうっている。そしてメルディもその通りだなと思っていた。血の気が引いていくのを感じながら。 

「マグヌス屋敷の跡地ならあるけどね」
「跡地か……住めないな。そもそも居住権あんのか? どうなんだそういうの」
「う~~~ん……」

 どうにかいい方法はないかとエリオとユーリは真剣に考えていた。千年前からきた人間より、現代人の方がそれを考えるのに適しているだろうとああでもないこうでもない、と。だが表情は険しいままだ。

(そうだ……まずはここで生きていく方法考えなきゃ……)

 メルディは孤児だ。弟子入り前はそれは悲惨な生活をしていた。またその生活なんてまっぴらごめんだった。

(い、今鞄に入っている魔獣の素材を売ったらいくらぐらいになるんだろ!? ま、まままずはそれを売って……)

 今更パニックになりかけている彼女の表情を見て、また二人は心配そうな顔になっている。そしてメルディを安心させるよう目線を合わせ、

「よければオレらの家にくる? 落ち着くまで居てくれてかまわないよ。どうせ今、オレらくらいしか住んでないし……」
「え!? ……えっ!!?」

 だ、男性の家に……!? と、メルディは転移して初めて挙動不審になっていた。大変ありがたい申し出であることはわかっているのだが、

(今の時代ってそれは問題ないことなの!?)

 千年経てば価値観も変わるであろうことはメルディにも想像がついた。だがこの驚きを隠すのは難しい。千年前の世界ではマグヌスの屋敷の中で人間は二人だけだったというのに。同世代の男性からの純粋な親切への反応方法が彼女にはわからなかった。

「あ! オレん家は下宿と民泊やってて。まあご時世柄下宿してるのはエリオだけなんだけど、部屋なら他にもあるからさ」
「ミンパク……?」
「宿屋だ」
「ああ!」

 エリオの補足でメルディはポンッと手を打った。

 こうしてメルディは結局この二人のお世話になることにしたのだった。

(それにしても出来過ぎね)

 時空転移は彼女の師匠のせいではないにしろ、このありがたい巡りあわせは師匠が仕組んだものかもしれないなんて考えが頭に浮かぶも……、

(な~んて……師匠が私にこんな気の利いたサービスするわけないか!)

 さて、なんとか寝床が確保できたメルディ。次は自活の道を探すことになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。 一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。 もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。 ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。 しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。 エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。 そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。 「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。 エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。 ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。 ※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』

無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜

矢口愛留
恋愛
クリスティーナは、初級ポーションすら満足に作れない無能聖女。 成人を迎えたことをきっかけに、これまでずっと暮らしていた神殿を出なくてはいけなくなった。 ポーションをどうにかお金に変えようと、冒険者ギルドに向かったクリスティーナは、自作ポーションだけでは生活できないことに気付く。 その時タイミングよく、住み込み可の依頼(ただしとても怪しい)を発見した彼女は、駆け出し冒険者のアンディと共に依頼を受ける。 依頼書に記載の館を訪れた二人を迎えるのは、正体不明の主人に仕える使用人、ジェーンだった。 そこでクリスティーナは、自作の失敗ポーションを飲んで体力を回復しながら仕事に励むのだが、どういうわけかアンディとジェーンにやたら甘やかされるように。 そして、クリスティーナの前に、館の主人、ギルバートが姿を現す。 ギルバートは、クリスティーナの失敗ポーションを必要としていて――。 「毎日、私にポーションを作ってくれないか。私には君が必要だ」 これは無能聖女として搾取され続けていたクリスティーナが、居場所を見つけ、自由を見つけ、ゆったりとした時間の中で輝いていくお話。 *カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

処理中です...