千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる

桃月とと

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第一章 千年後の世界へ

第13話 オークション

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 オークション会場は遺物審査局の一画にあった。会場のホールにはすでに多くの参加者が集まっている。

「元々は遺跡から出てくる物だけだったんだけど、いつの間にかあれもこれもってなっちゃったんだよね~」
「新しい物もあるってこと?」

 キョトンとした顔のメルディは、いまだに千年という時間の感覚と体感を合わせるのが難しい。

「新しい……まあ千年前よりかは……」

 キルケのオークションに出る品物は約一週間前に情報が一覧となって出ており、毎週、魔法グッズのコレクター達の話題となっていた。
 月に一、二回行われるそのオークションは、午前の部はトレジャーハンター資格、もしくは登録済みの骨董商のみが参加可能な本格的なもの。レアなものも出品されることがあるので、値段も高騰しやすく雰囲気もシビアだ。
 午後の部は一般市民向け。参加費さえ払えば誰でも参加可能となっており、観光客が思い出作りに参加している。一般受けする品物が多く、場合によってはアンティーク店で購入するより安くなることもあった。

「エルドラン工房の魔道具はやっぱ目玉だな」

 それは午前中のオークション、その最後の出品物として掲示されていた。ピリピリとした雰囲気の中、真剣な顔をした参加者達の視線の先にそれはある。炎と氷が混じったデザインの厚みのあるトレーのような見た目をしており、元々はその上に置いた食事を急速に温めたり冷やしたりできる魔道具だ。もちろん、もう動かない。
 前日にその魔道具を下見した有名骨董商曰く、

『千年前のものと思えないほど状態もよく、魔術紋も見事でエルドランらしい細工が各所に見られた』

 ということだったので、本来ならこの日は盛り上がること間違いなしだったのだが……、

「あれ? これ師匠が持ってたやつだ」

 下見会場で何気なくメルディが放った言葉によって、その日の予定は大きく変わってしまう。

「……マジで?」

 ユーリとエリオの額に冷や汗が浮かぶ。彼女は今、とんでもない発言をしたのだ。
 噂に聞く見習い魔法使いの言葉を聞き漏らさないよう、その場にいた名だたる骨董商達の間に緊張が走っていた。ユーリやエリオはそれを感じ取っているが、メルディの方は初めてのオークション会場だからかそんなものだと思っていた。まさか自分の発言が原因とはほんの少しも思っていない。

「エルドラン工房の魔道具はデザインがどれも一点物でしょ? これ、よく師匠が使ってたもん」

 彼女からするとそれほど昔の記憶ではないのだ。
 この時期、キルケの街ではメルディの存在がの間には広まっており、ここでいうがレオナルド・マグナスであることを今息を殺して聞き耳を立てている者達は知っていた。

「確かこれ、師匠が改造して壊しちゃったんだよね~。私もデザイン気に入ってたから捨てるの嫌でどっかしまい込んでたような……」
「メルディ……その……マグヌスがどこを改造したとかってわかる?」

 これをユーリが聞いたのは、家業の同業者達のためだ。これから彼らが高額を使って競り落とすのに少しでも情報が多い方がいい。

「え~っと……あ、ほら! そこの火柱のとこに魔道具の継ぎ目あるでしょ? あそこから開けたら多分どっかに師匠のサインがあるよ。自分がいじったら必ず入れてたし。主張強いよね~」

 この瞬間、主催者である遺物審査局の職員達は慌てた。彼らもプロだ。見逃すはずはない。

「……エルドランの魔道具にマグヌスのサインなんてあったらもう少し参加者が多いはずだが」

 エリオもこの状況をはっきりさせた方がいいと判断した。少し離れた所に、よくぞ聞いてくれた! と、こっそり親指を立てている者やコクコクと頷いている者が多数いる。

「そう? あ! そしたらルナリスのインク使ってるかも。満月の光にだけ反応するんだけど、師匠そういうの好きで色々作ってたから」
「!!?」

 その魔道具は結局、その日にオークションにかけられることはなかった。後日、満月の次のオークションにて改めて出品され、見事過去最高額を叩き出すことになるとはメルディは知る由もなかったのだった。

 そんなメルディはオークション午後の部にて、とある品物を競り落とすことになる。午後の部の下見会場はまるで蚤の市のような楽し気な賑わいを見せており、心地よいざわめきが聞えてきた。
 銀のスプーンにフォーク、壊れた懐中時計、古地図や楽譜、キャンドルスタンド。それから千年前のいつものガラスの指輪、記録石、魔術紋が刻まれた魔道具の欠片……サイズが小さく、持ち帰りやすい品が多い。

(えっ!?)

 メルディの目に留まったのはその中の一つ、欠けた記録石。
 彼女は魔力の痕跡を読むことができる。千年前の品物の多くはその魔力が通った跡が残っており、その記録石も例外ではなかった。だが、その中の一つが妙に気になるのだ。
 記録石は主に音声を記録する魔道具。魔力を通すことによって録音、再生が可能だ。千年前は魔法使い同士の手紙代わりに使われることもあった。もちろん、今の時代にその記録石を使えるのはごくごくわずか。

(やっぱり! 師匠の魔力だ!)

 目を瞑りほんの少し集中すると、まるでのような気配が。以前は常に身近に感じていたマグヌスの魔力がその石から感じ取れた。

「あ、あ……あれ……」

 周囲に悟らせないよう、メルディはユーリとエリオの服の袖をちょいちょいと引っ張る。なんせ午前中はマグヌスの名前を出したせいでちょっとした騒動になっているのだから。

「ん?」

 耳を寄せる二人に、メルディは小声で説明する。一瞬ピクリと眉が動いたエリオが、

「参加費払うのはギリギリにするか。今動くと目ぇつけられちまう」
「……そうだね~」

 入り口の方をチラリと確認した後、すぐにユーリも同意する。先ほどから、あきらかにメルディの動向を気にしている人間が会場に数人いたのだ。メルディの見立てのおこぼれに預かろうとしていた。

「よし。いったん飯食いに行くか」
「あそこの屋台のモツ煮サンド食べよ!」
「あ~いいな」
「煮汁がパンに染みてて美味しいんだ~!」

 大きな声で会話をした後、二人はメルディの手を引いて一度外へと出た。
 そうしてきちんとモツ煮サンドを堪能した後、予定通りギリギリにオークションの参加登録をし、メルディは無事、大魔法使いレオナルド・マグヌスの記録石を競り落としたのだった。
 
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