千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる

桃月とと

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第二章 師匠の墓はどこ?

第2話 千年後の魔術師

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 開店前のフォリア・アンティークスの窓の外では、いつも通り観光客が目を輝かせて街並みを楽しんでいる。店の中ではいつも通りメルディが商品棚を綺麗に並び替え、ユーリはバックヤードで作業をしていた。

(観光客、本当に増えたわね~)

 一瞬、メルディは妙な気配を感じた。久しぶりの感覚。入り口扉に顔を向けた瞬間、メルディは鍵が勝手に開く瞬間を見た。すぐに勢いよく扉が開く。

「こんなもの、なにがいいのかしら」

 フンッと鼻を鳴らしてヒールを鳴らしながら若い女性が店内に入って来る。サングラスをかけ、大きなピアスが揺れている。甘くてゴージャスな香りがメルディの鼻にまで届いた。

「すみません。開店はまだなんです」

 その女性から目を離さずメルディは丁寧に声をかける。

「こんな店に用なんてないわよ」

 鋭い声のままカツカツとメルディに近付いてきた。もちろん、ついじっくりと眺めたくなるような趣のある品々には目もくれない。

(そういえばヒールのある靴履く人、歴史地区ではあんまり見ないなぁ)

 観光客が多いエリアで暮らしているメルディには、動きやすい服装の方が見慣れているせいか、そのハニーブロンドの女性のゴージャスな装いに思わず目が奪われていた。ツンケンした態度よりも興味を惹かれるほど。彼女の持っているバッグが最近雑誌で見た、高額なものであると気付いたことも相まっている。もちろん、そのバッグの素材が捕獲難易度の高い魔獣の素材……なんてことはない。

 メルディの前でカンッと威嚇するかのように彼女は足を止めた。そして、

「あなたがマグヌスの弟子っていう魔法使いね」

 怒気のこもった声だった。もちろん、メルディに思い当たる節はないので当たり障りがないよう短く簡潔に答える。
 
「はい」

 まだ見習いです。とか、なにか御用でしょうか? とは言わないでおく。彼女は今、千年前、似たようなテンションで師匠に突撃してくる魔法使いがしょっちゅういたのを思い出していた。

(う~ん嫌な予感……)

 もちろんこの予感は当たるのだ。
 彼女はメルディの鼻目掛けて、ピッと指をさし、

「私と勝負しなさい!」

 高らかに宣言した。

「えっ……いや、魔法使いの私闘は禁止……」

 メルディはもちろんは初めから彼女が魔法使いだと気付いていた。なんせこちらでは珍しい気配を纏っている。以前はこの気配が魔法使い独特なものだなんて気にも留めなかったが。
 だから突飛なに驚きはしたものの、返す言葉はスムーズに出て来たのだった。とはいえメルディ。千年後の世界の常識を理解しているという点に自信はないので、

(あれ? 千年前はダメだったけど今はいいのかな……?)

 実際はダメだとは言われていたが、現代のような法律が整備されている時代でもなかったので、曖昧な面もあったのだが。彼女の師匠なんてそれこそそんなもの気にするような魔法使いではなかった。
 だがメルディは、そういえば時空転移なんていう大それた目にあったというのに、そんなことも確認していなかったと、なんだか自分が勉強不足だったような気持ちになってバツが悪い気分になってしまう。

(いや、そもそも魔法使いなんて十人しかいないのに決闘することになるなんて思わないし)

 う~ん、と困ったように考えこんだ様子のメルディを見て、女性の方は眉間に皺がより始めていた。どうやら思っていた反応ではなかったらしい。

「……なんで私が魔法使いだって……」

 と、小声でブツブツ言っていたが、考え込んでいるメルディには届かなかい。いつもなら、彼女が魔法使いだと告げた相手は目を丸くして驚き、どうにか自分に好かれようと媚びた目を向けるというのに。もちろん、メルディもまた魔法使いだというのもあるが、それにしたってまるで自分が『普通の人間』のような反応だ。

「普通に危なくないですか? 怪我なんてしたら……回復魔法は習得されてます?」

 だから彼女はメルディから気遣うような言葉をかけられるなんて我慢ならなかった。

「はあ!? 私が怪我するようなことになるとでも!!?」
「そもそもなんで勝負なんて……」

 ここまでくると困惑、というより面倒くさそうな表情にメルディはなっていた。千年前の血気盛んな魔法使い達を思い出して。

「千年前の魔法使いに、現代の魔術がどんなものか教えてあげようって言ってるのよ!」

 ありがたく思いなさい! と、サングラスをはずし頬を片方だけ上げ笑っている。そして、

「ちょっと! 困ります!!」

 店内にふわりと風が舞い上がり始めた。彼女の魔法だ。一瞬、古地図や羽飾り、小さなシャンデリアが小さく音を鳴らし、メルディが慌てて保護魔術をかける。

「フンッ! これで私の実力がわかったでしょう!? 心配しなくたって、こんな古臭いものを更に使い道がなくなるような真似はしないわよ!」 

 流石のメルディもこの辺りでムッとなる。自分のことを古臭いだとか、使い道がないなんて言われるのはかまわない。だが、この店の品々をそんな風に言われるのは我慢ならない。なにより、厄介な身の上の自分を助けてくれたフォリア家の大切な物を馬鹿にされたような気がして、メルディは久しぶりに腹を立てていた。

「わかりました。外でやりましょう。ただし、ケイサツ沙汰はごめんですよ」

 ハニーブロンドの髪を揺らしていた風がやんだ。

「魔法使いでも人間と同じ法が適用されるの。つまり、怪我をさせなければいいってことよ? それだけの決まりなら、勝負の方法なんていくらでもあるでしょ」

 千年前の野蛮な決闘と同じにしないでとばかりに、小馬鹿にしたよう髪先を指でクルクルと弄びながら、わざとらしくため息をつく。

「じゃあ別に魔法を使う必要はないのでは?」

 奥にいるユーリに声をかけ、メルディは指を振り店の扉の鍵をかけた。

「魔法使いは魔法を使う権利があるのよ」

 今度はメルディを馬鹿にするでもなく、彼女は真っ直ぐな視線でメルディを見据えた。
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