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第二章 師匠の墓はどこ?
第9話 試験科目
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今日はフォリア・アンティークスの店休日。メルディは朝から一人で外出だ。
(さて、どうやって探そうか)
マグヌスが残したメッセージ。
【ミスティリオンはどーこだ?】
この答えがある可能性のある場所へ、とりあえず足を進める。
お店から歩いて十五分程……いつの間にかメルディはマグヌスの屋敷跡地へのルートもばっちりになっていて、発掘現場で働いているほとんどのトレハンとも顔見知りと言えるほどになっていた。
トレハン側はもちろんメルディに声をかけたいが、”国際法”が頭をよぎり、にこやかに手を振るに留まっている。だが今日は、いつものメンバーだけではなかった。
「メルディさん!」
「あ! ヴェルナー教授!!」
こんにちは! と、明るく声を掛け合う。ヴェルナーの方は相変わらず少年のような笑顔だ。メルディと会えるなんてなんてラッキー! と駆け寄って来る。実際の所、最近よくメルディが屋敷跡地に散歩に来るという噂を聞きつけて、あらゆる仕事を後回しにして発掘現場へとやって来ていた。
(よかった! 教授なら聞きやすい!)
メルディは別にあれこれ聞かれても平気だ。もちろん、これは彼女が魔法使い達の歴史上の受難を知らないからこそではあるのだが。とはいえ、遠慮されているところにずけずけと向かって行けるほどメルディも無遠慮ではない。だからこのヴェルナーのスタンス――メルディからやってきた場合は積極的に関わってもいい――は大変助かるのだ。
「今日はどうされたんですか? 最近、よくお見掛けすると聞いてますが」
「ちょっと探しものを……それで教えてもらいたいことがあるんですが」
思った通りの展開にホッとするメルディだが、
「なんでしょう!!?」
ぐいっと前のめりになったのは質問される側だ。
「あ、ええっと……この屋敷の跡地って今見えてる範囲だけですか?」
「ええ。一応現時点の調査ではそうです。……メルディさんがお住まいになられてた時代はもっと広かったんですか!!?」
「いえ、今の通りではあったんですが……」
歯切れが悪い。大魔法使いのお屋敷と呼ぶにはやや小さ目のその敷地内を眺めながら、メルディは唇に指をあてウーンと少しだけ迷った後、
「……ユーリから、地下を調べる方法があると聞いたんですが」
「‼」
途端にヴェルナーの瞼が大きく開いた。
「やっぱり! なにかあるんですね! はっ! まさか……!」
「違います! 師匠の墓ではないですよ!」
たぶん。と念のため付け足す。そして期待に満ちた教授の瞳の圧力に負けたメルディは、
「”ミスティリオン”ってご存知ですか?」
ゆっくりと本日の核心を尋ねた。
「ええ! ええもちろん!! 錬金術の研究室ですね!!?」
それからヴェルナーは自身の持つ知識を生き証人に確認しようと焦っているのか、やや早口になる。
「マグヌスがその研究室を屋敷のどこかに増設しようとしていたという記載は残っているんです! 具体的な設計図まであるのですが、実際にはこの屋敷には存在せず……いや、実体が確認できていないんですが! ええそう! そうですメルディさん! ここの地下……なにかあるようなんです……!」
「やっぱり……」
メルディはあの博物館での出来事の翌日からこの跡地に通っていた。そして毎回ひっそりと地下の様子をさぐっていたのだ。
マグヌスはその研究室で”未知なる錬金術の研究”をするのだと彼女に話していた。つまりそこでは、危険かもしれない実験も行う予定だった。
(師匠のことだし、わざわざどこか他所に研究室をってのはないとは思ってたけど)
だから屋敷の地下、という予想はそれほど難しくはなかった。無関係な周辺には影響がない場所を選ぶと思ったのだ。破天荒ぶりで有名なマグヌスだが、むやみやたらと他人を傷つけることはしなかった。ただし、理由があれば別だが。
メルディは地面に手を触れて目をつぶる。
(なにかあるような……ないような……)
何度探知魔術で気配を探っても、収穫はこの程度の曖昧な感覚だけ。ただ、これもおかしな話なのだ。魔術を使っているのに、存在を曖昧に感じるなんて。
(掘り返したりしたら危ないだろうし)
なにより、かつての自分の家を、それも今では基礎しか残っていないこの屋敷を、大切に、丁寧に扱ってくれるトレハン達の存在を知っているメルディはそんな勝手なことをする気にはならないのだが。
だから昨夜、メルディは思い切ってユーリに尋ねてみた。千年の間にあの屋敷跡地を掘り返したことがあるかどうか。ちょうど子供向けの番組で、『働く車特集』をしていた、というのもある。あれだけの機械があるなら、それもあっという間だろうと。千年の間に一度くらいやったかもしれないと。
『確かうまくいかなかったんだよね。地面全体に魔力痕があるせいだって話だったけど』
ユーリは思い出しつつ、スマートフォンで調査状況を確認してくれた。マグヌスの屋敷跡地はそういった面があって、千年後の今でも発掘調査が進んでいるのだ。
『あ! でも今度、レーダーを使って調査するって言ってたなぁ』
『れーだー……?』
『簡単に言うと、地面を掘らずに透視できる機械だね』
メルディが驚いたのは言うまでもない。
そんなユーリとの会話をメルディはヴェルナーに伝えた。すると彼はちょっとばつが悪そうな顔をして、
「実はちょっと前に最新機材のお試し……ということで地中レーダーを使ってみたことがあるんです。ですが、はっきりしませんでした。反応したりしなかったりで……」
レーダーの反応はまさにメルディの探知魔術と同じ状況だったのだ。同時に、千年の間に魔術と科学が近づいていることを肌で感じ、メルディは顔には出さなかったが、なんだかドキドキとしていた。
「これはちょっとずるい考え方なんですが、セフィラーノさん――あの方、学会の名誉顧問でして――の反応を見て、我々はあれがまさにミスティリオンだと見当をつけているのです」
「なるほど~」
この考えにはメルディも同意した。セフィラーノは隠し事が下手そうだ。
そして彼女はセフィラーノほど情報を隠すようなこともしないので、
「師匠が研究室全体に幻惑か秘匿の魔術をかけてるんでしょうね。それも強力なやつを。この場合、掘っても見つけることはできません」
「ああやっぱり……!!」
しかしやはり存在はするので、下手に掘り返す方が危ないのだ。
「何も見えないということは、どうやって部屋の中に入るんでしょう?」
「正しい入り口から転移ってとこですかね」
「転移!」
それからメルディは小さな小枝を手に、地面に魔法陣を描き始めた。ヴェルナーは興味津々と小枝の先に熱い視線を送っている。
「こういう感じのマーク、どこかで見かけませんでした?」
円の中に魔術紋と鍵に似た絵柄が書かれてあるそれを、教授は真剣に記憶した後、
「いえ……似たようなものをマグヌスの魔術書の中で見たことはありますが」
「そうですか~……入口、壊れちゃったのかなぁ」
いやでも、あの師匠が作ったものだ、千年程度で壊れるわけがないとメルディは思い直す。
(簡単にはいかないか)
ほんの少しだけ、メルディの口元が上がっていた。それを見たヴェルナーの表情も柔らかくなる。
「よければ……よければですが、これから大学に遊びにきませんか? ミュステリオンの設計図が書かれた写本があるんですよ」
「是非!」
彼女はマグヌス本人から計画を聞いてはいたが、詳細は知らないのだ。研究室を作るには魔法だけでなく、金も必要になってくる。なのに大魔法使いの収支はアップダウンが激しく、なかなか計画自体を進めることが難しかった。
◇◇◇
ヴェルナーの研究室には山ほどの本が所狭しと並べられていた。その表紙にはメルディが知っている魔術師の名前もあれば、知らない名前も。彼女が知らない千年の間にも多くの有名魔術師がこの世界で活躍していたことがわかる。だが、やはりその中でもマグヌスは特別なのだ。
「こちらです。かなり正確に描き写したものだと聞いています」
手渡された古い写本を、メルディはそっと受け取った。ヴェルナーが開いてくれているページには研究室内の配置図が描かれている。
「ここっ……!」
「ええ、危険な実験を想定していたのは確かでしょう」
その図面の右下に、マグヌスの文字を真似た走り書きがあった。
【飛び火に備えよ!】
この文言に、メルディは覚えがある。
(あのローブを準備しとけってこと!?)
少し前に失くしたボタンが戻ってきていた。
(材料を揃えて作れってこと!? 千年後の世界で!!?)
これは魔法使いの卒業試験。魔術だけでなく錬金術もその科目の一つなのだと、メルディは改めて覚悟したのだった。
(さて、どうやって探そうか)
マグヌスが残したメッセージ。
【ミスティリオンはどーこだ?】
この答えがある可能性のある場所へ、とりあえず足を進める。
お店から歩いて十五分程……いつの間にかメルディはマグヌスの屋敷跡地へのルートもばっちりになっていて、発掘現場で働いているほとんどのトレハンとも顔見知りと言えるほどになっていた。
トレハン側はもちろんメルディに声をかけたいが、”国際法”が頭をよぎり、にこやかに手を振るに留まっている。だが今日は、いつものメンバーだけではなかった。
「メルディさん!」
「あ! ヴェルナー教授!!」
こんにちは! と、明るく声を掛け合う。ヴェルナーの方は相変わらず少年のような笑顔だ。メルディと会えるなんてなんてラッキー! と駆け寄って来る。実際の所、最近よくメルディが屋敷跡地に散歩に来るという噂を聞きつけて、あらゆる仕事を後回しにして発掘現場へとやって来ていた。
(よかった! 教授なら聞きやすい!)
メルディは別にあれこれ聞かれても平気だ。もちろん、これは彼女が魔法使い達の歴史上の受難を知らないからこそではあるのだが。とはいえ、遠慮されているところにずけずけと向かって行けるほどメルディも無遠慮ではない。だからこのヴェルナーのスタンス――メルディからやってきた場合は積極的に関わってもいい――は大変助かるのだ。
「今日はどうされたんですか? 最近、よくお見掛けすると聞いてますが」
「ちょっと探しものを……それで教えてもらいたいことがあるんですが」
思った通りの展開にホッとするメルディだが、
「なんでしょう!!?」
ぐいっと前のめりになったのは質問される側だ。
「あ、ええっと……この屋敷の跡地って今見えてる範囲だけですか?」
「ええ。一応現時点の調査ではそうです。……メルディさんがお住まいになられてた時代はもっと広かったんですか!!?」
「いえ、今の通りではあったんですが……」
歯切れが悪い。大魔法使いのお屋敷と呼ぶにはやや小さ目のその敷地内を眺めながら、メルディは唇に指をあてウーンと少しだけ迷った後、
「……ユーリから、地下を調べる方法があると聞いたんですが」
「‼」
途端にヴェルナーの瞼が大きく開いた。
「やっぱり! なにかあるんですね! はっ! まさか……!」
「違います! 師匠の墓ではないですよ!」
たぶん。と念のため付け足す。そして期待に満ちた教授の瞳の圧力に負けたメルディは、
「”ミスティリオン”ってご存知ですか?」
ゆっくりと本日の核心を尋ねた。
「ええ! ええもちろん!! 錬金術の研究室ですね!!?」
それからヴェルナーは自身の持つ知識を生き証人に確認しようと焦っているのか、やや早口になる。
「マグヌスがその研究室を屋敷のどこかに増設しようとしていたという記載は残っているんです! 具体的な設計図まであるのですが、実際にはこの屋敷には存在せず……いや、実体が確認できていないんですが! ええそう! そうですメルディさん! ここの地下……なにかあるようなんです……!」
「やっぱり……」
メルディはあの博物館での出来事の翌日からこの跡地に通っていた。そして毎回ひっそりと地下の様子をさぐっていたのだ。
マグヌスはその研究室で”未知なる錬金術の研究”をするのだと彼女に話していた。つまりそこでは、危険かもしれない実験も行う予定だった。
(師匠のことだし、わざわざどこか他所に研究室をってのはないとは思ってたけど)
だから屋敷の地下、という予想はそれほど難しくはなかった。無関係な周辺には影響がない場所を選ぶと思ったのだ。破天荒ぶりで有名なマグヌスだが、むやみやたらと他人を傷つけることはしなかった。ただし、理由があれば別だが。
メルディは地面に手を触れて目をつぶる。
(なにかあるような……ないような……)
何度探知魔術で気配を探っても、収穫はこの程度の曖昧な感覚だけ。ただ、これもおかしな話なのだ。魔術を使っているのに、存在を曖昧に感じるなんて。
(掘り返したりしたら危ないだろうし)
なにより、かつての自分の家を、それも今では基礎しか残っていないこの屋敷を、大切に、丁寧に扱ってくれるトレハン達の存在を知っているメルディはそんな勝手なことをする気にはならないのだが。
だから昨夜、メルディは思い切ってユーリに尋ねてみた。千年の間にあの屋敷跡地を掘り返したことがあるかどうか。ちょうど子供向けの番組で、『働く車特集』をしていた、というのもある。あれだけの機械があるなら、それもあっという間だろうと。千年の間に一度くらいやったかもしれないと。
『確かうまくいかなかったんだよね。地面全体に魔力痕があるせいだって話だったけど』
ユーリは思い出しつつ、スマートフォンで調査状況を確認してくれた。マグヌスの屋敷跡地はそういった面があって、千年後の今でも発掘調査が進んでいるのだ。
『あ! でも今度、レーダーを使って調査するって言ってたなぁ』
『れーだー……?』
『簡単に言うと、地面を掘らずに透視できる機械だね』
メルディが驚いたのは言うまでもない。
そんなユーリとの会話をメルディはヴェルナーに伝えた。すると彼はちょっとばつが悪そうな顔をして、
「実はちょっと前に最新機材のお試し……ということで地中レーダーを使ってみたことがあるんです。ですが、はっきりしませんでした。反応したりしなかったりで……」
レーダーの反応はまさにメルディの探知魔術と同じ状況だったのだ。同時に、千年の間に魔術と科学が近づいていることを肌で感じ、メルディは顔には出さなかったが、なんだかドキドキとしていた。
「これはちょっとずるい考え方なんですが、セフィラーノさん――あの方、学会の名誉顧問でして――の反応を見て、我々はあれがまさにミスティリオンだと見当をつけているのです」
「なるほど~」
この考えにはメルディも同意した。セフィラーノは隠し事が下手そうだ。
そして彼女はセフィラーノほど情報を隠すようなこともしないので、
「師匠が研究室全体に幻惑か秘匿の魔術をかけてるんでしょうね。それも強力なやつを。この場合、掘っても見つけることはできません」
「ああやっぱり……!!」
しかしやはり存在はするので、下手に掘り返す方が危ないのだ。
「何も見えないということは、どうやって部屋の中に入るんでしょう?」
「正しい入り口から転移ってとこですかね」
「転移!」
それからメルディは小さな小枝を手に、地面に魔法陣を描き始めた。ヴェルナーは興味津々と小枝の先に熱い視線を送っている。
「こういう感じのマーク、どこかで見かけませんでした?」
円の中に魔術紋と鍵に似た絵柄が書かれてあるそれを、教授は真剣に記憶した後、
「いえ……似たようなものをマグヌスの魔術書の中で見たことはありますが」
「そうですか~……入口、壊れちゃったのかなぁ」
いやでも、あの師匠が作ったものだ、千年程度で壊れるわけがないとメルディは思い直す。
(簡単にはいかないか)
ほんの少しだけ、メルディの口元が上がっていた。それを見たヴェルナーの表情も柔らかくなる。
「よければ……よければですが、これから大学に遊びにきませんか? ミュステリオンの設計図が書かれた写本があるんですよ」
「是非!」
彼女はマグヌス本人から計画を聞いてはいたが、詳細は知らないのだ。研究室を作るには魔法だけでなく、金も必要になってくる。なのに大魔法使いの収支はアップダウンが激しく、なかなか計画自体を進めることが難しかった。
◇◇◇
ヴェルナーの研究室には山ほどの本が所狭しと並べられていた。その表紙にはメルディが知っている魔術師の名前もあれば、知らない名前も。彼女が知らない千年の間にも多くの有名魔術師がこの世界で活躍していたことがわかる。だが、やはりその中でもマグヌスは特別なのだ。
「こちらです。かなり正確に描き写したものだと聞いています」
手渡された古い写本を、メルディはそっと受け取った。ヴェルナーが開いてくれているページには研究室内の配置図が描かれている。
「ここっ……!」
「ええ、危険な実験を想定していたのは確かでしょう」
その図面の右下に、マグヌスの文字を真似た走り書きがあった。
【飛び火に備えよ!】
この文言に、メルディは覚えがある。
(あのローブを準備しとけってこと!?)
少し前に失くしたボタンが戻ってきていた。
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