千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる

桃月とと

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第二章 師匠の墓はどこ?

第10話 材料集め

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 温かなカフェオレが美味しい日が増えてきた。フォリア・アンティークスのショーウィンドウも一新され、ひらひらとしたレースのヘッドセットに深紅のドレスをまとったアンティークドールや、ミニチュアハウスが並んでいる。
 今日は店内商品の入れ替えということで店休日だが、が駆り出されていた。

「流行も取り入れないとね~」

 ユーリと店主のダルクは満足そうに頷いていた。最近、アンティークドール人気が高まっており、どこでも人気の商品となっていた。もちろん、店内の一番目立つ場所にも愛らしい人形が何体か飾られてある。

「縫製も凝ってますね」
「これは当時でも上流階級向けに作られたものだから。まあ、今の価格も上流階級向けのままだけど!」

 売れるかなぁ~と、ダルクは笑っている。
 ヒラヒラのドレス姿の人形は、その衣装に似合う、どこか誇らし気な微笑を浮かべているようにメルディには見えた。ほんのりラベンダーの香りもする。

「アンティークドールの衣装は時代の流行りが見えて面白いよ」

 ユーリが奥からとっておきのドールを持ってきた。魔法使いの衣装を着た小さな女の子の人形だ。

「これは百五十年前くらいにこの街で作られたものなんだよ。今でもレプリカは売られてるんだ」
「博物館のショップ土産屋にも置かれてるよな」

 エリオに言われて、そうなの? とメルディはミュージアムショップの様子を思い出そうとするが、いつも混雑していてゆっくり見れた試しがないことを思い出した。
 人形のガラスの瞳がキラリと光る。

(あれ!?)

 ブルーブラックのローブを羽織ったその人形をメルディは凝視した。ほんのり魔力の気配を纏っていたのだ。ダルクは彼女の様子をすぐに察して、

「そうそう、この衣装は錬金術師が作ったっていう話でね。いや~メルディ君の反応でそれが本物だってわかって安心したよ~」

 正確に言うと衣装を作ったのではなく、この布を作ったのが百年以上前の錬金術師だった。まさに今、メルディが求めている布だ。

「そっか。そういえば魔法使いのローブを作らないといけないんだったっけ?」
「これじゃ小さすぎるな」

 学生二人もメルディから話を聞いていたローブのミニチュアがこれだとはと、興味津々だ。思っていたよりもずっと本格的で価値の高い物だった。

「糸とボタンは違うけど……この布、千年後も作られてるんだ!」

 ローブ作り、どうしたものかと頭を悩ませていたメルディにとって急に振って来た希望に表情が明るくなる。だが、

「う~ん九百年前までは作られてたけど、今はどうかな」

 ユーリは苦笑いだ。
 確かに、十人の魔法使いの中で千年後もこの布を作り続けている人物がいるかどうか怪しい。メルディはすでに、現代で作られた素晴らしく品質の高い布の存在を知っている。

「作るの、難しいのか?」

 急激に希望を失っていくメルディの瞳を見て、少し気の毒そうにエリオが尋ねた。
 
「うん。難しいのよ……時間もかかるし……」

 それこそ、最後に作った自作のローブにどれだけ時間をかけたことか。

「よければ生地を取り扱ってる知り合いに聞いてみようか」

 ヴィンテージファブリックも扱ってるから、何かしら知ってると思うというよと、ダルクの申し出にメルディは食いついた。

「お、お願いします!」

 ちょうどここで、ナーチェ夫人の声が。

「お昼にしましょ~」

 ダルクはすぐに相手先に連絡をいれ、とんとん拍子に話は進んで行く。

「明後日ならゆっくり時間が取れるそうなんだけど、どうする?」
「ぜひ!!」

 この機を逃してなるものかと、メルディは珍しく意気込んでいた。
 ローブ作りは大仕事だ。あまりの億劫さにここ数日はどうしたものかと頭の中で考えるのみで、なかなか行動できないでいたのでいいきっかけにもなる。

 ショーウィンドウに出していたドールは翌日には売れた。買い主はちょうど昨日、この街にやって来たばかりの観光客だ。

「流行りがくると眠ってたドールが表に出てくるから探しやすくなるんですよねっ!」

 その後ぼそりと、

「……値段は上がっちゃうけどねぇ~……」

 しかし悔いはないのだと、大切にそのドールを抱きしめて店を出て行った。

◇◇◇

 エリオが運転する車に乗って、メルディはダルクが紹介してくれた卸問屋まで向かう。そういえばキルケの街を出るのは初めてのことで、過ぎゆく景色をただじっと眺めていた。妙な緊張感がメルディの中に広がっていた。

「この辺は森だったんだよね~?」

 ユーリも日頃は意識しない、舗装された道路を見ていた。

「うん。魔獣も出るようなとこだったんだけど……今は魔獣の『ま』の字も感じないね」
「今出たら大ニュースになるな」

 エリオはどこか他人事だ。すでに魔獣はそうそうお目にかかれるものではなくなっている。
 スムーズに左折しながら車は大きな通りに入っていき、まもなく目的地へとたどり着いた。

「ようこそ!」
「お久しぶりですロチェットさん」
「おぉユーリ! 大きくなったね!」 

 生地店の店主はにこやかに三人を迎え入れ、打ち合わせ用の部屋へと案内する。最中、ダルクとの思い出話を話してくれた。二人は学友だそうで、今でも年に何度かの飲み仲間なのだと楽しそうに。

「これがお問い合わせいただいたアルカ布錬金術の布です」
「わぁ! これはかなり質のいいものですね!」

 テーブルに置かれた箱に入れられた布を見て、メルディは手に触れることなくすぐにわかった。その布からは均一で整った魔力を感じ取れたからだ。

「おわかりですか! ダルクからお詳しいとは聞いていましたが」

 もちろん、メルディの詳細についてロチェットは何も知らない。今回は、若者の勉強のためにその生地を見せてもらえないか、という依頼だったのだ。なんせその生地の価格は……、

「1mが百万エル! ……ネットオークションよりは安いですね……!」
「非常に貴重なものですからね」

 とても今のメルディが手を出せる金額ではない。
 アルカ布が千年後も作られていると知って、メルディはすぐにお得意のネットで検索をしたのだ。出て来たのは、とんでもない金額のアルカ布。しかもネットに掲載されている写真だけでは本物かどうか確認することができない。

(ローブを作るなら3mはいるし……三百万エルは現実的じゃないな)

 もちろん、今のメルディは自分の希少性をそれなりに理解しているので、アンティーク店以外の仕事をすればもしかしたら大金を稼ぐことができるかもしれないが、セフィラーノから聞いた話や、メルディの元来の気質的に目立つようなことをする気にはならなかった。

(師匠の介入で穏やかな生活なんてあっという間に吹っ飛んじゃうんだから、常日頃そういう生活を心がけてなきゃ)

 だから、今の生活に幸せを感じている彼女のやることは決まった。

「……作るかぁ」

 しみじみと、ため息をつくようにメルディは言葉を吐き出した。まだ少々1m百万エルの生地への未練を残しつつ、同時に覚悟を決めた声。

「アハハ! 作れるといいですけどねぇ。この布を作った錬金術師ももう百年以上前に亡くなってますし、世界でもおそらくこれが最後のアルカ布だって言われてるんですよ」

 彼女が冗談を言っていると思っているロチェットに、ユーリもエリオも何とも言えない笑顔を向けていた。

「そうなんですか……」

 やっぱり、とメルディはちょっと残念そうだ。どの道、今作っている魔法使いがいるとしたら、それはセフィラーノの弟子なので、身構えることは間違いないのだが……。

「ええ。すでに魔法使い達には特に必要ないようです。元々、非魔法使いに恩恵があるものではないですし」 

 それはその通りなのだ。魔法使いのローブは突然のから身を守り、自身の魔力が暴発するのを抑える効力がある。魔法の研究中に魔力を過剰に放出すると事故に繋がることがあるので、大概の魔法使いは身にまとっていた。非魔法使いが身に着けても、ただの温かい上着に過ぎない。

(現代の魔法使い達は皆自分で作ってるのかな? イザベルさんも?)

 なんとなくイメージできない。

「よし! そうしたら、染色に適した布を買いたいんですが!」

 気を取り直したようにメルディの声が明るくなる。

(千年後じゃあ、生地自体はより取り見取りなのはいいわね!!)

 千年前じゃあ、ベースの生地を手に入れるのだって大変だった。その苦労が減っただけ、いくらも楽だと思うことにしたのだ。 
 
 結局、メルディはウールベースのを購入した。軽くて手触りのいい、今から出来上がりが楽しみな生地だった。
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