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第二章 師匠の墓はどこ?
第11話 お買い物
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メルディはアンティーク店を訪れるお客に、しばしば魔法の言葉を使っていた。
『クレジットカードも使えますよ』
このクレジットカードというのはメルディにとっての現代の魔法だ。
「不思議に感じるのは技術よりも支払いの仕組みなんじゃないか?」
魔道具があのまま発展していれば、技術の方はどうにかなっただろ? と、エリオは真面目に答えた。
「そうだね、通信技術なんかは育ってたかも。けど……」
夕食後、メルディは目の前のノートパソコンに視線を移す。
結局、魔法が衰退した後も人類はしっかりと発展を遂げた。文明は育っていった。
(魔法がなくったって全然大丈夫なんだもんねぇ)
この手の話をフォリア・アンティーク店の面々にすると、ちょっぴりしんみりとした空気になってしまうので、メルディは意図的に避けていた。気遣わしげな微笑みに慣れていないのだ。
「クレジットカード……自分が持つのはちょっと怖いかも。というか借金してるみたいで不安になっちゃう!」
仕組みとして別物なのは理解しているが、大金を前借りするという状況が、想像するだけで落ち着かないのだ。
「あ! そっか! マグヌスが……!」
ユーリはこの話題に食いついた。マグヌスが金銭に執着がなかったという説はメルディによって裏付けられている。
「高利貸しがねぇ~師匠の経済状況のこと、よく調べてて……師匠が約束は守るってことも……で、師匠が開発した錬金薬が売れ始めた途端、借りた倍以上の金額を返せって強面引き連れて屋敷に乗り込んできて……」
思い出すだけでメルディは疲れてしまうが——なんせ最後に尻拭いしたのは彼女なのだ——ユーリのワクワクとした表情に応えるために話を続けた。
「話が違う!! って、師匠が激怒して大暴れしたのよ。貸し付けた時の契約書も改竄されてるって言ってね」
「大暴れってどんな!?」
暴挙の詳細を知りたがったのはもちろんユーリだ。
「屋敷に乗り込んで来たやつら全員の服を、ぜーーーんぶ消し去って追い出した後で、逃げ回ってるそいつらめがけて雷を落としたの」
「文字通り?」
あまりの内容にユーリの顔がキョトンとしている。
「文字通り」
メルディは無表情で答えた。
実際マグヌスは、雷が直接当たらないようにしてはいたが、逃げ回っている側からすると十分な恐怖だっただろう。
「不幸中の幸いというか……あとから書き足した痕跡があったんだよね。インクの成分が違うって、領主様直属の錬金術師が証明してくれて」
晴れた空に雷鳴が轟けば、この街では誰もがまずマグヌスの顔が浮かぶ。あっという間に憲兵が駆けつけてきた。
『またお前か!』
と。そうしてこの争いは領主が早急に解決に動いた。
というより、高利貸しもまずい相手に手を出したとすぐにわかったのか、返済不要ということになり、同時に領主からは魔法使いに金を貸し付ける場合は、その契約書を領主へ提出することが義務づけられた。
「すごい世界だなぁ」
魔法の存在した時代を思ってユーリはうっとりとした瞳になっている。
「そう? 私は今の世界も十分すぎるほどすごいと思うよ!」
いつでもどこでも、それこそ夜でも欲しい商品が買えるのだ。インターネットがあれば。
「デビットカードを考えた人とは気が合いそうだわ!」
「たしかにな」
得意げに届いたばかりのカードを見せびらかすメルディに、ふっとエリオが微笑んだ。
メルディは今から、人生初! インターネットショッピングを行うのだ。住所もあり、役所に行ったことにより身分証も手にしており、あっさりと銀行口座を開くことができ、さらにデビットカードにまで手に入れていた。
「ニュクスニアの精油がこんな……こんなに簡単に手に入るなんてっ!!!」
まさにユーリと同じような熱狂的な瞳をしたメルディがパソコン画面の向こうを見つめていた。
ニュクスニアという花の精油がネットショップで5ml、5000エルで販売されている。
「5ミリで!? 高くないか?」
画面を覗き込んだエリオがコーヒーを啜りながら目を大きくしていた。
「高い!!? 破格だよ!!! これ、育てるのめちゃくちゃ大変だし、抽出も難しくって……!!」
メルディは下調べもバッチリ。この花が千年前からほとんどと言っていいほど品種改良されておらず、その代わりに生産技術が上がっており、千年後の世界でも重宝されているということを。
「錬金術じゃないけど、今でも自分で化粧水を作ったり、薬の成分としても使われることがあるんだって!」
これはメルディの頬を思わずあげてしまう情報だ。ニュクスニアからは鎮静効果のある精油を取ることができた。錬金術の方がよりその効能を発揮できるが、そうでなくとも十分なことが後の世で判明したのだ。よって千年もの間、この花は大切に守られてきた。品種改良されなかったのも、そうすると効能が得られなくなるからなのだ。
「これがローブを作る材料の一つなんだ?」
ユーリも同じく画面を覗き込む。すでにカートにはニュクスニアの精油が。
「そう! この深い青色……品質もよさそう~!!」
千年前は貴重すぎて売ってくれる魔法使いなんていなかった。どう足掻いても自分で作るしかなく、何度失敗したことか。
(正確に量を測ったり、正確に温度調整したり、夜通し正確に時間を測る必要がないなんて!!)
温度も! 湿度も!! ああこんな楽をしてもいいのだろうかと罪悪感すら湧いてくるが、同時にメルディは笑いが止まらない。とはいえ、他の材料の入手難易度を考えると、プラスマイナスで考えるとマイナスにはなるのだが、そこにはまだ目を瞑っている。
「あとは何がいるの?」
「エオリウスの枝葉とアラクネの糸と銀の器!」
その内、銀の器はすでに手元にあった。フォリア・アンティークスのバックヤードに大きなものがあり、店主のダルクが快く貸し出してくれたのだ。
『店員特権! 福利厚生!』
と言って。大きさもあり奥の棚にしまい込まれていたものだが、
「銀の純度も高くって、あんないい道具使えるなら良いものができそう!」
メルディはワクワクしていた。
「エオリウスの木って?」
「意外とあっちこっちに生えてるよ。この辺だと隣街の方にあったなぁ」
エリオの疑問にはユーリが答えた。エオリウスの木は魔法使い関連でわりと出てくる植物のため、彼の得意分野なのだ。
「これもネットで買えるんだけど、寒い時期の枝葉がいるからもうちょっと気温が低くなったら採取に行くわ!」
問題は最後の素材。
「検索したら、アラクネはまだいるみたいだけど……野生はいないのよね?」
「野生にいたら大変だよぉ……」
ユーリのから空笑いが聞こえた。
アラクネ——蜘蛛型魔獣は現代でも研究施設や魔獣保護区域で生息しているが、一般人が触れ合うことはない。
(ちょっと小さくなった?)
インターネット上に掲載されている画像を見て、メルディは少しだけ首を傾ける。ニュクスニアとは違って、アラクネは千年の間に少々変化があったようだった。
「さっきイザベルさんに相談してみたんだ! メールで」
「よく連絡できんな」
エリオがギョッとしている。彼はあの場にいなかったが、話を聞いただけでイザベルが相手をするのに一苦労しそうな魔法使いだと察しがついていた。
「まあ出来上がったアルカ布を購入するよりは手に入りやすいんじゃないかな。アラクネ、数はいるみたいだし」
絶滅していたらどうにもならなかったが、存在するならどうにかなりそうだと、インターネットの前でメルディは前向きだ。
「よし! そしたらポチっちゃいます!!」
メルディがポチポチとデビットカードの番号を打ち込んだ。そうしてドキドキしながら決算ボタンをカチリ。
「わぁ~……買っちゃった!」
こうしてメルディの初めてのインターネットショッピングは無事完了した。
『クレジットカードも使えますよ』
このクレジットカードというのはメルディにとっての現代の魔法だ。
「不思議に感じるのは技術よりも支払いの仕組みなんじゃないか?」
魔道具があのまま発展していれば、技術の方はどうにかなっただろ? と、エリオは真面目に答えた。
「そうだね、通信技術なんかは育ってたかも。けど……」
夕食後、メルディは目の前のノートパソコンに視線を移す。
結局、魔法が衰退した後も人類はしっかりと発展を遂げた。文明は育っていった。
(魔法がなくったって全然大丈夫なんだもんねぇ)
この手の話をフォリア・アンティーク店の面々にすると、ちょっぴりしんみりとした空気になってしまうので、メルディは意図的に避けていた。気遣わしげな微笑みに慣れていないのだ。
「クレジットカード……自分が持つのはちょっと怖いかも。というか借金してるみたいで不安になっちゃう!」
仕組みとして別物なのは理解しているが、大金を前借りするという状況が、想像するだけで落ち着かないのだ。
「あ! そっか! マグヌスが……!」
ユーリはこの話題に食いついた。マグヌスが金銭に執着がなかったという説はメルディによって裏付けられている。
「高利貸しがねぇ~師匠の経済状況のこと、よく調べてて……師匠が約束は守るってことも……で、師匠が開発した錬金薬が売れ始めた途端、借りた倍以上の金額を返せって強面引き連れて屋敷に乗り込んできて……」
思い出すだけでメルディは疲れてしまうが——なんせ最後に尻拭いしたのは彼女なのだ——ユーリのワクワクとした表情に応えるために話を続けた。
「話が違う!! って、師匠が激怒して大暴れしたのよ。貸し付けた時の契約書も改竄されてるって言ってね」
「大暴れってどんな!?」
暴挙の詳細を知りたがったのはもちろんユーリだ。
「屋敷に乗り込んで来たやつら全員の服を、ぜーーーんぶ消し去って追い出した後で、逃げ回ってるそいつらめがけて雷を落としたの」
「文字通り?」
あまりの内容にユーリの顔がキョトンとしている。
「文字通り」
メルディは無表情で答えた。
実際マグヌスは、雷が直接当たらないようにしてはいたが、逃げ回っている側からすると十分な恐怖だっただろう。
「不幸中の幸いというか……あとから書き足した痕跡があったんだよね。インクの成分が違うって、領主様直属の錬金術師が証明してくれて」
晴れた空に雷鳴が轟けば、この街では誰もがまずマグヌスの顔が浮かぶ。あっという間に憲兵が駆けつけてきた。
『またお前か!』
と。そうしてこの争いは領主が早急に解決に動いた。
というより、高利貸しもまずい相手に手を出したとすぐにわかったのか、返済不要ということになり、同時に領主からは魔法使いに金を貸し付ける場合は、その契約書を領主へ提出することが義務づけられた。
「すごい世界だなぁ」
魔法の存在した時代を思ってユーリはうっとりとした瞳になっている。
「そう? 私は今の世界も十分すぎるほどすごいと思うよ!」
いつでもどこでも、それこそ夜でも欲しい商品が買えるのだ。インターネットがあれば。
「デビットカードを考えた人とは気が合いそうだわ!」
「たしかにな」
得意げに届いたばかりのカードを見せびらかすメルディに、ふっとエリオが微笑んだ。
メルディは今から、人生初! インターネットショッピングを行うのだ。住所もあり、役所に行ったことにより身分証も手にしており、あっさりと銀行口座を開くことができ、さらにデビットカードにまで手に入れていた。
「ニュクスニアの精油がこんな……こんなに簡単に手に入るなんてっ!!!」
まさにユーリと同じような熱狂的な瞳をしたメルディがパソコン画面の向こうを見つめていた。
ニュクスニアという花の精油がネットショップで5ml、5000エルで販売されている。
「5ミリで!? 高くないか?」
画面を覗き込んだエリオがコーヒーを啜りながら目を大きくしていた。
「高い!!? 破格だよ!!! これ、育てるのめちゃくちゃ大変だし、抽出も難しくって……!!」
メルディは下調べもバッチリ。この花が千年前からほとんどと言っていいほど品種改良されておらず、その代わりに生産技術が上がっており、千年後の世界でも重宝されているということを。
「錬金術じゃないけど、今でも自分で化粧水を作ったり、薬の成分としても使われることがあるんだって!」
これはメルディの頬を思わずあげてしまう情報だ。ニュクスニアからは鎮静効果のある精油を取ることができた。錬金術の方がよりその効能を発揮できるが、そうでなくとも十分なことが後の世で判明したのだ。よって千年もの間、この花は大切に守られてきた。品種改良されなかったのも、そうすると効能が得られなくなるからなのだ。
「これがローブを作る材料の一つなんだ?」
ユーリも同じく画面を覗き込む。すでにカートにはニュクスニアの精油が。
「そう! この深い青色……品質もよさそう~!!」
千年前は貴重すぎて売ってくれる魔法使いなんていなかった。どう足掻いても自分で作るしかなく、何度失敗したことか。
(正確に量を測ったり、正確に温度調整したり、夜通し正確に時間を測る必要がないなんて!!)
温度も! 湿度も!! ああこんな楽をしてもいいのだろうかと罪悪感すら湧いてくるが、同時にメルディは笑いが止まらない。とはいえ、他の材料の入手難易度を考えると、プラスマイナスで考えるとマイナスにはなるのだが、そこにはまだ目を瞑っている。
「あとは何がいるの?」
「エオリウスの枝葉とアラクネの糸と銀の器!」
その内、銀の器はすでに手元にあった。フォリア・アンティークスのバックヤードに大きなものがあり、店主のダルクが快く貸し出してくれたのだ。
『店員特権! 福利厚生!』
と言って。大きさもあり奥の棚にしまい込まれていたものだが、
「銀の純度も高くって、あんないい道具使えるなら良いものができそう!」
メルディはワクワクしていた。
「エオリウスの木って?」
「意外とあっちこっちに生えてるよ。この辺だと隣街の方にあったなぁ」
エリオの疑問にはユーリが答えた。エオリウスの木は魔法使い関連でわりと出てくる植物のため、彼の得意分野なのだ。
「これもネットで買えるんだけど、寒い時期の枝葉がいるからもうちょっと気温が低くなったら採取に行くわ!」
問題は最後の素材。
「検索したら、アラクネはまだいるみたいだけど……野生はいないのよね?」
「野生にいたら大変だよぉ……」
ユーリのから空笑いが聞こえた。
アラクネ——蜘蛛型魔獣は現代でも研究施設や魔獣保護区域で生息しているが、一般人が触れ合うことはない。
(ちょっと小さくなった?)
インターネット上に掲載されている画像を見て、メルディは少しだけ首を傾ける。ニュクスニアとは違って、アラクネは千年の間に少々変化があったようだった。
「さっきイザベルさんに相談してみたんだ! メールで」
「よく連絡できんな」
エリオがギョッとしている。彼はあの場にいなかったが、話を聞いただけでイザベルが相手をするのに一苦労しそうな魔法使いだと察しがついていた。
「まあ出来上がったアルカ布を購入するよりは手に入りやすいんじゃないかな。アラクネ、数はいるみたいだし」
絶滅していたらどうにもならなかったが、存在するならどうにかなりそうだと、インターネットの前でメルディは前向きだ。
「よし! そしたらポチっちゃいます!!」
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