ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-50

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 推しの作家を前にした、勇者組の女子達は有頂天。
 
 男子に内緒の「女子の秘め事」、「女子の嗜み」と言う発想は何処へやら。

 熱烈に握手を求めたり、手持ちの愛読書にサインを求めたりと、ラディッシュとターナップ、そして状況が理解出来ないチィックウィードを置き去りに。
 そんな中、

『何をそんなに浮かれてるさぁねぇ~』

 呆れ口調は、イリス。
 本音は、推しの作家ユリユリであるリブロンを前に、

(アタシもぉユリユリ先生のサインが欲しいさぁねぇーーー!)

 大絶叫していたが、斜に構えた自らのキャラを意識するあまり、
「もぅ少し大人になったらどぅさねぇ~」
 ヤレヤレと言った口振りで、
「チィ坊を見ぃなやぁ、呆れてるさぁねぇ~」
 半笑いを浮かべつつ、心では泣いていた。

 そんな彼女を、
「「「「・・・・・・」」」」
 見透かしたジト目で見据えるドロプウォート、パストリス、ニプルウォート、カドウィード。
 見据えられ、
(!?)
 内心でギクリとするイリス。

 ユリユリ先生の作品の「隠れ大ファン」でありながらの背信行為に、バツが悪そうに眼を泳がせ、その後ろめたさを誤魔化す様に、
「なっ、何さぁねぇアンタ達ぃその眼はぁ?! いっ、言いたい事があるならぁハッキリとぉ、」
 強がりを多分に交え「言ってみろ」と言おうとすると、女子四人は平静に、ともすれば冷淡に、

「「「「服の下に隠してるのは何(なんですのぉ・なのでぇす・なのさぁ・でありんすぅ)?」」」」
『のぉ!?』

 あからさまな狼狽えを見せるイリス。
 隠していたのは仲間たちから「胸やけしそう」と揶揄さ、隠れてコッソリ読み耽っていた、

≪ユリユリ先生の大作≫

(まっ、まさかコイツ等ぁ気付いてるっぅ?!)

 反射的に胸元を押さえ、
『なっ、何を言ってるのさぁねぇ、アンタ達ぃぁ! こっ、ここには何もぉ、』
 無いと言い張るより先、キラリと目を光らせたチィックウィードが彼女の背後から、

「いただきなぉ♪」

 光の如き素早さで彼女の胸元から本を抜き取り、

『ちっ、チィ坊ぉお! 何するさねぇ!』

 慌てて取り戻そうとした手を、彼女はスルリとかいくぐり、
「ここに「ユリユリ」ってぇ、かいあるなぉ♪」
 皆に見えるよう本を高々掲げて、表紙に書かれた作家名を指差した。

『のぉはっうぅ!!!』

 羞恥の赤面顔でフリーズするイリスと、
「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」
 沈黙する大人たち。
 同情するに値する「彼女の羞恥」を慮(おもんぱか)り。

 意図せず秘め事を暴露された時の「恥ずかしさ」と言うモノを、イヤと言うほど理解出来たから。
「…………」
 もはや言い逃れも出来ない様子で、石化したかの如く固まるイリス。

 そんな彼女の様子を気マズそうに窺う大人たちの姿から、流石のチィックウィードもイタズラで済まされない行為であったと悟り、
「え、えぇ~と……なぉ……」
 バツが悪そうに視線を泳がせていると、固まっていたイリスがやおら静かに歩き出し、イタズラっ子の手から「密かな愛読書」をゆっくり取り返すと、リブロンの下に静々と歩み寄り、
「さ……サイン……書いてもらってイイ……さぁね……」
「は……はい……」
 重苦しい空気の中での、短い会話の数分後、

『いやぁ~ヤッパリ素直が一番さぁねぇ~♪』

 ヤケクソと思えなく無い上機嫌の笑顔で、書いてもらったサインを見つめるイリス。
 しかし、それから更にしばし後、

「はぁ~~~」

 彼女は満面の笑顔から一転した、暗く深い、大きな、それはとても大きな球息を吐いていた。
 茜色に染まった小川の土手に一人座り、落ち込んだ表情で佇みながら。
 有頂天まで上り詰めた彼女が、何故に再びどん底へ落ちたのか。

 その理由はサインをもらった後に遡る。
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