奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

文字の大きさ
5 / 88

続章_3

しおりを挟む
 屋上に上がって来たのは、女子生徒が一人と、男子生徒が一人。
 女子生徒は屋上に上がるなり、
「こんな所に呼び出して何? アンタが告白ぅ? 超ウケるんだけどぉ」
 からかう様な声であるが、サクラの目に見える色は違う感情を物語っていた。そしてサクラは、この色の持ち主を知っている。
(焦りの色に混じって、黒い色に、濁った赤……あの時の声の人だ……)
 よくよく見れば女子生徒は、父親が衆議院議員である事を鼻にかけていた生徒であり、男子生徒の方はサクラと同じく、他の生徒と話している所を見た事がないクラスメイトであった。自己紹介の時にも頭を下げるだけで、一言も発しなかった生徒である。
(あの人は……何色だっけ……)
 サクラにとって他者とは、未だ「何色の人」と言う存在であった。
「いい加減に止めろ」
 初めて聞く男子生徒の声。
 その声は静かであったが、
(スゴイ……真っ赤……本気で怒ってる……)
 サクラには怒髪冠を衝くが如く激高している様に見える男子生徒であったが、女子生徒には単に物静かに語っている様にしか見えずに調子づき、
「はぁ? ナニ言ってるのぉ? 訳分かんなくて超ウケるんだけどぉ」
 笑って何かを誤魔化す女子生徒。
 その色は負の感情の集合体の様に、様々なよどんだ色が交わらず、うねりを上げ始め、
(き、気持ち悪い……)
 サクラは思わず口を手で覆い、屈み込んだ。
 しかしうねりが見えない男子生徒は、うねりを物ともせず女子生徒に歩み寄り、
「ちょ! 変な事したら承知しないわよ! パパは衆議院の!」
 後退る女子生徒の横を通り過ぎ様、何かを小声で耳打ち、女子生徒はおののいた表情で立ち尽くし、
「忠告はした」
 男子生徒は、そのまま階下へ降りて行った。
 直感的に、「紛失事件」の首謀者が彼女であると悟るサクラ。
(あの人が取り返してくれていたの?)
 お礼を言った方が良いのかとも思うが、色による「カテゴリ分け」が出来ていない人は、その人の「人となり」が分からないので怖くて話が出来ず、
(無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィーーーッ! それに……)
 教室内に戻ったサクラは自席でうつむき、チラリと教室の後ろを見る。
 男子生徒は窓際の一番後ろの席で机に肘を立てて頬杖つき、無表情で外を眺めていた。
 サッと前を向くサクラ。
(……なんか違う意味で、アノ人怖い……)
 寡黙な男子生徒の持つピリピリとした独特の空気に、サクラは得も言われぬ恐怖を感じた。
 そして、その日を境に物の紛失はピタリと止んだ。
 一方、女子生徒は言うと、友達と言うより手下をはべらせていた女王様的リア充感は影を潜め、常に何かに怯えた様になり、次第に学校は休みがちになり、ついには不登校、そして一ヶ月経たずに転校して行った。
 転校して明らかになる、彼女主導で行われていた陰湿なイジメの数々。
 彼女は自分では手を下さず、父親の権威を学校に持ち込み、他の生徒達にいじめを強要していたのであった。
 しかし変わり果て、クラスを去った彼女の残した一言が、生徒達を目に見えない何かで縛りつけた。
『アイツ(男子生徒)に関わるな』
 皮肉にも彼女の言葉を証明するかの様に、彼女が転向して程なく、彼女の父親は贈収賄で職を辞し、逮捕、検挙されるに到り、この一件で男子生徒とクラスメイト達の間にあった溝は、より強固な壁となり、近づく生徒さえいなくなった。
 虐げられるだけの人生を送って来たサクラでさえ、救いの手を差し伸べてくれた男子生徒を「何とかしてあげたい」と言う気持ちは抱きつつ、「目立ちたくない、平穏無事に卒業したい」と言う気持ちが勝り、他のクラスメイトと同様、見て見ぬフリを送る毎日を過ごした。
 そんなある日、異変は突如として舞い降りた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...