奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_61

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 オレンジ色に染まる帰り道を、足早に歩くヒカリとサクラ。
 教室を出るのが少し遅れ、屋敷のみんなと約束していた準備開始時間に、間に合わなそうだったからである。
 しかし二人とも表情は明るく、
「ツバサちゃんてば、明日の授業大丈夫なのかなぁ?」
「夜更かしてゲームして、遅刻しないと良いけどぉ」
 授業中に居眠りするツバサの姿を想像し、クスクス笑い合う二人。

 屋敷に着くと、既にかなえ達が部屋の飾りつけを始めていた。
「ただいまぁ、みんな!」
「遅くなってすみませぇん。只今帰りましたぁ~」
 するとかなえ達は作業の手を止め、
「「「お帰りなさいませ、お嬢様方」」」
 笑顔で頭を下げる、かなえ、たまえ、ゆめ、メイド三人にサクラは慌てて、
「な、何度も言ってますけどぉ! 私は皆さんと同じ立場なので、そんなにかしこまらないで下さぁい!」
 恥ずかしそうに身振り手振りすると、かなえとたまえは笑みを浮かべ、
「制服を着ている間は、ヒカリ様のご学友。同じではありませんよ」
「そぅ~だよぉ~サクラちゃんはぁ~サクラさまでぇ~~~あれぇ~?」
「メイド服に着替えれば良いんスよぉ!」
 ゆめがニカッと笑い親指を立てて見せると、ヒカリもサクラの肩をポンと叩き、
「ボク達も着替えて早く手伝おうよ!」
「う、うん!」
 サクラは屈託ない笑顔を返した。

 夕刻、六時を少し過ぎた東海林邸―――
 伊那路の運転する車で門をくぐる樹神。
 その表情は訝しげ。
(まだ仕事が残っているのだがなぁ……)
 訳が分からないうちに、伊那路に無理矢理仕事を切り上げさせられ、帰って来たのである。
 いつも通り玄関前で停車し、降車するが、メイド達の出迎えが無く、屋敷は灯りが消え、物音一つしない。
(な、なんだぁ?)
 平時との違いを疑問に思いつつ引き戸を開け、
「ただいまぁ」
 声を発した瞬間、灯りが煌々と点けられ目を細めると、
 パァン! パパパァーン!
「「「「「「「「「「おめでとうございまぁす!」」」」」」」」」」
 鳴り響くクラッカーの音と、祝福の声。
「へ?」
 何事か理解出来ない樹神であったが、料理人達が掲げる横断幕を見て得心が行った。
 『樹神様 お誕生日おめでとうございます!』
「そうか、そう言えば今日だったかぁ!」
 やっと笑顔を見せると、
「「サプライズ成功ぉ!」」
 ヒカリとサクラは満面の笑顔でハイタッチ。
 かなえは静々と樹神の下へ歩み寄り、
「このパーティーは、ヒカリ様とサクラ様の提案による物でございます」
「な、なんとぉ!」
 おののく樹神は感慨深げに天井を見上げ、
「そうか……そうか我が娘達よ……ありがとぉう!」
 感極まり、その目には涙が浮かんでいた。
 あまりの感動ぶりに、少々困惑した笑顔を向け合うヒカリとサクラ。
 一行は、パーティー会場である居間へと移動した。
 和気あいあい、明るい笑い声と楽し気な会話で溢れる東海林邸の居間。
 サクラはそんな東海林邸の人々を笑顔で見つめ、
(これが本当の家族……なんだなぁ……)
 自身の心まで温まる気がしていると、隣に座るヒカリがからかう様な笑みを浮かべ、
「黙っちゃってどうしたんだい? サクラちゃんも家族の一員なんだから、今更人見知りなんて無いでしょ?」
 ヒカリの声が聞こえたのか、屋敷の従業員たちは振り向き、みな、各々の笑顔をサクラに送った。
(そうか……私も家族なんだ……)
 嬉しさのあまり涙が滲む。
「ど、どうしたんだいサクラちゃん!?」
「ご、ごめんなさい。つい嬉しくてぇ」
 滲んだ涙を笑顔で拭った。
 サクラには両親とさえ食事をした記憶がない。
 物心ついた頃から屋敷の奥の隔離部屋で寝起きをし、食事もその部屋で取り、両親と同じ時間を過ごせたのは、屋敷に取引先などがやって来た時だけ。
 両親は交渉を有利に進める為、サクラを同席させ、相手の腹の内を探らせていたのである。
 その様な親子と呼ぶに値しない関係ではあったが、当時のサクラはそれでも良いと思っていた。
 それが自分の存在していられる理由であるならと。
「もぅ、サクラちゃんてば感動しぃなんだからぁ~」
 イタズラっぽい笑みを浮かべ、サクラにちょっかいを出すヒカリに、
「えぇ~そんな事ないよぉ~」
 ちょっかいを返し、じゃれあうヒカリとサクラ。
 そんな二人の愛娘を、樹神が武骨な笑顔で見つめていると、
「樹神様……」
 ビールジョッキを手に、顔をほんのりピンク色に染めたかなえがジッと樹神を見据え、
「な、なんだ?」
 思わず後退ると、
「少女二人を見てほくそ笑む……キモォ」
「ほ、ほくぅ!? なにおぅ!? 自分の可愛い娘達を見て微笑んで何が悪いか! ね、ねぇ伊那路さん!」
「それはでございますねぇ、樹神様……」
「?」
「父親がどうのではなく、『樹神様』が、キモォ」
 赤ら顔して女子の口真似をする伊那路に、
「ひどい!」
 樹神がなよったリアクションを見せると、笑いが起こった。
 明るい声に包まれる中、照れ臭そうにプレゼントを渡すヒカリとサクラ。
 酒の影響もあり、感動のあまり、大泣きし始める樹神。
 困惑気味に宥めるサクラと呆れ顔のヒカリ。そして匙を投げるメイド達。
 宴もたけなわとなる東海林邸。
 そこへ一本の電話が鳴る。

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