奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_68

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 数日後―――
 ツバサの個室病室を訪れるハヤテ達。
 人見知りの激しいツバサが、気持ちを落ち着けて治療に専念出来る様にと、彼女の両親が用意した部屋である。
「ツバサちゃ~ん、お見舞いに来たよぉ~」
 ヒカリが扉を開けると、
「どぉ~もでありまぁす!」
 ベッドに横たわるツバサは、いつも通りの明るい笑顔を返し、
「いやぁ~皆様にはご心配を、おかけしてしまいましてぇ~」
 ゲーム欲しさに約束破った挙句に襲撃を受けた事で、ツバサは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ツバサちゃん、痛みはもう無いのかい?」
 努めていつも通りの笑顔で尋ねるヒカリに、ツバサは憂いの無い笑顔のまま、
「いやぁ~正直に言いますとまだ痛いでありますねぇ。ゲームみたいにポーション飲んで回復すると楽なんですけどぉ。でももう全然平気なんでありますぅ。一週間ほどで退院出来るそうですぅ」
 ケラケラと笑って見せたが、サクラはヒカリ達を気遣う「嘘の色」の奥に見え隠れする「恐怖の色」を見逃さなかった。
(違う……)
「先生殿から許可さえいただければ明日からでも学校に行けるくらいでありましてぇ」
(違うよねぇツバサちゃん……)
「ですから皆様方、犯人探しなんて危ない事はしないで下さいねぇ」
(本当に言いたい事は違うよね!)
「ですが退院出来るまでヒマに、」
 笑顔で話しを続けるツバサに耐えかねたサクラが、堪らず話を制しようとした瞬間、
「ツバサァ!」
「!」
 ハヤテが悲痛な表情で話を遮り、ヒカリが優しい笑みをツバサに向け、
「ツバサちゃん、ボク達、友達だろう? 友達の前で無理はしないでおくれよ」
「…………」
 見透かされていて事にハッとし、静かにうつむくツバサ。
(二人ともツバサちゃんが無理してる事に気付いてたんだ……凄いな……私はこのチカラが無かったら気付けなかったと思う……)
 自身の精神的未熟さに、少なからずショックを受けるサクラ。
 表情が見えない程うつむくツバサはポツリ、ポツリと、
「……お三方に……ほんの少し……ワガママを言って……良いでしょうか……」
「何だい、ツバサちゃん?」
「ハヤテ君を……ほんの少しだけ、お借り出来ないでありましょうか……すみません付け込む様で、」
「そんな事ないよ、ツバサちゃん」
 ヒカリは微笑むと、ハヤテとサクラに目配せし、二人が頷くと、
「じゃあハーくん、ボクとサクラちゃんは待合室で待ってるから」
 二人はハヤテと、表情が見えない程うつむいたままのツバサを残して病室を出た。
 静かに閉めた扉の向こうから聞こえて来る、いつも明るかったツバサの、籠もった様なむせび泣く声。
 ハヤテの胸の中で、泣いている様である。
(私は大馬鹿だ……ハヤテくんと帰れるツバサちゃんを、少しでも羨ましいと……)
 サクラが浅はかな思慮を少しでも持った自分に幻滅して下を向くと、胸中を察した気遣いか、またはサクラと同じ気持ちに端を発する自省からか、ヒカリは少し困惑した様な複雑な笑みをサクラに向け、
「待合室に行こうか」
 その声の色も複雑で、とても一言では言い表す事が出来ない色合いをしていた。
「うん……」
 複雑な色の笑みを返すサクラ。
 二人は波立つ思いを胸に、病室の前から離れた。

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