5 / 19
5
しおりを挟む
「ジョーじゃねえか、どうだ、元気にしてっか」
元のバンドメンバーと再会したのは、小河内村へ行く鉄道の切符を買った、すぐのことだった。
「解散したこと、隣のバーのマスターに聞いた」
「陸軍がピリピリでなあ。もう、銀座でジャズは出来ないよ」
「寂しいなあ」
「俺、帝国ホテルのラウンジで演奏してるんだ。一人きりだけどよ、よかったら一緒にやらねえか。たぶん、これきりになるだろうけど、俺はお前のサックス好きだったぜ。それに、あのバンドリーダーの事も好きじゃなかった。お前を干したとき、つい殴ろうと思ったよ。しなかったけど」
「ありがとう」
「な、サックス聴かせてくれよ」
「サックスは売っちゃったよ。今は手風琴やっている。どこでもピアノ弾いているみたいだろ?」
「そうか、残念だ。でも、それでもいいよ。お前、都落ちするんなら、最後に高級ホテルで演奏していけ、な?」
嬉しい言葉だった。
上寺智はその好意に甘えた。
帝国ホテルのラウンジでの演奏は、それは幸運なことであった。
「この楽譜さ」
「ムーンライト・セレナーデだろ。ああ、俺もやりたかったんだ。試しに、弾こう。俺のギターと、お前の手風琴でも、十分らしいものになるよ」
本当のスケール感は、もっと奥深いのだろう。
この日、初めて演奏したムーンライト・セレナーデは、上寺智の心に強く響いた。この曲をあのクラブでやってみたかった。未練だが、それでも帝国ホテルで演奏できただけでも、十分に満喫した。
いい曲だ。
もう二度と、これを演奏することはないのだろう。
「君に幸あれ、ジョー」
旧い仲間はそう云って見送った。
日比谷から歩けば、東京駅はすぐだった。
元のバンドメンバーと再会したのは、小河内村へ行く鉄道の切符を買った、すぐのことだった。
「解散したこと、隣のバーのマスターに聞いた」
「陸軍がピリピリでなあ。もう、銀座でジャズは出来ないよ」
「寂しいなあ」
「俺、帝国ホテルのラウンジで演奏してるんだ。一人きりだけどよ、よかったら一緒にやらねえか。たぶん、これきりになるだろうけど、俺はお前のサックス好きだったぜ。それに、あのバンドリーダーの事も好きじゃなかった。お前を干したとき、つい殴ろうと思ったよ。しなかったけど」
「ありがとう」
「な、サックス聴かせてくれよ」
「サックスは売っちゃったよ。今は手風琴やっている。どこでもピアノ弾いているみたいだろ?」
「そうか、残念だ。でも、それでもいいよ。お前、都落ちするんなら、最後に高級ホテルで演奏していけ、な?」
嬉しい言葉だった。
上寺智はその好意に甘えた。
帝国ホテルのラウンジでの演奏は、それは幸運なことであった。
「この楽譜さ」
「ムーンライト・セレナーデだろ。ああ、俺もやりたかったんだ。試しに、弾こう。俺のギターと、お前の手風琴でも、十分らしいものになるよ」
本当のスケール感は、もっと奥深いのだろう。
この日、初めて演奏したムーンライト・セレナーデは、上寺智の心に強く響いた。この曲をあのクラブでやってみたかった。未練だが、それでも帝国ホテルで演奏できただけでも、十分に満喫した。
いい曲だ。
もう二度と、これを演奏することはないのだろう。
「君に幸あれ、ジョー」
旧い仲間はそう云って見送った。
日比谷から歩けば、東京駅はすぐだった。
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる