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26.失われた記憶

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暫くカフェに滞在した後、私達は街の中央にある広場に来ていた。
中央には大きな噴水がある。

「シンリー、ごめん。少しだけここで待っていてくれないか?」
「どうしたんですか…?」
突然ルカルドにそう言われたので、私は首を横に傾けた。

「以前来た時に注文していた物を受け取って来る。すぐ済むと思うから、すまないけど少しだけここで待ってて…」
「分かりました…」
ルカルドは少し済まなそうな表情で言うと、広場から出て行った。
私は近くにあったベンチに座って待つことにした。



「あの、お姉ちゃん…」
「え…?私…ですか?」
突然声が響き、私が顔を上げると小さい女の子が立っていた。

「これ、さっき一緒に居た人からお姉ちゃんに渡してって言われたの…」
女の子は私にメモが書かれた紙を渡した。

(ルカ様が…?)

「それじゃ、わたし渡したからねっ!」
女の子はそう言うと走ってどこかへと消えて行ってしまった。

私はメモを手に取ると中を確認した。
そこには番地と地図の様なものが書かれていた。

(ここに来いって事なのかな…?だけどルカ様はここで待っててって言ってたけど…)

私は少し不安を感じながらも、メモに書かれた場所へと向かう事にした。



***


地図の通りに歩いて行くと、裏道の方に入って行った。
辺りは少し薄暗く、人気も殆どない場所だったが暫く歩いて行くと先の方に黒いローブを付けた明らかに怪しそうな人達がいた。

(なんか怖いな…。やっぱり戻ろう…)

私はなんだか怖くなり引き返そうとして、後ろを振り向くとすぐ後ろに前方にいた者と同じ服装をした男が立っていた。

気配を全く感じなかった。
恐らく気配を消す魔法でも使っていたのだろうか。

「あんたには悪いけど、捕えさせてもらう」
私は怖くて声を上げるのも忘れていた。


男は私の顔の前に掌を広げると、魔法を使った。
すると私の意識はゆっくりと薄れて行った。



*****



(ここは…どこ…?)


「はぁっ…はぁっ…」
息を切らしながら、風を切る様に走っていた。

辺りは暗くて、明かりは空に浮かぶ月明りだけだった。
そしてここは…森の中…なのだろうか。

暫く行った所で立ち止まると茂みの中に身を隠した。
粗くなった息をゆっくりと整え、辺りを警戒していた。

「くそっ、どこに行きやがった!?」
「すばしっこいガキだな。さっさと捕らえろ!このまま逃したんじゃ、■■ザー様に俺達全員消されるぞ?」

「どうせ6歳のガキの足じゃ遠くまでは行けないはずだ。この辺に必ずいる。死ぬ気で見つけろ…!」
「わかってるよ、そんなことっ!!」
苛立った声で話す数人の男達の声がどこからか響いて来る。
森の中なので声が反響している様だった。


(これは…夢…?……違う、私この場面知ってる気がする…)


「もっと…遠くに逃げなきゃ…」
どこかから聞こえてくる声に不安を感じて茂みから出ると、再び道を進み始めた。


(だめ…そっちに行ったら…)


「くくっ…見つけたぞ…」
「……っ…!!」
進行方向の前に男が現れ、道を塞いだ。
慌てて後ろを振り向きそちらに向かおうとしたら、茂みの中から二人の男が現れ逃げ道を奪われてしまった。

「観念しろ。もう逃げられんぞ?」
「…わ、わたしが誰だか分かってこんなことしているの!わたしはっ…」
絶体絶命な状況に陥り、額からは嫌な汗が流れていくのを感じる。
誰が聞いても分かる程、声も大分震えていた。

「ああ、知ってるよ。知ってて誘拐を依頼されたんだからな」
「誘拐じゃなくて始末の間違いだろ?」
男達は可笑しそうに笑っていた。

「くくっ…お前を殺せば俺達には一生遊んで暮らせるだけの大金が入って来るからなっ…」
「恨むなら俺達じゃなく、依頼した■■ザー様を恨んでくれ…」

(名前の所だけ聞き取れない…。それに…依頼って…なに?)

「わたしを殺したら貴方達死罪よっ!!私のお父様が絶対に許す訳が無いわっ…!」
「お父様ね…、元はと言えば…そのお前のお父様の所為で■■ザー様を怒らせて、こんな事になっているんだけどな…?」

「お喋りはこの辺でもういいだろ?大人しくしていれば一瞬であの世に送ってやる」
その時、私は風魔法を使い土埃つちぼこりを舞い上げた。
その土埃が運よく男の目の中に入ってくれたおかげで隙を作ることが出来、その瞬間走り抜けた。

「くそっ!!なにしやがる…!!お前等、さっさと追いかけろ」
「しぶといガキだなっ!!」

再び全速力で森の中を駆け抜けると、先は崖で行き止まりになってしまう。
夜なので崖の高さがどれくらいあるのかは分からなかったが、深そうだった。
落ちれば恐らく死ぬだろう。

「残念だったな…?そろそろ観念しな」
「ここから落ちて死ぬか、俺達に殺されるか…どっちがいい?」

「どっちも嫌っ…!来ないでっ…」
男達はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながらゆっくりと私を追い詰めてくる。
私は少しずつ後ずさりしていくが、もう後が無い。

「……っ…!?」
次の瞬間、バランスを崩し後ろにふわっとした感覚を感じると共に下に急降下した。


(……っ…)

私はこの時死んだと思った。
落ちる瞬間に、何か優しい光に包まれた。
恐らく衝撃を和らげる何かだったんだと思う。

数日後、私は全ての記憶を失くし、全身傷だらけの状態で倒れている所を今の両親に助けられた…。


今見たのは、間違いなく私の失われた過去の一部だ。
私が記憶を失うきっかけになった場面だった。

私は記憶を思い出した。
そして計画的に何者かの指示で誘拐されたことも…。


私の本来の名前はラヴィニア・イル・オルヴィス
今は亡き、オルヴィス帝国の第一皇女だった。
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