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33.解決

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翌日、私はいつもの様に教室に来ていた。
だけど普段と違う事が一つだけあった。

制服の色が白に変わった事だ。
その事により、廊下を歩くだけで自然と注目が集まってしまう。
私は周りからの視線を感じては、そわそわとしながら教室まで急いだ。

教室に着くと、すでに注目を集めている人物がいた。
私と同じ白色の制服を身に着けているルカルドだった。

ルカルドの周りには令嬢達が集まっていて、何やら仲良く話している様だ。
そんな場面を眺めていると、ルカルドと目が合った。

「シンリー…!」
ルカルドは私に気付くと、名前を呼んで私の方に近づいて来た。

「ルカ様、おはようございます…」
「おはよう、シンリー。制服すごく似合っているな…やっぱりシンリーには黒より白の方が似合うな…」
私が恥ずかしそうに挨拶をすると、ルカルドは私の新しくなった制服を見てさらりと呟いた。
突然そんなことを言われてしまうと恥ずかしさが込み上げ、顔がどんどん熱くなっていく。

「ルカ様も似合ってます…!ルカ様は何を着ても素敵ですっ…」
「そうか、ありがとう。シンリーに言ってもらえると一番嬉しいよ」
私が慌てて答えると、ルカルドは優しく微笑んだ。
そんな姿に思わず見惚れてしまいそうになる。

「シンリー、その髪飾り付けてくれたんだな。やっぱり似合うな…すごく可愛いよ」
「…っ…、ありがとうございます…」
昨日ルカルドからプレゼントされた琥珀色の髪飾りを私は付けていた。
私にとってこれは宝物だ。



そんな時だった。
何やら騒がしい声が聞こえてくると思い、視線を入口の方に向けた。

そこにはロレッタと、その後を追うように着いて来るメアリーとシルヴィアの姿が視界に飛び込んで来た。
ロレッタは私と視線が合うと、迷うことなく私の方へと近づいて来た。

(…どうして……ここに…)

私はもうロレッタには何もされることは無いだろうと安心しきっていた。
だから目の前に再びロレッタが現れて戸惑いと恐怖から、足が竦んで動けなくなっていた。

近くにいたルカルドもそれに気付くと、私を隠す様にして前に出た。

「……シンリー、大丈夫だ。もうロレッタには何もさせない…」
ルカルドは、そう私に聞こえる程の小声で呟いた。


ロレッタはルカルドの前で立ち止まった。

「良く俺達の前に顔を出せたな…」
ルカルドは軽蔑しきった顔でロレッタを見つめた。
そんな顔で見られているロレッタは唇を噛み締め、苦しそうな表情を浮かべていた。

「ロレッタ様…もうこんなことやめましょう…」
「うるさいわね、メアリー…貴女は黙っていて…」
後ろにいるメアリーは焦った顔でロレッタを説得しようとするも、当のロレッタは聞く耳はなさそうだった。
そして悲痛な顔をしてルカルドを見つめた。

「ルカルド様…これは全て誤解です…っ…!そう…全部あの女に騙されているんです!」
ロレッタはルカルドの後ろにいる私と視線が合うと、鋭い視線で私を睨みつけた。
突き刺さるような冷たい視線を向けられて私はゾクッと鳥肌を感じた。

「シンリーを侮辱することは俺が許さない…。もっと刑を重くして欲しいのか?」
「……っ…!私は…真実を述べているだけです…。それに私はずっとルカルド様だけを見てきました…。それなのに…私の言葉より、最近現れたばかりのその平民の女の言葉を信じるおつもりですか…!?どうして…」
ルカルドが冷たい声でロレッタを睨むと、ロレッタの目からは溢れんばかりの涙が流れていた。
ロレッタは涙を浮かべながら必死にルカルドに訴えかけた。
しかしそんな姿を見せてもルカルドは一切動じることは無かった。

「……どうして、か。ロレッタ嬢、俺は君がずっと苦手だった…。その理由が君には分かるか?」
「……っ…」
ロレッタはその言葉に心当たりがあるのか、気まずそうにルカルドから視線を逸らした。

「君はいつだって自分の事しか考えていないからだ。他人を平気でおとしいれて、傷つけてもなんとも思っていない。そしてそれを平然と何度も繰り返している…。俺が何も知らないとでも思っていたか?」
「…それの何が悪いんですか?私より劣っている人間を排除するのは当然のこと…。ルカルド様のお手を煩わせない様に私が動いて差し上げたのです。一体何がご不満ですか?」
ロレッタは不思議そうに答えた。

「ロレッタ嬢、君は自分が何にも劣らない人間だとでも思っているのか?」
「はい、少なくとも…ここにいる中ではそう思っています。だからルカルド様の婚約者には私が相応しいと…。私は家も公爵家ですし、幼い時から良い教育も受けてきました。そこにいる平民の方とは比べるまでもないです」
ロレッタは悪びれた様子もせず、私をちらっと一瞥して当然の様に答えた。
その言葉を聞いたルカルドは呆れた様に溜息を漏らした。

「Aクラスにも入れていないのに、劣らない人間だと…そう答えるのか…」
「そ…それはたまたま魔力には恵まれなかっただけで…、でも私は紛れもなく公爵家の人間です。魔力なんてなくたって大した問題ではありません…」
ルカルドの言葉にロレッタは少し動揺を見せ始めていた。

「都合の良い言い訳だな。でも君はもうじき公爵家の人間ではなくなる。君から爵位を奪ったら…一体何が残るんだろうな…」
「……酷いですっ…!私がこんなにもルカルド様に尽くしてきたのに…、あの邪魔な平民の女も始末してさしあげようとしたのに…。全てルカルド様の為に…!」
ロレッタは反省する素振りすら見せることは無かった。
自分がしたことは全て正しいと本気で思っている様だった。

「今度は俺に責任を押し付けようとするつもりか…?どこまでも身勝手な人間だな…。俺はそんな君の事を心底軽蔑するよ」
ルカルドは冷たい声で、そう言った。

「は…ははっ…、そう…ですか。仕方が無い…、こうなったらもうこの手を使うしかないわね…」
ロレッタは突然笑い出した。
その姿を隣で見ていた、メアリーとシルヴィアは青ざめた顔をしていた。

「ああ、あの時…閉じ込めるだけじゃなくて…始末しておくべきだったわ…。ルカルド様が目を覚まされる様に、私が…そこにいる悪女を消して差し上げます…。そしたらルカルド様も私の思いに答えてくださるはずよ…」
ロレッタは狂気に包まれた様な顔で不気味に笑うと、突然強化魔法を自分にかけ始めた。

(まさか…この教室で魔法を使うの…?)

「死にたくない人達は、さっさと出て行きなさい。ああ、シンリーさん…貴女だけは絶対に逃がさないけどね…」
「……っ…」

「ロレッタ嬢、何を考えてる!?」
「ルカルド様…逃げてください!ロレッタ様は禁魔法書を持ち出しました…」

教室にいた生徒達はその言葉に騒めき始めた。
一部の者は教室から慌てて出て行った。


「本当に、どこまでも迷惑な女だな…。校内で魔法を使うなんて正気の沙汰とは思えないね」
入口の方から落ち着いた声が響いて来たので、視線を向けるとそこにはロベルトの姿があった。
隣には私達の担任のシモンズの姿もある。

ロベルトは慌てる素振りも見せずに教室の中に入ってくると、ロレッタの前に来て何かの魔法を使った。
するとロレッタのかけた魔法はすっと消えていった。

「……!?」
「一時的にこれで君は魔法を使えない。無効化させたからね…」
ロレッタは慌てる様に再度魔法を発動させようとするも全く反応が無い。

「ロレッタ・フランシス…。君は何か勘違いをしているようだね」
ロベルトはロレッタに近づくと耳元で何かを囁いている様だった。
その言葉を聞いたロレッタは目を見開き、驚いて言葉も出せない様子だった。
そしてずるずるとその場に力なく座り込んでしまった。

「ルカルド王子…、ここまで騒ぎを大きくしたのは君の所為でもあるということを忘れないで欲しいな。シンリーを何度も危険に晒したことは許せないけど、守ろうとしてくれた事には感謝する」
「……申し訳ない…」
ロベルトの言葉にルカルドは苦しそうな表情を見せて、頭を下げて謝っていた。

「シンリー、無事で良かったよ」
ロベルトは私の方に視線を向けると、傍までやって来てほっとした顔で私を見つめた。
そして頭を優しく撫でてくれた。

幼い頃に私に良くしてくれていたみたいに…。


「ロレッタ・フランシス、君は今日を持ってこの学園から去ってもらう。今日の騒ぎの事もしっかり報告させてもらう。メアリー・アボット、シルヴィア・アレンス…君達も一緒に来てくれ」
「……はい」
シモンズがそう言うと、シルヴィアは小さく頷いた。
メアリーの表情は曇ってはいたが、納得している様子だった。

ロレッタはその場から立てずにいると、後からやって来た王都からの使者によって立たされ教室から連れ出された。
教室を出るまでロレッタはルカルドに視線を向けていた様だが、ルカルドは一切ロレッタとは視線を合わせることは無かった。

これで本当の意味でロレッタの件は解決したようだ。

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