【本編完結】 婚約破棄された令嬢は自由に生きたい!(R18)

Rila

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18.新しい生活の始まり④

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 部屋の中に入ると、私は再び言葉を失った。
 淡いパステルピンクの絨毯に、壁紙も同色で。
 家具は白色で揃えられているのだが、全体的にふんわりとした可愛らしいものばかり置かれている。
 角がないというか、丸みを感じた作りのものが多い。
 幼い頃に絵本で読んだ、可愛いらしいお姫様の部屋のイメージそのものだった。
 
「リリア様、お部屋はご満足して頂けましたか?」
「凄く可愛い!」

 少女と言うほど若くはないが、私は興奮していた。
 幼い頃、こんな部屋で過ごしてみたいと本気で思っていたからだ。

「気に入って頂けて良かったです。きっと殿下もさぞ喜ばれる事でしょう」
「え? もしかして、この部屋を考えたのって……」

「はい、殿下です。厳しい方なので、一切妥協は許さない。ここまで作るのに数年かかりました。十数回は作り直しましたね」
「……そんなに」

 アレクシスは、実は可愛いもの好きなのだろうか。
 想像してみようとしたが違和感しか無く、思わず渋い顔をしてしまう。

(全くイメージ出来ないわ)

「リリア様、そちらのソファーに座ってください」
「はい、失礼します。すごい、ふわふわ」

 中央に置かれている真っ白なソファーに座ると、柔らかい素材に包まれ体が沈み込んでいく。

(なにこれ、すごくいいかもっ!)

 普段なら人前では背筋を伸ばして淑女らしく見せなければならないのだが、そんなことを忘れてしまいそうな程、気持ちが良かった。
 油断すると気の抜けたような、ため息が漏れてきてしまいそうだ。

「少しでも力を抜けるようにと、素材から殿下が選ばれました」
「アレクシス様が? でも、ただの友人の私にどうしてここまで……」

「友人……?」

 私の言葉にサリーは不思議そうに顔を傾けていた。

「リリア様は未来の……「サリー、突っ立っていないでお茶の準備をしてちょうだい」」
「あ、申し訳ありません」

 マリーはサリーに向けて鋭い視線を向けると、言葉を遮るように答えた。
 サリーはビクッと体を震わせて、慌てるようにしてお茶の準備を始めた。

(どうしたんだろう……)

「奥のクローゼットには、普段お部屋で着られるお召し物が数点用意してあります。ご希望のものが他にあれば直ぐに作らせますので」
「あのっ、服なら何着か持ってきたので大丈夫です」

 私は居候になる身だ。
 そこまで厄介になるわけにはいかないと思い、すぐさま答えた。
 するとマリーは困った表情を浮かべる。

「そうでしたか。ですが、クローゼットに入っている服は全て殿下が選ばれ作らせたものです。無理にとは言いませんが、もしリリア様がお召しになって頂けたら、きっと殿下もお喜びになるはずです。出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ありません」

 私はここに来る前から、いくつかの違和感を覚えていた。
 今考えてみれば、全てが出来過ぎているような気さえする。
 過剰なほどの振る舞いもその一つだ。

 婚約破棄された日に偶然アレクシスに会って、家を出ることにまで協力してくれた。
 一人になった私をこの屋敷に連れてきてくれて、暫くの間住まわせてくれると言うが、こんな特別な部屋まで用意してくれているなんて夢にも思わなかった。
 しかも私のために作らせたと言う。

 絶対に何かがおかしい。
 全て偶然で繋がったと言うよりは、こうなることが最初から分かっていたと考えた方が納得出来てしまう。

 だけど何のために?
 私はアレクシスにとっては弟の婚約者であり、友人の一人だ。
 特別な人間でもないのに、この待遇は常識を外れている。

 そんな風に考えると少し怖いと感じてしまう。
 ここまで親切にしてくれるのは有り難いが、度を超えた親切は逆に別の思惑が隠れているのではないかと変に勘繰ってしまう。
 だけど平民落ちになった私に近づくメリットなんて思いつかないし、理由が分からないからこそ不安になる。

 私が表情を曇らせていると、机の上に並んでいるカップにお茶が注がれる。
 ハーブの優しい香りを感じて、私は頬を緩ませた。

(考えすぎ、よね……。もう余計なことを考えるのはやめよう)

「お疲れのようですね。こちらのハーブティーには心を落ち着かせる効果もありますので、宜しかったらどうぞ」
「ありがとう」

 サリーが注いでくれたカップを手に取ると、一口喉に流し込んだ。
 爽やかな酸味と、ハーブの香りが鼻から抜ける。
 乾いていた喉が潤い、そして温かい液体が体内に取り込まれていくことで、思わず深く息を吐いてしまいたくなる程ほっとしていた。
 ずっと気の抜けない展開が続いていたので、気疲れしてしまったのだろう。
 安心し始めたら、急に強い眠気に襲われる。

 体が良い感じに温まり、頭の奥がふわふわと浮くような感覚。
 余りの眠気に、重く感じる瞼を開けていることが出来ない。
 ここは現実なのか、夢なのか、分からなくなるような微睡みに堕とされていく。

(気持ちいい……)

 柔らかなソファーに背中を預け、眠りの世界へと入っていくのだが、僅かに残る意識の奥で話し声が頭の奥に響いてくる。

「眠ってしまわれたみたいです」
「サリー、薬の分量間違えた?」

「え? 言われたとおりの量しか入れていませんっ!」
「まあ、随分お疲れのようだったし? 僅かな量でもすぐに効いたってことなのかしらね」

(薬……? なん、の……はな、し?)

「可哀想なリリア様……」
「マリー、そんなこと言っていいの?」

「良くはないけど、今あの方はいらっしゃらないわ」
「そう、だけど……」

「リリア様にとって、ここは箱庭という名の監獄。いえ、鳥籠と言った方が正しいのかしら。わざわざこんな悪趣味な形状の建物にしたのだから、あの男は」

(とり、か……ご……?)

 話し声も徐々に遠くなっていき、そこで完全に意識と切り離された。
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