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19.今の二人の距離感①
しおりを挟む「……ん」
ゆっくりと意識が戻ってきて、私は徐に瞼を開いた。
なんとなく視線をそこら辺に巡らせてみるが、見慣れない部屋であることはすぐに理解出来た。
何故ここにいるのか、寝ぼけた頭で考えてみる。
(ここ、どこ……?)
次第に意識がはっきりとしてくると記憶も蘇り、ハッとして勢い良く上半身を起こした。
全てを思い出した瞬間、眠気も一気に吹き飛んだようだ。
(ここってアレクシス様の屋敷だった。私いつの間に寝ちゃって……)
来る時はドレスを着ていたはずなのに、締め付けられているような感覚はない。
視線を自分の体の方に向けると、白くてふわふわな可愛らしいナイトドレスを身に纏っていた。
恐らく私が眠ってしまった後に、双子の使用人が着替えさせてくれたのだろう。
私はベッドから抜け出すと、室内の様子を探るために歩き始めた。
昨晩はここに来てすぐに眠ってしまった為、この部屋を見て回ることが出来なかった。
扉から見て一番奥にあるのが浴場のようだ。
そのすぐ脇にはメイク室やドレスルームが存在している。
昨夜のマリーの言葉を思い出し、大きなクローゼットを開けてみると、中にはたくさんの服が綺麗に掛けられていた。
その多くが、柔らかい色でふんわりとしたイメージの可愛らしい服だった。
普段の私は、このような服を好んで着たことはない。
いつも落ち着きのある色で、目立たないものばかり着ていたからだ。
私にはこんなに可愛らしい服は似合わないと思っていた。
だけど、憧れはあった。
私は興奮気味に何着か手に取っていた。
(うわぁ、これ凄く可愛い……!)
誰の気配も感じなかったが、私は辺りをキョロキョロと見渡して人がいないことを確認する。
そして服を持ち、鏡の前へと移動した。
「ここにある服って、着てもいいって言ってたよね。……誰もいないし、ちょっとだけなら大丈夫、だよね」
私はドキドキしながら、一番気になっていたパステルピンクのワンピースに袖を通した。
ふんわりとしたシルエットで、フリルがとても可愛らしい。
鏡の中に映る自分の姿に満足し、表情が緩んでいく。
(か……、かわいい! どうしよう、こんな服を着れる日が来るなんて思ってもみなかったよ!)
私は童心に返ったかのように、一人ではしゃいでいた。
そんな時、奥の方でトントンと扉の叩く音が聞こえた。
「リリア様、お目覚めでしょうか?」
「……っ!?」
ハッとして我に返るものの、突然の来客に戸惑ってしまう。
誘惑に負けてこの服を着てしまったことに、罪悪感を覚えていたのかも知れない。
(ど、どうしようっ……)
「失礼しますね」
この短時間では着替え直すことも出来ないので、諦めてこのまま扉の方へと向かった。
私が移動している間に、扉が開き奥から使用人が入ってきた。
「あ、お目覚めでしたか」
「えっと、マリーさん、おはようございます」
「あの、私はサリーの方です」
「ごめんなさい」
「あ、謝らないでくださいっ! 見分けが付かないですよね。この首のチョーカーに付いている、リボンの色で判断して頂ければ分かりやすいと思います。私は青色ですが、マリーは赤色のものをつけていますので」
「たしかに、それなら分かりやすくて助かります」
本当にそっくりなので、簡単な方法で判別出来るのは正直ありがたい。
私はほっとして、へらっと笑って見せた。
「その服、来てくださったんですねっ! すごくお似合いです」
「ご、ごめんなさい。勝手に……」
「どうして謝られるのですか? この部屋に置かれているものは全てリリア様のものですので、好きなものを身につけて頂いて構いません。寧ろ着て頂ければ殿下の機嫌も良くなるので、私達も嬉しいです」
勝手に着てしまった訳だが、そんな風に言われるとそれはそれで困ってしまう。
「リリア様がここに来た時に着てらしたドレスは、こちらの方で処分致しますね」
「え?」
サリーは思い出すかのように呟いた。
私は『処分』という言葉に耳を疑った。
「処分って……」
「もしかして、大切なものでしたか?」
「そういうわけではないけど。あのドレスは売って換金しようと思っていたので」
「ああ、そうでしたか。それならばこちらの方で買い取ります。お持ち頂いたお荷物も……」
サリーの言葉を聞きハッとして、私は持ってきた鞄を慌てるように探し始めた。
生憎昨晩の記憶はあまりなく、どこに置いたのか覚えていない。
(どうしよう。あの中には大切なものがあるのに……!)
「リリア様、どうなされましたか?」
「あのっ、私の鞄知りませんか? 昨日持ってきた」
「ああ、それでしたらそちらの机の上に……」
サリーの指さした先に目的のものを見つけ、私は足早に移動した。
鞄を手にすると急いで開き、中身を確認する。
そこには掌に収まる程のサイズの、ウサギのぬいぐるみが入っていた。
(良かった……)
ものに執着するような人間ではないが、これだけは違う。
私はぬいぐるみをぎゅっと胸の中に抱きしめた。
「大切なものなのですね。ご安心ください。リリア様の大切な物を奪ったりはしませんから」
サリーは困ったように笑っていた。
私は勝手に処分されたのだと勘違いしていたようだ。
今の私の行動を見て、きっとサリーは嫌な気分になったに違いない。
「ごめんなさい」
「どうして謝るのですか?」
「えっと、それは……」
なんて答えようかと迷っていると、突然サリーが「あっ!!」と叫び出した。
驚いて私の体はビクッと震えた。
「リリア様、大切なことを伝え忘れていました。先程、殿下がこちらの屋敷に戻られました。折角なので一緒に朝食をと申されていますが、如何なさいますか?」
「アレクシス様が……? い、いきます!」
私はかなりの間、寝ていたのだろうか。
だけどサリーは『朝食を』と言っていたのだから、今は朝なのだろう。
昨日夜遅くに帰って行って、こんなにも早く戻って来るなんて予想外だった。
「服はそれでいいですね。綺麗にしますので、奥のメイク室に」
起きて早々、こんな展開になるとは予想していなかった。
もう来ているのであれば、待たせるわけにはいかない。
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