【本編完結】 婚約破棄された令嬢は自由に生きたい!(R18)

Rila

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29.変化①

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 私がアレクシスの屋敷に来てから半年の月日が流れていた。
 ここに連れて来られてから、私は屋敷の外には一度も出ていない。
 必要はものがあればすぐにアレクシスが用意してくれるし、そろそろ職を探したいと話せば、屋敷の中で出来る仕事を用意された。

 庭園の中に錬金術の工房があって、私は毎日そこで学びながら薬を作っている。
 私が作った薬はそのまま騎士団の方に流れ、納品した分のお金が手元に入ってくる。
 材料については全て王宮の方で用意してくれているようなので、素材を取りに行く手間もないし、費用もかからない。
 私は宮廷薬師に憧れていたので、願ってもない有り難い話だった。
 こんな素敵な仕事を用意しれくれたのだから、感謝の意を込めて私なりに頑張っている。

 そして今の私とアレクシスの関係は、恋人のようと表現するのが一番しっくりくる。
 キスやハグなどのスキンシップは日常的に行っているし、屋敷にいる時はいつも傍にいてくれて、『愛してる』と何度も囁いてくれる。 
 お互いの気持ちが通じ合っていると私は信じている。

 だけど、公に私達の関係がどうなっているのかは正直分からない。
 私はここに来てから一度もこの屋敷を出ていないし、外の情勢も殆ど知らされていない。

 しかし、以前と比べたら考えられないくらい幸せで、自由にのびのびとした生活を送っている。
 だからこの暮らしに不満を持ってはいない。
 元々人付き合いはあまり得意な方では無かったので、一日中部屋に閉じ篭もっていても苦痛を感じることは無かった。

 アレクシスは現在屋敷を不在にしている。
 騎士として2週間程遠征に出ていて、今週末には戻ってくる予定だ。
 これが騎士としての最後の仕事になるとか、ならないとか……、そんな話をしていた。
 現在はまだ王太子ではあるが、騎士団を退くのと同時に王位継承権を破棄するそうだ。
 廃太子にはなるが、国のために多くの功績を上げたことで、新たに公爵位を賜ることになっているらしい。
 強大な魔力を持つ、言わば国の宝と言うべくアレクシスを手放したくはない、というのが王家の本意なのかもしれない。
 その後は表舞台から去り、裏からこの国を見守っていくつもりだと言っていた。

 始めてこの話を聞かされた時は本当に驚いた。
 だけどアレクシスはずっと前から、そうすることを望んでいたようだ。
 彼も私と同じで、自由になりたかったのかもしれない。
 

***


「リリア様、そろそろ休憩にしましょう」
「そうね」

 中央のテーブルには焼きたてのお菓子と、お茶が並べられていた。
 甘い香りを深く吸い込むと、それだけでほっとした気分になれる。

「今日こそは、サリーも一緒にどう?」
「いえ、こちらは全てリリア様の為に用意したものです」

 半年もの間、常に傍にいてくれるサリーとはそれなりに仲良くやっていた。
 いつ誘っても、こんな風にさらりと断られてしまう。

「今日は頑張っているリリア様の為に、ベリーパイを焼きました」
「サリーが作ったパイは絶品なのに。こんなに美味しいもの、本当に食べないの?」

 私は『勿体ない』と言わんばかりに残念そうな顔を浮かべ、じっとサリーのことを見つめていた。
 だけど彼女は迷うこと無く、当然の様に頷いた。

「はいっ」
「…………」

「もしかして、サリーは果物は苦手だったりする?」
「そんなことはありません。どちらかと言えば好きな方です」

 いつも私の部屋には果物が用意されていて、いくら私が勧めても拒まれるし、食べている所を見たことがない。
 だけど、食事は別の所でちゃんと取っているようだ。
 
 彼女は本当に何でもやってくれる傍付きだ。
 そして、ここに来てから出合う人物は限られている。
 サリーとマリー、そしてアレクシスの三人だけ。
 初日に入り口で執事と会ったが、あれっきり姿を見ていない。
 アレクシスと屋敷の方で食事をした時も、傍には見慣れた二人の姿しか無かった。

(私が人付き合いが苦手だと思って、アレクシス様が極力会わせないないようにしてくれているのかな)

 そうなればサリーの負担はかなり大きくなっているはずだ。
 無理をしていないのか、少し心配になってしまう。

「サリー、私はもう貴族ではないのだしそこまで気を遣ってくれなくても大丈夫よ。出来ることは極力自分でやるし。これからのことを考えても、それがいいと思うの」
「え……? そんなの絶対にだめです! そんなことをしたら、アレクシス殿下に怒られてしまう……」

 サリーは焦ったように顔を横にぶんぶんと振って否定した。
 私は思わず困った顔を見せてしまう。

「大丈夫。アレクシス様には私の方がから伝えておくから。サリーも色々と大変でしょ?」
「そんなことありませんっ! 私なんかのことを、気に掛けて頂きありがとうございます。ですが、殿下にとってリリア様は何よりも大切なお方です。私の為だとおっしゃるのであれば、今まで通りでお願いします」

 サリーはアレクシスに仕える身なので、そう答えても何ら不思議はない。
 私だって、誰かに大切に思ってもらえることは、素直に嬉しいと感じている。
 
 だけど、これ以上甘えてばかりもいられない。
 ある程度の資金が貯まったら、そろそろここを出て一人で生きていこうと考えていた。

 アレクシスとの関係は、私からみたら恋人に近いものだと感じているが、彼から将来の話をされたことはない。
 以前『王太子妃にする気は無い」と言われた。
 その時には既に王位から降りる考えがあって、そのように言ったのかも知れない。

『好き』とか『愛してる』という言葉は沢山くれるけど、婚約や結婚についての話はされない。
 それがどういうことを意味しているのか、私は気付いていた。
 私はアレクシスのお気に入りで、囲われているだけの存在。
 私自身もそれに満足していた。
 ただ傍にいられたら、それだけで幸せだと思っていたし、それでもいいから一緒にいたかった。

 今後、アレクシスに婚約話が持ち上がったとしたら。
 私ではない、別の女性と結婚することになってしまったら。
 その事実を受け止められる自信が私にはない。
 それ程までに今の私はアレクシスに心を奪われてしまっている。
 人並みに嫉妬もするだろう。
 だからこそ、醜い姿を見せて嫌われることが何よりも怖いのだと思う。

 彼が公爵になったとしても、王家との繋がりは今後も続いていくことだろう。
 そして当然、私は彼には相応しくない人間。
 それが分かっているから、こうやって私の存在を隠すように屋敷に閉じ込めているのだろう。
 今はまだ幸せに思えているけど、それが長く続くとは限らない。
 
 長い間一緒にいれば、それだけ別れも辛くなるはずだ。
 だから、なるべく早くこの屋敷から出て行こうと考えている。

 しかし、早速問題が生じた。
 私の生活圏は、屋敷の中央に位置しているこの庭園のみだ。
 この中には私の部屋や工房などがあり、屋敷の建物には殆ど近づいたことがなかった。

 この前、屋敷の方へ向かおうとしたら、扉には鍵が掛けられていた。
 サリーに勘付かれないように適当に理由を付けて王都に行きたいと話したら、アレクシスが戻って来るまでは危険だからと言われ止められてしまった。

 ここに来る前は普通に王都に買い物にも行っていたし、危険でないことは分かっている。
 アレクシスは過度の心配性であるから、そう言うのだろう。
 サリーを困らせてしまうのは可哀想に思い、その計画はとりあえずやめることにした。

 そして最近私の体調にも変化があった。
 恐らく仕事に夢中になり過ぎたせいだとは思うが、体が少し重く感じる。
 体に熱が溜まっているような感覚で、とても気怠い。

 それから、たまにすごい眠気に襲われる。
 そこからの記憶はぷつんと途切れ、目覚めるとベッドの上だったということが何度かあった。
 それはここ最近の出来事だ。

 こんな状況では外に出ることも難しいし、アレクシスが戻ってくるまでは大人しく待っていた方が良いのかも知れない。
 出て行こうとは思っているが、なるべく心配はかけたくなかった。
 
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