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68.胸騒ぎ②
しおりを挟む私が一息付いていると、アレクシスが席を立ち上がった。
「リリア、すまない。少しだけ席を外すよ。先に陛下に挨拶だけして来る。もううるさい人間は来ないと思うから、安心して待っていて」
「え……」
突然のことに私は戸惑ってしまう。
アレクシスがこの部屋から出て行くと言うことは、ここにいるのは私とマリーの二人きりになってしまうということだ。
アリスからあんな話を聞いてしまったことがあり、私は困惑を隠せずにいた。
「どうした? 私と離れたくないのか? 可愛いな」
「ち、違いますっ……」
そんな風に言われ恥ずかしくなり、私は頬を染めながら咄嗟に否定した。
「直ぐに戻るから、少しだけ待っていてくれるか?」
「はい。待っています」
私が小さく答えると、アレクシスは「リリアはいい子だな」と言って、額にそっと口付けた。
突然のことに更に私の頬は熱を持ち始める。
「本当にリリアは直ぐに顔に出るな。こんなに可愛い顔は、やっぱり他の人間には見せたくないな」
「もうっ、早く行ってきてくださいっ!!」
私が急かすと、彼はふわりと笑い「行ってくるよ」と言って部屋を出て行った。
そして彼がいなくなったことで、この部屋には私とマリーの二人きりになってしまう。
私が黙っていると、当然室内は沈黙に包まれる。
意識し過ぎているせいか、余計に緊張してきてしまう。
私の鼓動はドクドクと揺れているようだ。
「リリア様」
「ひっ……!」
突然名前を呼ばれ、私は驚いて変な声を上げてしまう。
「リリア様……? どうされましたか?」
「いえ、なんでもありませんっ……。少し考え事をしていて……」
「そうですか。お茶のおかわりを淹れますね」
「あ、ありがとう……」
私は一人で動揺していたが、マリーはいつも通り落ち着いた様子でカップにお茶を注いでくれた。
「リリア様、実は私……サリーなんですっ」
「え……?」
突然の言葉に私は驚いて顔を上げた。
私が驚いた表情を浮かべていると、彼女は小さく微笑んだ。
「屋敷を出る時にマリーと入れ替わっているんです。このことは勿論、アレクシス様はご存知ですよっ」
「どうして……?」
「ずっとリリア様のお世話をしてきたのは私です。なので、私が傍にいた方が、リリア様が安心出来るかなって思ってアレクシス様に提案したところ許可を貰えましたっ!」
「そう、だったんだ……。もっと早くに言ってくれたら良いのに……」
「一応、私はここではマリーと言うことになっているので、周囲に変に気付かれたらまずいと思って……。だからこのタイミングで伝えることになってしまいました。ごめんなさいっ」
サリーは泣きそうな顔で謝ってきたので、私は慌てるように顔の前で手を振って「謝らないで」と返した。
するとサリーは「ありがとうございますっ」と嬉しそうに微笑んでいた。
今の笑顔もそうだが、いつも飲んでいるお茶の味と同じだったので、間違いなくここにいるのはサリーなんだと確信した。
そのことを聞いたおかげで、私の心は平穏に戻っていった。
(そっか、サリーだったんだ。良かった……)
マリーには悪いけど、今はサリーが傍にいてくれて良かったと思ってしまう。
少なくとも式の間は余計なことに気を取られないで済みそうだ。
私は安堵すると、再びカップを手に取りお茶を一口喉に流し込んだ。
ゴクンと喉に流し込むと、直ぐに違和感を持った。
(あれ……? さっきの味と少し違う……?)
普段から飲み慣れている味だから、微妙な変化にも気付いたのだろう。
それから間もなくして、私の体に異変が起こった。
「……うっ……」
喉の奥が焼けるように熱い。
そして苦しくて息が上手く出来ない。
私はカップを手から滑らせてしまう。
そして喉の辺りを手で押さえる。
「即効性とは聞いていたけど、もう聞いてきたんだ。さすが魔女の秘薬……」
「……さ、りー……?」
私は声を絞り出すように出した。
「リリア様って本当に隙だらけ。心配になるわ……」
サリーは間違いなく私が苦しんでいることに気付いているはずだ。
だけど、その声はどこか弾んでいて愉しそうにも聞こえてくる。
(サリー……、なん、で……?)
「リリア様。安心してくださいねっ。殺したりなんてしません。今飲んだのは毒ですけど、致死量は入れてないのでご安心くださいっ」
(ど、く……?)
「暫く苦しいかもしれないですけど、少しだけ我慢してくださいね。時間も無いし、抵抗されると面倒なので」
「さ、りー……ど……して、こん、なっ……」
私は息苦しさを感じながらも、必死に言葉を繋げていった。
体は鉛のように重くて、逃げることは出来なさそうだ。
「説明するのは長くなるので、完結に言わせて貰うと……、私ずっとリリア様のことが嫌いでした」
サリーはにっこりと微笑みながらそう言った。
瞳の奥が笑っていないことに気付くと、ぞくりと全身に鳥肌が走る。
目の前にいる彼女は、私の知っているサリーではなかった。
それだけは分かる。
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